新たな契約
まさか魔界から逃げ帰ったその日のうちにまた魔界に行くハメになるとは。
エクスカリバーのチェンジのインターバルは2日あるし、まさに背水の陣だ。
だからこそやれる、って考え方もあるが。
魔界の空はもはやドス黒かった。
中心部に向かう事にその黒さは増していく。
「まあようするに速攻で魔王倒せばいいんだろ?」
「そうだね」
俺達は再び魔界の地を歩いた。
実に楽だよ。透明マントがあれば魔界進行なんて遠足みたいなもんだ。
【どうやって魔王を倒すつもりなんだ?】
「それなんだよね。
勇者くん必殺技とかないの?」
「あるよ」
あんのかよ。
「じゃ、それで倒そう」
【バルトライトニングじゃあ魔王は倒せない】
「ぶふっ……!」
バルトライトニング!
必殺技の名前ですか勇者くゥん!
思わず吹き出しちまったよ。
さて、ふざけてる場合じゃないな。
「最悪魔神の召喚だけ避けられたらいいんだろ?」
【ああ、生贄を先に殺すか魔力の注入を防いで門が自然に閉じるのを待つか、それで防げる】
きっつ。
【……無理やり門を閉じるという手もあるな。
ティルフィングはそれをやってみせた】
それはちょっと論外ですね。
てか物理的に閉じれるもんなの。門だけに。
「やっぱ魔王倒すしかないみたいだな」
なんとかタイマンに持ち込んで、俺が何とかするしかないか。
あの魔王だと煽りつつ戦ってればあっちから崩れてくれそうだし。
いや、流石に無理か。自力が違いすぎるし。
「とにかく急ごう」
「そうだな」
侵食されていく空を見て、俺達は歩を速めた。
ーーー
「さて、魔王退治へと洒落込もうじゃないか」
俺はポキポキと鳴らし、透明マントの中から半分になった魔王城を見上げた。
魔王城のてっぺんからは黒いもやもやが出ているのが見えた。
あそこか。
「ボコしに行こうぜ勇者」
「そうだね」
【…………】
今度は俺達は正門から魔王城に侵入した。
堂々と中央階段を上がっていき、俺達は簡単に3階についてしまった。
扉をこっそりと開けて、邪悪な気配のする中を覗いてみる。
するとそこには巨大な魔法陣があり、すごい数の魔族がそれを囲んでいた。
広場の隅には例の卵が積まれていた。
やっぱりまだあんなにあったのかよあれ
そしてその先にある玉座にはもちろん魔王が座っており、その横にはシャーラが虚ろな目をして立っていた。
朝に来た時はあった天井は消えており、ここから空が直でみえる。
いやそんなことより、魔法陣の中心で行われていることが衝撃的だった。
「次だ、やれ」
魔王の合図がかかる。
すると、ゴキブリみたいな魔族が広場の隅に置かれていた卵を魔法陣の中心に持っていき、そこでその卵を切り開くと、中から出てきたクローン魔王の喉元を切り裂いた。
魔法陣にほんのりと光が灯り、また黒いモヤがでた。
【生贄の儀式だ……】
気持ち悪いな。純粋にキモい。
てかシャーラはあそこで何やってるんだ。
いやそれは後回しだ。
今は儀式をなんとかして中断させないと。
「よし、不意打ちで卵焼き払おうか」
「わかった」
勇者は立ち上がる。
「まて。今じゃない。隙を伺おう」
しかし隙なんてあったもんじゃないな。
こんなに魔族がいたら不意打ちは不可能だ。
「待てよ?
