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相棒

 状況が変わった。

 この力がみなぎる感覚……。エクスカリバーとの共有によって、知識などが共有されたらしい。

 俺の空っぽだった頭に無数の知識が刻みこまれたのがわかる。


「契約をしたか。だが、勇者でさえ我の前では無力だったのを忘れたか?」


「だろうな。だけど」


 視界が変わる。これは初めての感覚だ。

 体が剣になっている。


「私が相手ならどうだ?」


 エクスカリバーはそう言って下から上へ魔王を切り上げた。

 血しぶきが上がり、俺の体を使うエクスカリバーに返り血が付着する。


【頼んだエクスカリバー!】


 いくら共有率を増やしても俺では勝つことができない。

 だから元よりエクスカリバーに任せる予定だったのだ。それをエクスカリバーも分かっていた。

 再びチェンジができるのは、契約者が変わったから、チェンジの際に使用までのラグがリセットされたのだ。


「いい体だ。レイヤ。これなら……」


「聖剣ふぜいが!」


 魔王は片手に持った漆黒の剣で縦に一閃した。

 エクスカリバーはそれをヒラリと躱し、魔王に向けて突きを放つ。

 剣先が魔王の頬を掠めた。


「……!」


「どうした?」


【すげえ!】


 これなら勝てる!


