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俺が最強

「エクスカリバー。契約は破棄だ」


【……思い出したんだな、レイヤ】


「ああ」


【分かった。行ってこい】



 アトラクト。


 アトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクトアトラクト。



 ……いくらアトラクトしてもお前が重くならないってのも寂しいもんだ。


 だけど、行こう。


 俺はティルフィングの柄を強く握る。

 そして魔王の眼前に立って、その小さい巨体を見上げた。


「なんだその魔力は……」


「魔王さん、俺は勇者じゃないけど一緒に踊ってくれますかね?」


 初撃。

 魔王の繰り出した拳が俺の頬をかすめた。


「なっ……!」


 見える。

 見切れる。やれる、やれるぞ。


 今度は俺がティルフィングを振るう。

 それは魔王の頬をギリギリかすめ、通り過ぎた。


 魔王は態勢を入れ替え、そのまま俺に蹴りを放つ。

 それを屈んで躱すと、俺は手に地をつきかかとで蹴り上げた。

 ヒット。しかし魔王はそのまま後ろに飛び、衝撃を殺す。


「チィッ……!」


 飛び上がった魔王へ、俺は無数の斬撃で追撃する。

 斬撃から逃れた所に、地を蹴り、俺は拳を叩き込んだ。


 吹き飛んだ魔王を、俺はさらに追撃する。


 しかし、俺が森の上空に飛び出した所で魔王の火球が飛来した。

 数は、一つなわけがない。

 森の中から飛び出してくる無数の火球を、俺は空を蹴ってかわしていく。


 燃える森。


 その中から魔王が凄い速さで飛び出してきた。

 その拳を受け止めると、俺は吹き飛ぶ。

 その時、避けたはずの火球が背後からまた飛来してきてることに気づく。


 ホーミング性でもあんのかあれは。


「ウォーターウォール!!」


 水の壁が出現し、俺を守る。


「ウォーターランス!!」


 その水を無数の槍にして、俺は魔王に打ち付ける。

 全て躱して突っ込んでくる魔王。


 俺は巨大な手榴弾を創造し、両手で抱え上げた。


「バーニングファイヤーボム!!」


「な……!」


 警戒して動きを止めた魔王。

 そんな君にプレゼントだ!


「ボンバーシュート!!」


 投げつけられた手榴弾を、魔王は軽々しく躱す。

 が、すでに手榴弾はそこで無慈悲にも爆発した。


「ザマァ!!」


 煙の中から魔王が飛び出す。

 どうやらダメージにはならなかったらしい。

 魔王は魔王城を大きくぐるっと旋回しながら俺に向けて火球を放ってきた。


「ウォーターボール!」


 俺はその全てに水球をヒットさせ、相殺していく。

 こんな無駄な攻撃を放ってくるとはね。

 魔王の体は再生していくが、削られた神経の方はどうかな?


 俺は空を蹴り、魔王を追う。

 そんな時、魔王城から大量の魔族共が沸いてきた。

 それを見た俺は駆けながら、火球をいなしながら詠唱する。


「渦巻く混沌の礎、逆巻く慟哭の時雨、背反せよ……」


 詠唱の途中で飛んできたのは黒い剣。

 シルディアか。まだ生きてんのかよ。

 そんなことを考えながら俺は黒剣を躱す。

 そういやあいつは俺に拷問食らわしてくれたな。

 まあ今となってはどうでもいいけど仕返しは必要だ。


 俺は駆けながら詠唱を続けた。


「不遜なる混濁の響き、真意なる永久(とこしえ)の闇」


 俺は空を駆け落下しては、空へ着地を繰り返す。

 後ろからわらわらとわいてきた大量の魔族の追撃を躱しながら、魔王と交戦。


「星の印、失われし王の瞳」


 詠唱が終わり、俺は手をかざす。

 すると、俺の手に高密度の魔力が圧縮され、やがてそれは白い小さな玉となった。

 初めて見た時はめちゃくちゃ感動したこの魔法。

 使わせてもらおう。


「最上級魔法、消失星印(ロスト・バーン)!」


 白玉の輝きが増す。

 俺はそれを後ろの魔族達に全力投球した。


 パッ、と光が霧散する。

 白玉を中心に、一層巨大な球体が現れ、周囲の物質を空間ごと削り取る。


 それに触れた魔族は、体を半分失ったり、文字通り消失したりした。


「ハッハァ! どんなもんじゃい!」


 しかし削った魔族の数は多くない。


消失星印(ロスト・バーン)

 消失星印(ロスト・バーン)!!

