表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/108

行く先は――

 端的に言うと、異界の門が開いた。

 そこまでの行程、俺を含む誰もが立ち尽くしていたであろう。


 血でドス黒く染まった魔法陣は、赤い煙を上げ、天空を一気に染める。


 ピキィ、そんな音を立てて空間が割れ、空には大きなヒビが出来ていた。


【レイヤァァァァァ!!!! 閉じろ!! 閉じろォォォォ!!!】


 エクスカリバーのそんな声がどこかから聞こえた。

 必死な声。


 閉じるって、どうやって?


「クハハハハハハハ!!! 魔神の復活だ!!!」


 シルディアの高笑いが空から聞こえてきた。

 まだ生きてたのか。


「レイヤ!! 閉めろ!!」


 ブルーダインの声も。

 俺は今一度空を見上げる。


 天上のヒビは音を立ててどんどん広がっていき、やがてそれは“門”の形へと形成されていった。

 当然、でかいなんてもんじゃない。


【早く!! 早くしろ!!!】


『人間!! お前しかいない!!』


 しかし時はすでに遅かった。

 門が、開く。


 まず、その隙間から感じ取れたのは、異臭だった。

 臭いのではない。


 気持ち悪い。

 とてつもなく気持ち悪い臭い。まさにこの世のものではないものだった。

 そして、その隙間から覗いたのは。


 ギョロ。

 目だった。


 うそだろ?

 でかいなんてもんじゃない。あれが目だとすると、50mはくだらないでかさだ。


【間に合う!! まだ間に合うぞォォ!! レイヤァァァァァ!!!】


 うるさい。


「閉じない!!」


 分かってんだろ?

 もう手遅れだ。倒すしかない。


 ゴォと、扉が開いた。

 そこから伸びた手が、ブルーダインを押しつぶした。

 唐突だった。


「な……っ! ブルーダイィィィーン!!」


 巨大な、真っ赤な手が退けられる。

 当然、そこにはブルーダインが倒れていた。


「ベポマ!!」


 ブルーダインの傷を全て癒やす。


「……助かった。すまないレイヤ。」


「よ、良かった……」


 ブルーダインが生きてて一先ず息を吐いたが、現状かなりやばいことに気づいた。


 伸ばされた手はまたズルズルと扉の中に戻っていく。

 そう、まるで蚊がいたから叩いたかのような、そんな感じだった。


「ダメだ……、世界は滅ぶ……」


 見上げると、扉はもう全開だった。



 ――俺は創造する。



「なっ……」


 赤い巨体。飛び出した眼球。

 “それ”は、のっそりと体を引きずって上半身を扉の外に出していく。

 もう頭は扉から完全に出ていて、胸の辺りまで見えている。


『ゴォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!』


 大気が揺れた。

 大地が揺れた。

 海が揺れた。

 世界が揺れた。



 なんだよあれ。


「…………くっ」


 絶望した表情のブルーダイン。


 なんだよあれ。

 あんなのって……。あれって。


『ゴォォォォォォォォォォォ!!!!』


 魔神、二度目の咆哮。

 それによって空を羽ばたいていた竜達は吹き飛んだ。

 ゴゴゴゴ、とまるで漫画の効果音のような音がリアルで聞こえてくる。


「……マジかよ」


 俺はそれを見て思わず呟いていた。無理もない。だって、あんなのさ。

 ありえないって思うじゃん?



 そして。


 ドゴォォォン、と。

 そんな音だった。


 大地が激しく揺れる。


 爆音。爆発。粉砕玉砕大喝采。


 魔神の頭が、炸裂した。

 いや、炸裂したかは分からない。だが、確かに着弾したのはわかった。


「今のは……なんだ?」


 ブルーダインが口を開く。

 何が起きたか知っているのは、ただ一人。

 俺だ。


「俺、隕石創造しちゃった」


 そう、魔神の後頭部に俺の創造した隕石(メテオ)がクリンヒットしたのだ。


「すまんレイヤ、……もう一回言ってくれ」



 なんていうかさ。


「やっぱり最強なんだ、俺」



『ゴォォォ……』


 魔神の悲鳴にも取れるような声が聞こえてきた。

 生きてるのか。


「ちょっと魔神ノしてくるわ」


 それだけ言って、俺は地を蹴った。

 向かう先は勿論魔神の元。


 俺は煙を気合で吹き飛ばすと、魔神の顔の前に立った。

 後頭部に隕石からの激しいツッコミを受けた魔神は、頭を押さえて唸っている。

 どうやら痛覚はあるらしい。

 しかし今ので死なないのは流石に魔神というかなんていうか。


 とりあえず魔神に話しかけてみよう。

 言葉は通じるだろう。まとも話ができる相手かもしれない。

 最初のコンタクトは失敗したけど、ブルーダインを潰したお前が悪いんだぜ?