「ハァ!」


 魔王は背中の翼を広げ、飛び立つと同時に衝撃波を放った。

 それに、エクスカリバーも飛び上がることで対応。


 飛翔した魔王はエクスカリバーから距離を取り、上空に無数の魔法陣を展開させた。

 魔法陣からはビームのような魔法が射出され、エクスカリバーを狙う。

 エクスカリバーは空を駆け、飛翔しながら魔法陣を展開してゆく魔王を追った。

 飛んでくるビームを避けながら、すごいスピードで魔王との距離を詰めていった。


「アトラクト」


 エクスカリバーがそう呟いたのと同時に、その背後に魔法陣が出現した。

 魔法陣からは巨大な白い剣が出現し、エクスカリバーが俺を振ると、魔王に向けて飛んでいった。


 漆黒の翼をはためかせ、魔王は空へ空へと飛んでいく。

 その後ろを追う巨大な白い光の剣は、やがて分裂していき、魔王をあらゆる方向から追い詰めてゆく。


 エクスカリバーは動きを止め、空中で剣の弾幕から逃れようとする魔王を見上げた。


「天より見据えし光絶の瞳よ、闇に誓いし白銀眼の名において命ずる。理を見下ろすその天火をもって、悪に滅びを与えよ!」


 エクスカリバーが空に手を掲げると、太陽に被って巨大な魔法陣が現れた。


「神級魔法、太陽陣(アテン・ソレイユ)!!」


 魔法陣が、魔王に狙いを定めたかのように向きを変えた。

 そしてその中心に光が集まり始めたかと思うと、そこから唐突に赤い光が放たれた。


 轟音。

 魔王を追っていた無数の剣が霧散して、光の波動により遥か彼方の雲まで消し飛んだ。

 魔王の姿も確認できない。


「やはり威力が落ちたか」


 エクスカリバーは赤い空を見上げて言った。


【今ので威力が落ちてたのか……?】


「ああ、今のは私の最大火力の魔法だ」


【すげぇ! すごすぎるだろ!】


「私はもともと魔術師だからな。時間がないからこれで決めるつもりだったが……」


 エクスカリバーが苦々しく言ったのを見て、俺はその視線を追った。

 すると、その先にはボロボロになった魔王が見えた。

 魔王が来ていた黒衣は破け、所々体の部位が欠けている。


「あれで死なないか」


 マジかよ。


「まあ、虫の息だ。ティルフィングのおかげで元々弱っていたらしい」


 エクスカリバーは早足で空を歩き、魔王の元まで歩み寄っていった。


「シルディアァァァァァァァァ!!!!!」


 魔王が叫んだ。

 そうしてやってきたのはシルディアを含む三人の側近。全員三本の角を持っている。


「時間を稼げ」


「ハッ。命に変えても」


 時間を稼げ。

 魔王の口からその言葉が出た瞬間、俺は叫んでいた。

 なんとなくわかる。このシチュエーションは……。


【エクスカリバー! 魔王のやつ変身するつもりだ!!】


「なに……?」


【今のうちにとどめを!】


 それを聞いたエクスカリバーは、眼前に立った邪魔ものを退けるために、すでに剣を振るっていた。


 が、そこからのシルディア達の動きも凄まじかった。

 命に変えても、と言っただけあり、猛攻。

 エクスカリバーの剣を体で受け止め、拳を差し出してくる。


 エクスカリバーはそれを振りほどくべく更に飛翔し、魔王を凝視した。


「なっ……!」


 そこでエクスカリバーは驚愕したように声を上げた。

 俺も目を瞠る。


 だって、魔王の体が変貌を遂げていくのだから。


「フハハハハハ!! ああなれば貴様ももう終わりだ。魔王様に勝てるものなどいない!」


「くそ! どけ!」


「させん!」


「我々がここを通すと思うか!」


 まずい。

 魔王から禍々しいオーラが出ている。

 変身なんてありかよ。


「どけ! どけぇぇぇ!!」


 まとわりついてくる三体の魔族を纏めて切り刻み、エクスカリバーは魔王の元へ向かう。

 が、ふいにエクスカリバーの動きが止まった。

 上半身のみになったシルディアが足を掴んだからだ。

 その執念に、俺は恐怖した。


 エクスカリバーも少し気圧されたのか、ほんの一瞬だが動きを止めてしまったのだ。

 彼女はそのまま振り回され、地面に落とされる。

 しかしすぐに立ち上がって、魔王をみた。


 だが、エクスカリバーの目に映ったのは魔族達の追撃。

 シルディア達だけではなく、周りで囲っていた魔族達も参戦している。


 エクスカリバーはどんどんと後退していき、魔王から引き離されていく。


 そして、唐突に声が響いた。エクスカリバーが聖剣で周りの魔族を蹴散らしたのと同時だった。


「良くやった。我が眷属達よ」


 見上げると、そこには魔王。

 いや、俺の知っている姿ではなくなっている。

 俺はその姿に唖然として見上げることしかできない。


 赤い瞳は色を増し、背中の黒い翼は先程とは比べ物にならないサイズに。

 すらっとしていた体立ちは、見る影もなく悪魔的、言うならば筋肉質な体になっている。


 放たれたオーラも尋常では無い。


 魔王は地に降りて、ゆっくりと歩いてきた。


 エクスカリバーは数歩退いて言った。


「……あれは、勝てない」


【嘘だろ……?】


「それに、時間ももう数十秒しかない。レイヤ、逃げるぞ」


 エクスカリバーは魔王に背を見せ、駆け出そうとした。

 それが敵わなかったのは、背後に魔王が立っていたからだ。


「……!!」


 一瞬で移動したというのか!


「最高の一撃で屠ってやろう」


 エクスカリバーは瞬時に防御姿勢に入った。

 クロスした腕の上から覆いかぶさるように叩きつけられた巨大な拳。 


 ボキボキと両腕が折れる音がして、エクスカリバーは吹き飛んだ。

 同時に視界が変わる。


 3分。チェンジの時間が切れたのだ。


【レイヤ!!】


 あまりの激痛に声が出なかった。

 俺は手に持ったエクスカリバーだけは何とか放すまいと力を込めていたが、巨木にたたきつけられて、とうとう手放してしまう。


 森の奥から魔王がゆっくりと歩いてくる。

 なんとか這って逃げ出そうとしたが、次の瞬間、俺の腕が飛んだ。


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は土の上でのたうち回った。


「無駄な足掻きはやめろ」


「ああ……ぐぅぅ……」


 千切れた肩から血が溢れだす。

 バランスを崩して立ち上がれなかった。


 そんな俺に魔王が手をかざすと、俺の体は宙に浮いて魔王の元に引きつけられた。


 魔王の手が伸びる。そしてその手は俺の左目に止まると、そのままえぐり出す。


【くっ……、レイヤ!】


「あぐゃぁぁあああ!!!」


「勇者もこうして殺せば良かったか」


 意識が飛びかける。あまりのバタバタと手足を動かすが、なんの意味も持たなかった。


「貴様のせいで計画が台無しだ……! あの生贄を用意するのに一体どれだけの時間を……!」


「ごふっ……カッは……」


 鳩尾に深く拳を叩き込まれる。

 息ができない。


「ただでは死なせんぞ」


 頭が痛む。

 視界が霞む。

 もうダメだ。血も足りてない。これは、死んだ。

 全然異世界ライフ満喫できなかった。記憶喪失とか訳の分からない状況だし。

 意味わかんねぇよ。

 ああ、死にたくない。



 ――オイオイ、弱気じゃねーか。まずは剣抜けよ。



 唐突にそんな声が頭の中に響いた。

 


 聖剣(エクスカリバー)? 届かねーよ。そんなところ。まず片腕ないし。



 誰かもしれない"声"に、俺はそっけなく返す。

 いつものように。いつも?



 ――あ? 剣ッつったら魔剣だろ。



 ……?



 ――オレがいるだろ。




 なんだいてーな。頭が。

 糞、なんだこれ。


 涙が。

 止まらない。


 痛い痛い。

 千切れた腕より、抉られた目より痛い。

 だけど、心地良い。満たされていく。


 そう、思い出せ俺。



 ――その頃で世界最強っつッたら、オレだった。





 あ、思い出した。




「ベポマ」



 俺は立ち上がり、ゆっくりと鞘から剣を抜き放った。

 そう、ずっと使ってただろこの剣を。この魔剣を。


 悪いな。忘れてたぜ相棒。お前のことを忘れるなんて考えられないのに。



「なんだその回復魔法は……」


 先ほどまで巨大に見えた魔王が、小さい。


 やばい。

 なんか今なんでもできそうだ。


「最強って、こういうことだろ? ティルフィング」



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