 消失星印(ロスト・バーン)!!」


 二度目の詠唱は不要。俺はあふれる魔力を使って消失星印(ロスト・バーン)を乱射した。


 魔王城が、大地が、森が削れていく。


 魔王にも消失星印(ロスト・バーン)を大量投擲したが、流石に当たらない。


 俺は加速する。

 そんな時、俺の首に何かが刺さった。

 髪の毛だ。


 魔王のやつ、髪の毛を硬化して飛ばして来てやがる。

 飛んでくる髪の毛は、目を凝らさないと見えない。

 銀色パスタを躱そうとすれば、次第に俺のペースは落とされていく。


 後ろから飛んできた黒剣を俺はティルフィングで叩き落とす。


 その隙に、魔王が突っ込んできた。


 伸びた魔王の爪を、俺はティルフィングで受け止める。

 ギィィンと、高い音。そして衝撃が波紋した。


「ペッ」


 魔王の目に凍らせた唾を吹きかける。


「ぐっ……」


 怯んだ所に俺は鳩尾パンチを繰り出す。

 ついでに近づいてきた二本角に回し蹴りを放ってから、その勢いのまま、魔王を地へ蹴り落とした。


「死ねェ!」


 接近してくるシルディア筆頭の3本角3体。

 が、こいつらは頭上の魔法陣に気づいてないらしい。


 俺は魔法陣にありったけの魔力を込めた。


 最上級魔法。

 ――地天重吸(グラビティロック)



 俺に近付いた魔族3体は無慈悲にも地面へと堕とされる。

 が、シルディア達はその重力の束縛から逃れると、すぐさま俺のところに向かってきた。


 それと同時に飛び出てきたのが魔王だった。


「ハァッ!」


 魔王の一撃が俺の頬を捉える。

 俺が吹き飛んだ所にシルディアの追撃を受け、今度は俺が地面に叩きつけられた。


 そして雨のごとく降り注ぐ魔法。

 多数に無勢とはこのことだ。


 俺はティルフィングで魔法を防ぎきると、森の中を疾走する。

 そして魔王の丁度背後から飛び出した。


 魔王の反応も早く、俺の反撃は受け止められる。

 が、連撃で魔王の顎を捉えた。

 魔王はそのまま翻り、空に留まる。


 そこで一度戦いの間が空いた。

 お互い息が切れている。

 魔王も俺も。

 だけど、それでも俺は勝てる。敵がどれだけいようと、俺は勝たなければならない。


「ハァ、ハァ……準備運動はもういいか?」


 魔王がふとそんなことを言った。

 息を整えた俺は肩を竦めて言う。


「準備運動になんねーよ」


「そうか。ならば」


「……?」


「そろそろ身体強化くらいは使ってもいいだろう?」


 次の瞬間、魔王の体がブレた。


「!?」


「後ろだ」


 反射的にティルフィングで背後の魔王を薙ぎ払う。

 が、魔王はそれよりも早く俺の背中に蹴りを入れた。

 海老反りになって吹き飛んだ俺は、空を蹴って上昇した。


「くっ」


 まさか、身体強化を使っていなかったとは。

 第二形態は伊達じゃないということか。


 だが、俺なら勝てる。


 俺は余裕の笑みで俺を見上げる魔王を見下ろす。

 とりあえず、ちょっかいかけてくる周りの魔族がうざいな。

 あいつらから先に潰しとくか。


 そう思って俺が創造したのは、ホーミングミサイル。

 創造によって威力を馬鹿上げしている。


「行け」


 俺がそう命じると、合計55のミサイルが雑魚敵共に向かって飛来した。

 雑魚敵共は虫のように逃げていく。

 だが、このミサイルは絶対に命中するように創造した。

 逃れることはできない。


 そう思っていると、俺が放ったミサイルが空中で爆散していった。


 俺は魔王を睨む。

 念動力みたいな技も使えるのか。あいつ。


 魔王はものすごいスピードで俺の前まで移動してくると、言った。


「よかろう。眷属には邪魔をさせん。一騎打ちといこうじゃないか」


 この余裕。

 つけこむならこれだな。当然だが自力で負けているのは分かった。というかわかっていた。

 今、俺がこの魔王となんとか戦えているのは「ノリ」だ。この流れを保ちつつ、そして創造の力をうまく使いこなさないと、俺は勝てない。


 なにか、パワーアップのできる創造……。


 すぐに思いついた。


 パワーアップ系の技といえば真っ先に思いつくのはこれだろう。

 俺が好きな漫画、「龍玉」の主人公が使うこの技だ!


「カイオー拳!」


 赤いオーラを纏う体。みなぎるパワー。


「ハァ!」


 俺はまずティルフィングを魔王に向けて投擲した。

 当然、躱される。

 が、その背後でティルフィングの柄を掴むと、俺はそのまま魔王の首に向けて魔剣を薙いだ。


 それを受けたのは魔王の爪だ。


「貴様……! またおかしなパワーアップを……!」


「ぐぐ……!」


 カイオー拳、これ結構きついな。


 魔王がティルフィングを弾き、一度距離を取る。

 俺はそれを追って追撃の飛び蹴りを加える。

 魔王はその飛び蹴りを見切って、俺の足を掴んだ。

 そしてそのまま剣を振るように俺を地面に向けて放った。


 俺が上空から地面に激突すると、そこにはクレーターができる。

 魔王の反撃は続く。

 空から降り注ぐ無数の剣を避けながら、俺は森の中に逃げ込んだ。


 後ろから魔王が追ってきている。


 俺はあらゆる魔法を撃ちまくって接近を拒んだが、魔王は気にせず突っ込んでくる。

 カイオー拳でもまだ奴の方が少し上か……!

