表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/108

やっぱり世界はおれ☆れじぇんど

 それはもう全力で走った。

 全力で走ったよ。


 新幹線? ノンノン。最速のアニキだ。

 ああ、もう見えるぜ。



「だらッしゃァァァァァ!!」


 瞬速の一撃。

 魔王が振り向いたのと同時に、俺はその顔面にパンチを繰り出していた。


 ガッデム、今度はてめぇが吹き飛ぶ番だベイベー。


 ヒットした拳を更に押し込んで、魔王をぶっ飛ばす。

 俺は余った勢いを地面を削ることによって相殺し、その地に再び立った。


「貴様、なぜ……!」


「友情パワーでなんとかなったんだよ」


 割とマジでな。


「そんなふざけたことが……!」


 あるんだよこれが。


 魔王は森の奥から現れた巨体を見て目を見開いた。


「海の王、ブルーダイン……!!

 なぜ陸に……!?」


「ガハハ! レイヤ、存分に暴れろ!」


 行ってこい。そう聞こえた。

 魔王を任せられたんだ。


 俺はブルーダインの言葉に、振り向かず、踏み出すことで答えた。


「海の王とは言え、一人で何が出来る! 眷属共! 奴を殺せ!」


『オオオォォォォォォォォォ!!!』


 魔王の叫びは頭上の咆哮によってかき消された。魔王は天を見上げる。

 竜の大群を俺は見上げない。すでに魔王へ向けて歩き出しているのだ。


「竜種!? なぜこんな時に……!」


 進む俺に殴りかかってきた一体の魔族が、水の波動によって消し飛んだ。

 割れた魔界の隙間から見えるであろう、いかつい魚面を俺は見なくていい。


「太古竜……だと……!!」


 早まる歩調。

 歩いてる。

 いや、走ってる。


 後ろは任せていい。魔王は任せられた。

 俺が倒さないといけないんだろ。

 ああ、分かってる。


 ふざけろ、俺。


「死んだふりでもしていれば良かったものを……ッ!!」


 吹き飛ばされた魔王が気づけば俺に向かってきていた。

 対峙して、お互い止まる。


「なぜ戦う!」


「魔神なんか召喚されたら大変だろ? お前こそなんで世界を滅ぼそうとしてんだよ!」


 打ち合う拳、吹き飛ばされ、吹き飛ばし、その度に言葉を交わす。


「滅ぼす? 違う! 再構築するのだ!

 そのためには人間に圧倒的な絶望をくれてやらなければならない!」


「なんでだよ! 仲良くしろよ!」


「人間は害虫だ! 自然を壊し、種を滅ぼす!

 文明が発達すれば、人間による世界の支配は目に見えている!

 強欲で、狡猾で、醜い。人間とはそういう生き物だ……!

 貴様も見てきただろう!」


 ああ、見てきた。この世界でも、前の世界でも。

 こいつの言ってることは正しい。

 かっこいいこと言って説教したいところだが、できない。


「確かにそうかもしんねぇ……でもなぁ……」


 俺が動きを止めたのを見て、魔王も動きをとめた。


「言い分があるなら聞こう」


「人間が滅んだら俺が異世界を満喫できなくなるだろうが!」


「……は?」


「だからお前をぶっ飛ばす!!」


 ああ、戦うしかないわな。生きるためにあがくのは生き物の本能だろう?

 誰だって死にたくねーよ。


 俺の拳は魔王に受け止められる。

 同時に魔王の拳が俺の顔面に炸裂した。

 脳が揺れる。


 衝撃を入れ替え、俺は地に手を着け蹴りを放つ。

 魔王の右頬に炸裂した俺の蹴り。衝撃と共に轟音が鳴り響いた。


「そうだな。ここまで来て無駄なお喋りも無粋だったか」


「……ああ、その通り……だぜ、魔王さんよ」


 いってぇ……!!

 鼓膜破れてるだろこれ。いてぇぇ……!!