 いや、普通に考えたら話ができないからブルーダインを潰してきたのか。

 まあいい。


「やあ魔神」


 魔神は俺の言葉に、勢い良く首を持ち上げた。

 そして俺をその巨大で気持ち悪い目でナメ回すように見渡した。


『……言葉が分かるのか』


「分かるよ」


『……啓いたのはお前か』


「それは違うな」


『そうか。ならば神の使いか』


「……!」


 神。もしかして、あの神様のことだろうか。

 俺を転生させた、神。


『その様子だと、理解って無いのか』


「どういう意味っすかね?」


『お前は余の復活を止めるためにここにいる。だが、余は復活した。

 つまり、失敗したのだ』


「……」


 何を言ってるのかさっぱり。

 失敗したってそんなの。


『神もがっかりだろう。先ほどのようなチカラを与えられながら、まさか失敗されるとは』


「ごめん、何が言いたいの?」


『お前の存在価値はもうない。今一度死んで、土に還るといい』


「てめぇこそ引っ込め!!」


 俺は某一方さんの黒い翼を展開した。


 そして拳を魔神の額に叩きつける。

 魔神の巨体が吹き飛んだ。異界の奥へとぶっ飛ぶぶっ飛ぶ。てか中は視認できねーな。


 ま、いくら魔神といえど地球の自転すら止めるこの能力の前ではこんなもんよ。


 俺は見えない空間に人差し指を向ける。

 そしてその指を一回転させて、クイックイと挑発してみせた。


「こいよ。俺が失敗したぁ? なんで勝った気でいるんですかねぇ?

 俺に負けるかもしんねーだろぉ、えぇ??」


『ゴォォォォォォォォォォォ!!!』


 異界空間から闇の炎が吹き出てきた。


「あっつ!!」


 演算できねぇ!! 知らないものは反射できねぇ!!


『朽ち果てるがいい!』


 魔神の体が異界の門からまた這い出てきた。

 そして口から闇の炎が放たれている。


 フハーバの呪文を使った俺にはさほどのダメージにならない。


『ちょこざいな……!』


 魔神の手が再び振り下ろされる。

 俺はそれに押しつぶされた。


 が。


Aegis(イージス)


 絶対防御のフィールド展開。

 ああ、あっちではやってんのかなぁ。


「いつまで手乗っけてんのよ!!」


 俺は乗せられた手を、まるでラッキースケべに怒るヒロインのごとく自力で吹き飛ばした。


『……この姿では戦いにくいな』


 そんな言葉を残して、唐突に魔神の腕が消える。

 かと思えば、異界の扉から流星のごとく何かが飛来してきた。


 魔神ブ○!?

 それを思わせる姿になった魔神だったが、よく見れば全然違う。

 フォルム的にてめぇは劣ってるよ。


 てか小さくなることもできるんだな。

 今や俺と同じサイズになった魔神は、俺目掛けてパンチを放ってきた。


 それを避ける。すると、魔神の手がまるでゴムのように伸びて、俺の首に巻き付いた。


「ぐぇぇ……!!」


 そしてそのままあちらこちらに叩きつけられる俺。

 やべぇ、これ死ねる……。


 俺は魔神の腕に噛み付いた。

 ガリガリやるが、首が締め付けられて力が入らない。


 クソ……。

 いや? 掴まれてるならこっちから引き寄せてやればいいじゃないか。


 次にたたきつけられた瞬間、俺はその伸びた手を掴んで思いっきり引っ張った。


「オラァ!!」


 こちらまで引き寄せられた魔神の顔面と足を掴む。

 お返しだ!


「オラオラオラオラオラオラ!!!!」


 人間ヌンチャク!!


 魔神の足がタコのように俺の首に伸びた。

 俺は遠心力を利用して魔神をそのまま円盤投げのごとく飛ばす。


 しかし弧を描いて魔神は戻ってくる。

 それを見た俺はその軌道上にオリハルコンの分厚い壁を創造した。


 突然現れた壁に激突して墜落していく魔神。


「ハッハァ!! 俺のペースだぞ魔神さんよぉ!!」


 墜落する魔神の元へ、俺は駆ける。

 魔神がキラリと光った。

 何かと思って目を凝らしてみると、俺に向かって無数の刃が放たれていた。


「うおっ!!」


 刃の隙間を塗って、俺は走る。


「カイオー拳!」


 さらに加速して、俺は魔神の真下に辿り着いた。

 そして真下からの追撃を食らわせようと膝のバネを唸らせていると、そこで魔神が再び巨大化した。


「ちょ……!」


 当然、落ちてくる魔神の背中に潰されそうになる俺。

 いや、俺だけじゃない。近くにいた魔族や竜は潰されたはずだ。


 っ、こいつ!