 ならばもう……!


「三倍カイオー拳だっ!!」


 あふれんばかりのパワーが体に溢れて、俺は眼前に近づいた巨木を蹴って反転し、魔王の方へ突っ込んだ。


 脇元でティルフィングを構え、一本の槍となって魔王へと矢のように進む。

 魔王も三倍カイオー拳の攻撃には反応できなかった。

 ティルフィングが魔王の腹に突き刺さる。


「ぐふぅ……」


「ハァ……! ハァ……!」


 やっとまともなダメージを与えた……!


 俺は魔王ティルフィングを抜き去ろうとしたが、抜けなかった。

 ティルフィングが、魔王の体に埋まっている。

 こいつ、ティルフィングが刺さった状態で体を再生させたのか……!


「捕まえたぞォ、虫ケラァ……」


 魔王の拳が俺の顔面をとらえた。

 気絶してしまいそうなほどの衝撃。その衝撃でティルフィングは抜け、俺は後方に吹き飛んで巨木にぶつかった。

 カイオー拳はそこで切れてしまう。


「ハハハ……! それで終わりか人間!

 我を本気にさせたのだから、もっと楽しませろ!」


「くそっ……!」


「ゆくぞ、渾身の一撃だ」



 上機嫌な魔王は高笑いを響かせながら俺に拳を浴びせた。


 後ろの巨木を巻き込んで吹き飛ぶ俺。


 景色が一瞬で通り過ぎていく。

 そこで、やっと脳がダメージを認識した。


「グハァ……!」


 口から大量の血が溢れ出るが、その血すらも置いていく。

 木を突き破り、未だに吹き飛び続ける。

 止まらなかった。



 震える唇を噛み切って、俺はなんとか態勢を立て直す。

 そして地を踏みつけて、踏ん張った。


「ぐぅ……あ……!!」



 それでも勢いは殺せない。


 ティルフィングを地面に突き刺す。


「あがあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 それでも勢いは止まらない。

 やばい。

 体の中がぐちゃぐちゃだ。悲鳴も上げてる。


 糞……、立ち上がったとしても俺はあいつに勝てんのかよ……。

 無理だ……。

 あんな奴に勝てるわけがない……!

 やっぱり俺には……!


 そんな叫びを最後に俺は目をつむった。

 そして薄っすらとまた瞳を開けてみる。


 景色は変わっていた。

 いつのまにか魔界の森を飛び抜け、俺は海に出ようとしていたのだ。


 俺は踏ん張る力を強める。

 ダメだろ。


 後ろは……ルルの海だ。

 逃げるな。

 そこまで後退していいのかよ。

 ダメに決まってる。

 一人でも、戦えるだろ俺!!



 俺はさらにティルフィングを地面に突き刺し、空を蹴って踏ん張った。

 殺せない勢い。


 いや、少しずつ殺せてる。


 俺の足がとうとう海に浸かった。


 止まらねぇ……!

 止まれ……!!!


 止まれ!!!



 ズンッ。

 そんな衝撃と共に俺は止まった。


 背にはあたたかく、優しい温もり。

 振り返ると、そこには巨大な手があった。

 何度その拳に吹き飛ばされたか分からない。

 俺が知る限り、一番デカくてカッコイイ拳。


 その手が俺の体を支え、そして止めていた。



「ガハハ! すまん! 遅れた!」



「ブルーダイン……!!」


 海の王、ブルーダイン。

 最大の男がそこにいた。



「さて、久しぶりに暴れるか」


 ブルーダインは海から上がり、魔界に足を踏み入れた。



『ギョォォォォォォォォォォオ!!!!!』


 耳を(つんざ)くような鳴き声。

 それに俺は聞き覚えがあった。



「リ、リンガーデム……!」


『人間、また会ったな。

 助けが必要らしい』


 リンガーデムはティルフィングが開けた道を通り、魔界を進んでいく。



『オオオォォォォォォォォォ!!!!』


 雄々しい咆哮を聞いて、俺は空を見上げた。

 するとそこには空を飛翔する数多の竜。



『今こそ恩を返す時だ!!』


『オオオォォォォォォォォォオオオォォォォォォォォォ!!!』


「ブリッジゲート……!」


 竜達は雲を超えて魔界を進んでいく。



 俺は魔剣の柄を強く握る。言われようのない高揚感、力強さを感じた。

 敵のデカさなんて忘れてしまうくらいに。


 目の端を拭う。



 ――まだやれるだろ? 相棒。



 そんな声が聞こえた気がして、俺は走り出した。




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