 俺は大ダメージだってのにこいつは……。


「ベポマ」


 ま、全回復なんですけどね。

 

「……」


「ほら、かかってこいよ」


 魔王の最高の攻撃はさっき味わった。

 逆にあれ以上の攻撃がないのならまだまだやれるぜ。


 魔王の巨体が揺れる。

 飛んできた拳を飛んで避け、首元に蹴りを入れる。


 が、まるでベジ○タがセ○完全体に放った蹴りのごとく、ノーダメージの様子だった。

 俺はそこを軸にして、ティルフィングを思いっきり振り抜く。


 魔王はそれを爪で受けた。


透過魔法(ペントレイト)!!」


 剣は爪を通り抜け、魔王の胴体へ向かう。俺はそこで剣の軌道を変えて上に切り上げた。


 ブシャ、と血しぶきがあがる。

 俺の血だ。


 見てみると、魔王の爪が俺の腹部に突き刺さっていた。

 ティルフィングは届いていない。


 血がむせ返り、喉元まで上がってきた。


「げホッ」


 吐いた血が舞う。

 それはパキパキと空中で凍りつき、魔王の元へ向かった。


 魔王はそれを一旦距離を取ることで躱す。


「そろそろカタをつけようか……。貴様は、危険だ」


「そろそろウォーミングアップも終わりですかね?

 これからが本番っすよ魔王さん。

 真面目な戦いは、終わりだ」


 俺は創造する。


 手の中に現れたのはカラーコンタクト。

 再び襲いかかる魔王の拳。

 俺はそれに対して手をかざした。


「あ、ちょっとタイム」


 ピタリと止まる魔王の拳。正直止まるとは思ってなかった。

 警戒して拳を止めたのだろうか?

 まあなんにせよ好都合だ。


 俺はカラコンを中指の上にのせ、左眼に装着した。

 それと同時に襲いかかる魔王の拳。なんで一瞬止まったんだろう。

 そんな疑問を抱きながら俺は吹っ飛んだ。


 俺は空を蹴って反転し、再び魔王に突っ込む。ティルフィングは一旦鞘にしまってある。

 そう、俺に足りてないのは攻撃力だ。


 俺はそのまま立体的に魔王に接近し、拳を差し出すと見せかけて手を目の近くに持ってきて形を作った。


「み、みるくちゃんビーム!」


 放たれる凝集光が、魔王にヒットした。


「ぐぅ……」


 効果ありだ。

 内心まさかのダメージに驚きながらも俺は二発目のみるくちゃんビームを放つ。

 三発、四発。


「かもんれっつだんす!」


 歌いながらちょこまかと動き回りながらみるくちゃんビームをちょこちょこ撃つのは案外楽しかった。

 しかし、俺は魔王の反撃を受ける。


「ハァ!!」


 魔王の気合派によって吹き飛ばされる俺。カラコンもついでに吹き飛んだ。


「ああ!」


 気づけば俺は空気トレックを履いていた。

 これは俺の大好きな漫画、エア・㌐にでてくるローラシューズ。


「ええ!?」


 そう、無意識に創造していたのだ。


「ぬんっ!!」


 俺は魔王の剛撃をひらりと躱す。

 見える!!

 道が見える!!


「ファック!!」


 俺は牙の王様になりきっていた。風を切り、空を掛け、斬撃を繰り出す。

 魔王の体が切り刻まれていく。


 俺は空気トレックを脱ぎ捨て、魔王の背中に回り込む。

 魔王の肘打ちをしゃがんで避けて、足元に払いをかける。


 態勢を崩した魔王はそのまま地に手をつき、後ろに飛び跳ねた。

 その手ににぎられた火球が俺へ向かう。

 その火球はどんどん巨大化していき、森を燃やして俺へと迫った。


「われ紡ぐ! 光の壁!」


 咄嗟に呪文を口にして、俺は両手を広げた。

 前方に展開された障壁が火球を防ぐ。


 俺のバイブルでもあるあの作品を思い出しながら俺はもう一発かましてやろうと手をかざす。


「われ放つ! 光の刃!」


 白い光。衝撃派が魔王を襲い、ふっ飛ばした。


 俺の攻撃はそこで止まらない。

 ティルフィングを抜刀。魔王の元へと駆ける。駆ける。


 傘で幾万回と練習したあの構え。


 俺は放つ。


牙突(がつん)!!!」


 喉元に突き刺す。


「ぐぅ……!!」


 俺は剣を持ち替え、そのままティルフィングを鞘に仕舞い、再び手を添える。


 使わせていただきます、飛天なんちゃら流奥義……。


「天翔虎閃!!」


「ぐぅぅぬぅ……!!」


 吹き飛んだ魔王の腕。

 俺の攻撃は終わらない。


「ふ……ざけ……ッッ!!」


 もっと。


「もっと!」


 もっとふざけろ!


