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世界NO終わり

「ダメっぽいなあいつらは」


「そうだね」


 俺達は酒場に戻ってきていた。片手に持ったミルクを飲み干して、俺は机に突っ伏す。


【お前の記憶があればまだなんとかなったんだがな】


 エクスカリバーは俺にそう言った。


「なんで?」


【お前が強かったからだ】


「そんなに?」


 エクスカリバーが言うくらいなのか。まあこの腹筋胸筋背筋内側頭を見れば分からなくもないが。


 しかし、記憶はもう戻らない。


「誰でもいいから強力な味方が欲しいな……」


【ブルーダインなら力になってくれそうだが】


「ブルーダイン?」


【ああ、海の王だ】


 海の王。

 そんなのもいるのか。

 なんかいかつそう。


「エクスカリバー、その人は強いのかい?」


 勇者が聞く。


【海の上なら私でも勝てないだろう】


 かなり強いやんけそれ。


「よし、その人のところに行こう。

 どこにいんの?」


【海の底だ】



ーーー



 海の底なんてどうやって行くんだよ。息続かねーよ。

 しかも海の底って言ってもどんだけ広いんだよ。海の王探すだけで何年かかるんだよ。


 そんな問題点があったのにもかかわらず、俺達は海にすでに来ていた。

 考えるより先に動いちゃうってのも問題だ。


「どうすんだよ」


「そうだね」


「そうだねじゃねーよ。転移魔法で連れてきたのお前だろ」


「連れて行けって言ったのはレイヤじゃないか」


【とりあえずブルーダインを呼んでみたらどうだ】


「そんなんで出てきてくれたら苦労しねーよブルーダイィィィィーーン!!!!」


 ドゴォーンという音と共に、海に水柱が立った。

 驚いたね。

 そこから巨大なおっさんが現れたんだから。


「呼んだかレイヤ!」


「Oh……」



【久しぶりだな、ブルーダイン。

 図体だけデカくなって、可愛かったお前が嘘のようだ】


「エクスカリバー!?」



ーーー



 エクスカリバーとの再会によって上がったブルーダインのテンションは、俺が記憶喪失になってティルフィングが死んだという事実を知ることによって、どん底を突き抜けた。


「そうか……」


 お通夜状態だ。

 俺としてはこんなに落ち込んでもらったら困る。


「で、本題なんですけどね」


 俺は手をコネコネさせながらブルーダインの前に出る。


「なんだ?」


「魔王退治手伝ってくれませんかね?」


【私からも頼む】


 ブルーダインは顔をしかめて唸った。

 俺はその姿にゴクリと唾を飲む。

 本能的な恐怖?


 まあちょっとビビりながらもブルーダインの答えを待つ。



「ダメだ」


 断られた。



【……そうか。そうだな】


 エクスカリバーは何か納得した様子だが、理由も聞かずにに納得できるわけ……、いや理由なんていらないか。


「ワシは海を守らんといかん。何があっても、だ」


「……分かった」


 そんなドシンと言われちゃあ食い下がれねーよ。

 まあ仕方ないか。


「すまん……」


「仕方ないさ」


 海に帰っていくブルーダインの背を見て俺は呟いた。

 残された俺達。

 しばらく波の音を聞いていた。



「宛が外れたね」


「そうだな」


【仕方ない】


 これってさ、もう俺が強くなるしかなくね?



 俺はなんとなく空を見上げた。

 綺麗だな。


 ああ、俺が自由奔放に異世界を旅できる日は来るのだろうか。

 マジで魔王害悪だぜ。記憶喪失前の俺も相当苦労したんだろうなぁ。




 そんなことを考えながらぼーっと白い雲を眺めていると、いきなり空が赤黒く染まった。



「なんだあれ」


「赤いね、空が」


 なんていうか、世界の終わりみたいだな。

 異世界にはこんな現象もあるのか。

 綺麗って言うよりちょっと禍々しいけど。


「エクスカリバー、あれはなんていう現象?」


 勇者が尋ねた。

 すると、エクスカリバーの震えた声が返ってきた。


【まずい……、まずいぞこれは……】


「は?」


【異界の門が……、開かれようとしている……】


「うん? なんて?」


 異界の門とか厨ニ単語が聞こえてきたような気がしたけど。


【あれが開かれたら……世界は滅ぶ……!】


 ちょ、え?

 なに? リアル世界の終わり?


【……なるほど……、クソ、やられた……!】


「ちょ、説明してくれよ!」


「エクスカリバー、どういうこと?」


【魔王は……魔神の封印を解こうとしている……】


「はいぃ?」



 絶望は、唐突に訪れた。



ーーー




 その昔、異界の門から現れた魔神は、世界を一度滅ぼした。

 そこで立ち上がった七人の英雄達は、なんとか異界に魔神を押し戻し、二度と門が開かれることのないよう魔神を封印したらしい。


 これがエクスカリバーが生まれる前の話だそうだ。

 そして、エクスカリバーがまだ人間だった頃、当時の魔王の手によって再び門が開かれようとした。

 それを阻止するべく始まった戦いを、聖戦という。

 その聖戦は人間側の勝利という形で終わりを迎えたが、両種は多大なダメージを受ける。

 そして、お互い弱体の一途を辿った。

 人間は平和に浮かれ、魔族は人間の味を忘れたからだ。

 しかし戦いこそなかれ、険悪な関係は続いたという。



「やばいね」


 エクスカリバーから話を聞いて、最初に出た言葉だ。

 話を聞くところによると、昔の人間と魔族はもっと強かったらしいな。

 人間は魔族に比べてかなり弱くなってしまったらしい。


【異界の門を開くには、相当数の生贄と魔力がいる……。

 おそらく、あの時の卵は生贄に使う物だったんだろう。

 魔界の門が開きかけているということは、卵はあれだけじゃなかった】


 マジかよ。

 てか冷静になるとかなりヤバい事態なのか。

 謎に開かれていた魔族の舞踏会も、これの祝い事だとしたら不自然でもない。


 待てよ?

 魔力を使うってことはシャーラも……。

 こうしちゃいられねぇ!


【魔王の動きがずっとなかったのは、このせいだったのか……】


「エクスカリバー、行こう」


 勇者が唐突に口を開いた。


【……】


「ごちゃごちゃ言っても仕方ないさ。

 僕達は勇者だろう?」


【しかし勝ち目が……】


 確かに。

 完全勝利するために、ほぼ全ての不安要素を潰した上で王手を打たれたようなものだ。

 つまり、詰みが近づいている。


「いきなりすぎるよな」


【まさかこんなことになってしまうとは……】


 てかこんな状況なら流石にブルーダインも手を貸してくれるんじゃないの?

 なんにせよ、やれることはまだ残ってる。


「ま、とりあえず魔界行きましょうや勇者さん」


「そうだね」


【な、何を言っている!】


「やれることは残っているよ」


「ああ、詰みが近いなら将棋盤をひっくり返せばいい」


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