 地面深くを掘って回避した俺は、そのドリルを使って魔神の体に突貫工事を始めた。

 ズガガガガ、と魔神の肉を削っていく。


 そのまま腹部を貫通して突き抜けると、俺は魔神の額の上に降り立った。


『舐めた真似を……』


「こんなところでお昼寝ですか?」


『ゴォォォォォォォォォォォ!』


 まさか額から火が出るとはね。

 びっくりだよ。


 俺はその場を飛び退くと、今度は近くの岩場に立った。

 するとまたも体を小さくして突撃してくる魔神。

 俺は魔神がこっちに到達する前に、パチンと指を鳴らした。


 バコン、と破裂する魔神の腹。

 ええ、さっき爆弾埋めてきましてね。


「あらあら、お腹全開にしちゃって……。ポンポン冷えるよ?」


 魔神の腹が再生していく。

 そして魔神がギリっと俺を睨んだところで、俺はまた指を鳴らす。

 バコンと展開される魔神のポンポン。


「一個だけなわけないじゃん!」


『舐めた真似を……!』


「そのセリフ二回目ェ!」


 俺はケツを二回叩いてから飛び立った。

 当然、追いかけてくる魔神。


 俺は逃げに加速するフェイクをかけて、ムーンサルトを放った。

 それが魔神の後頭部にまたもクリンヒット!


 地面に向かって落ちていく魔神は、すぐに態勢を整えて上昇してきた。


 最上級魔法。

 ――――地天重吸(グラビティロック)

 100倍だ。


 桁外れの魔力を込められた魔法は、本来とは比べ物にならない威力を発揮する。

 再び地面に落ちた魔神を俺は見下げる。


 さて、終わらそう。


 魔神、やっぱ俺にかかればてめーも大した事ねーよ。

 まあ正直な話をすると、創造の使いすぎで俺実は瀕死なんだけどね。


 まあそれはなんとかなる。


 だけど、そろそろ終わらせないとな。


 俺はティルフィングを空に掲げる。


 切っ先を中心に魔法陣が広がる。

 広がった魔法陣は、刀身を光で包んだ。


 魔神が重力の拘束から逃れるのが見えた。

 俺は息を大きく吸い込む。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 縦に一閃。それは紙のように容易く。


 横に一閃。それはまるで空を斬ったような無感覚。


 一閃、一閃。

 その繰り返し、斬撃の絡み合い。


 

 木っ端微塵になった魔神。


 やってやった。

 

「ふうぅ……」


 落ちていく。

 世界が逆さまだ。


 ドスンと、誰かにキャッチされた。

 反対向きのブルーダインの顔が俺に映る。


「大丈夫か!?」


「ああ、なんとか。他の魔族は?」


「大体は倒した。ほかは逃げたわい。

 それにしてもレイヤお前……」


 そこで俺はあることを思いだす。


「シャーラ……!」


 その事を思い出すと俺はブルーダインの手から降りて駆け出していた。

 あれだけ派手に暴れたから、シャーラがやばい。

 いや、大丈夫だよな?


「シャーラ!」


 魔王城の中に入って、俺はシャーラの名を呼ぶ。

 返事が聞こえない。


 俺は城の中を探し回って、やっとその姿を見つけた。

 瓦礫の隅に立つシャーラの姿を。

 片手にはエクスカリバーを持っている。 


「良かった……、シャーラ」


【レイヤ、シャーラの様子がおかしい……】


「え? シャーラ?」


 俺は焦ってシャーラの元へ駆け寄った。

 そしてその顔を覗き込む。


 するとシャーラは笑っていた。

 いや、そんな清々しい笑みじゃない。

 言っちゃあ悪いが、気持ち悪い。

 そんなにやけ面だった。


「おい、どうしたんだよ?」



「入れたァ……」



 視界が歪む。

 シャーラの手が、俺の心臓を貫いていたのだ。


「かハッ……なっ……!? ……!? ッ!?」


 なんだ? 

 なんだ? なんだ?

 え?

 血?

 息が、あれ?


「べ、ポ……」


 ブレたシャーラの手。

 ゴロンと、世界が下に落ちた。



 あれ? あれって俺の体?

 なんであそこにあるんだろう。

 あれ? 視界が赤くなっ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