 魔王の腕は再生する。

 べチン、そんな間抜けな音が響いた。

 魔王の目に貼り付いているのは、言わずもなが、こんにゃく。


「目に……」


 俺は某兵長もびっくりの回転を見せつつ、背後に回り込む。

 後頭部より下のうなじにかけての、縦1メートル、横10センチ。


「こんにゃくついてますよ!!!」


 そして切りつけた。


「がぁぁ!!」


 シュタっと着地すると、俺はそのまま地に手を着け、魔王の顎目掛けて発進した。

 頭突きだ。


「ぬぅ……!」


 ゴーンという音。俺の頭にも衝撃。

 俺は倒れゆく魔王の胸に、ティルフィングを突き刺すと、それを掴んで体操選手よろしく大車輪を披露した。


 グリグリと抉られる魔王の肉を見て閃いた俺は創造する。


「なんでも出来ちゃうバッド!」


 手にとったその金棒をティルフィングを抜き去ると同時に投げつけた。

 すぐ後ろの木を蹴って、崩れゆく魔王の真ん前に再び構える。

 俺はティルフィングを斬りつけると思いきや、背を向け拳を後ろに突き出した。


 衝撃。

 

 あの筋肉ライダーも引退を考えるであろうレベルの鉄山靠を、俺はお見舞いしてやった。


 馬鹿みたいな速度でぶっ飛んだ魔王に、更に追撃。


「目からビーム!」


 追撃。

 追撃。

 追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃追撃。


 吹き飛んだ魔王に、俺はこれでもかというくらい追撃を食らわせた。


 倒れる木々。震える大地。逆巻く風。揺れる魔界。



 霞みゆく視界の中で、俺は感じていた。

 ここに俺が居る、と。



 ボロボロになって、木にもたれ掛かるように倒れている魔王の元へ、俺は歩を進める。

 死んではいない。

 だが、まだ生きている。



 俺が魔王の前に立つと、フラつきながらも魔王は立ち上がった。


「なん……なんだ……!!

 なんなんだ貴様はァァァァァ!!!」


 魔王の拳を片手で受け止める。

 そしてそれを引き寄せて、鳩尾に拳を叩き込んだ。


「ごふゥ……、ッ!」


 なぜかは分からない。

 満ち溢れる力がここにある。



「終わりだぜ、分かるだろ?」


 見渡すと、随分派手に暴れたものだ。

 魔界はボロボロになっている。


 ブルーダイン達の方は雑魚敵共を片付け終えただろうか。


「認めん……」


「あ?」


「認めんぞォォ!!」


 今度は顔面に拳を叩き込む。

 木々を押しのけて、魔王城の外壁を貫いて魔王はまたも吹き飛んだ。


 それを追って俺は歩いていく。


 再び魔王の前に立つ。

 ガラリと、瓦礫の中から魔王は這い出てきた。


「終わりなんだよ」


 ティルフィングを振り上げる。

 ここで、やっと俺の異世界ライフ満喫の第一歩が踏み出せるんだ。



「ズァァアアアアアア!!!」


 魔王が飛んだ。


 天井を突き破り、上へ。

 俺もそれを追いかけるべく飛んだ。



 着地、俺の目の前には魔王の玉座。

 背後に立つ魔王へ振り返ると、俺は言った。


「最後の言葉を聞こうじゃないか、魔王様」


「……終わるのか」


 なんだ? 悪あがきしたかと思えば案外潔いじゃないか。


「ああ、終わりだぜ」


「最後の言葉を言おう……」


「ああ、聞いてやるよ」




「貴様ら人間の……、絶望の旋律が聴けないのは……、非常に残念だ」




 最後に、魔王は自分の首元を切り裂いた。

 滴る血が地に垂れる。


「あ……」


 床に描かれていた魔法陣が、不気味な色に染まり、怪しく光った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