二階から卵の真下に回り込めばいいんじゃね?」
そうすりゃ天井ごと破壊とかも可能だし隠れたり逃げたりする時間もできる。
これは名案だ。
そう思った俺はさっそく勇者にそれを伝え、二階に降りた。
「さて、ここらへんか」
「もう少し右だね」
「ここか」
「うん、この辺りだ」
「よしいけ」
俺はすでに逃げる準備をしている。
バルトは低く構え、エクスカリバーを抜刀して唸っていた。
「はぁぁぁぁぁ」
「そんなタメいらないから早くやれ!」
「バルトライトニング!!」
エクスカリバーに帯びた電撃が、斬撃となって天井に飛んでいく。
天井は斬撃によって切り裂かれ、轟音と共に崩れ落ちた。
「何だ!?」「下だ!」「追え!」
そんな魔族達の声が聞こえた。
「逃げるぞ!」
そう叫んで俺は走り出す。
廊下の突き当たりの窓から飛び出すと、地面に着地。
透明マントをしっかり被ってるのを確認すると、魔王城を見上げた。
「撒いたか……?」
【後ろだ! バルト!】
ギィィンと、振り向いた勇者が後ろから振り下ろされた漆黒の剣を受け止めた。
その際に透明マントがハラリと落ちて、俺達の姿が顕になる。
「やってくれたな、ネズミ共……!」
漆黒の剣で勇者を押しやっているのは当然、魔王だった。
魔王は片手で剣に力を込め、勇者を吹き飛ばした。
「ぐっ!」
それを見た俺は魔王に向けて拳を振るう。
が、それは片手で軽く受け止められ、俺の腹部に奴の拳が叩き込まれた。
「ぐふっ……!!」
「貴様ら……! 何度我を邪魔すれば気が済む」
視界が霞む。
強烈な一撃だった。しかし魔王の攻撃はそこで終わらず、俺は頭をガシっと掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。
「レイヤ!」
復帰した勇者が俺の元へ駆けつけてきた。
俺はなんとか立ち上がろうとするが、手が変な方向に曲がっていた。
「くっ!」
勇者が魔王を睨む。
「貴様は見逃してやったのを忘れたか」
そう言って魔王は勇者へと踏み出した。
そして次の瞬間。
勇者の腹部が消し飛んだ。
「……!!」
目を見開く勇者。が、魔王がその顔面に拳の追撃を加える。
今度は顔面が吹き飛んだ。
【バルトォォォォォ!!!!】
「あ……、ああ……!」
「貴様は楽には殺してやらないぞ。痛めつけて痛めつけて、じわじわとなぶり殺しにしてくれる」
マジかマジかマジか。
俺は咄嗟に逃げ出そうとしていた。
勇者が死んだという事実は、たやすく俺の心を折ったのだ。
そしてなによりも、生存本能。
死にたくない。
人の死なんて初めて見た。
やばいやばいやばいやばい。怖い死ぬ。
気づけば俺は駆け出していた。
が、その時に気づく。
魔族達に囲まれているのだ。
3本の角を持った魔族が俺の前に立つ。
「魔王様、殺してもいいでしょうか」
「だめだ。お前達は魔法陣の復旧作業をしていろ」
「ハッ!」
魔族達は魔王城へと消え、目の前には魔王が立っていた。
嘘だろ……。殺される……。嫌だ。
「ククク、恐怖しろ。我に歯向かった罪を思う存分堪能させてやる」
魔王は俺に肉薄してそう言った。
恐怖で俺は膝から崩れ落ちる。
そんな時、俺の視界に映ったものがあった。
"それ"は、こう叫んだ。
【レイヤ! 私を使え!】
「エクスカリバー!」
そう、エクスカリバーだ。
宝具、“黒箱”を使って周りの魔王を閉じ込めると、俺はエクスカリバーの元へと駆け出した。
そしてエクスカリバーを掴む。
【私と契約しろ!】
「頼む! エクスカリバー!」
その瞬間、俺の頭に痛みと言う名の刺激が走った。
俺は目を見開く。
【共有率を限界まで上げさせてもらう! レイヤ、耐えてくれ……!】
徐々に増してくる頭痛。俺はその場に膝をついた。
「ぐぐ……、がぁぁぁ!! ぎぃ!」
痛い痛い痛い!
俺は頭を地面に打ち付け、のたうち回る。
歯を限界まで食いしばって、なんとかエクスカリバーだけは手放さないように必死になった。
【50……! 51……! まだだ……! まだ耐えてくれ……!】
「ぐぅぅ!! ぎぁぁぁ!!」
薄れ行く視界。バクバクと、過剰に動く心臓。
目から血が流れ、口の中は血の味がした。
頭痛はまだ収まらない。
そしてその時、黒箱をこじ開けて姿を現した魔王が映った。
【……!】
まだ、なのかよ! エクスカリバー!
心でそう叫ぶが、頭痛は収まらない。
そして状況を察したらしい魔王が瞬時に俺の元まで接近してきた。
「腕ごとエクスカリバーを切り離してやる」
振り上げられるもう片方の腕。
俺の体だらりと脱力して力が入らない。しかしそれでもなおエクスカリバーは離さない。離せない。
魔王の手刀が振り下ろされたその瞬間。
頭痛が引いた。
「アトラクト!」
身体強化。
俺は魔王の手刀をエクスカリバーで受け止めた。
「なっ……!」
【70%! 上出来だ!】




