人生がドッヂボールなら、俺は今頃…………外野だ
疑問だった。少なくとも生涯の中で一番くらいの疑問ではあった。
どうして30階のビルから飛び降りても大丈夫だとか思っちゃったんだろう。
「いや、あの、それは本当にこっちが聞きたい。マジでなんで? なんでなの?」
現在、俺こと霊界道零矢は、神様から説教を受けていた。
周りを見渡しても、神様と俺しかいない真っ白なテンプレ空間。もうすこし捻ってもいいんじゃないかってくらい殺風景だ。
「たまにいるんだよ、こんな訳のわからねぇ死に方をする奴」
「ハハハ、そうなんですか」
「笑ってんじゃねぇよ、生きたくても生きられない奴だっているんだ」
それもそうだ。だけど俺も死にたかった訳ではない。それなのにこのエセ神様はさっきから説教たれてくる。
大体この神様、ずっと気になっていたのだが、黒髪黒髭なのだ。
言っちゃ悪いが小汚い普通のおっさんって感じ。
神様と言えば、白髪白髭で神聖なイメージがあるのだがそれが一つも当て嵌まっていないのは少し残念である。
「あの、心の声丸聞こえだからね? それと死にたくないのになんでビルから飛び降りたの?」
「多分いけるだろうなーって」
「何考えてんの!?」
しかしこれが真実、俺がビルから飛び降りてしまったのは本当に大丈夫だと思っていたからに他ならない。
なんていうか色々イベントが発生して助かるとか思っていたのだ。
ふふ、なんでそんなこと思ってたんだろう俺。
「何ニヤついてんだよ」
「いや、ただの思い出し笑いです」
「お前の死ぬ時の映像見てみる? 笑えないから」
神様がそう言うと、俺の返事を待たずに目の前にスクリーンのようなものが具現化し、そこには見覚えのある景色が映っていた。
『うし、いくか』
そんな声とともに俺が画面に映し出される。青空をバックにビルの屋上で嬉々とした表情を浮かべる俺は正直カッコよかった。
『普通に飛び降りるのも面白くないな』
画面の中の俺はそう呟きながらフェンスギリギリまで後ろに下がっていく。
そういえば助走をつけて飛び降りたんだった。
画面の中の俺は結構本気で助走した後、そのまま飛び降りてしまった。
『イヤッホォウウウウ!! 風圧風圧ゥ!!』
なにか訳のわからないことを叫びながら落下していく。
ここで俺の顔がアップで映し出される。風圧で少し歪んだ顔は、これでもかってくらい嬉しそう、というより自信に満ち溢れた表情だったのだけれども地面が近づくに連れて真顔に変わっていった。
『え!? ちょ、え!?』
最後にその言葉を残したあと、スクリーンの映像はぷつりと消えた。
「……酷い」
「お前の頭がな」
「普通はあそこでなにかしらのイベントが発生するんですけどねぇ」
で、本題に入りたいのですがなぜ俺はこんな所にいるのですか?誰かが死んだら毎回こんな面談してるんですか?
「喋れや!」
いや、だって心の中読めるんだろ?だったらそっちの方が早いじゃん。逆に喋らせんなっていう。
「ちょ、敬語どこいったー?」
「ま、それはともかく、俺がここに呼び出された理由はそれだけじゃないんですよね? 転生? 異世界転生? いってみ?」
実を言うとこの俺、かなりテンションが上がっていた。まず神様がいるという事実と、こんなイベントが発生していることに俺はもうエンドルフィン垂れ流し状態なのだ。ああ、生きててよかった。
「お前もう死んでるけどな……。お前の予想通り異世界転生だよ。一定死値数に達してない人間で、17歳以下、そして他にも細かい条件を満たしてたら転生させてもいい決まりがある。お前はなぜか条件満たしてるし、転生させてやらんでもない」
「……わたし、嬉しいわ」
「んじゃ、させてやろう。わりと転生させて良い人間ってのは現れないもんで、人間を転生させるのも1200年ぶりくらいだ」
気が付けば周りの景色が変わっていた。そこら中に色んな球体があって、それぞれ光を放っている。そしてそこら中に背中に羽の生えた天使がいた。俺は歩き出した神様の後へとついていく。
「あ、神様ちぃーす」「おはようございます」「モーニン!」
そんな感じで天使達が神様に挨拶していく。この人本当に神様だったのか。
俺が辺りを興味津々で観察しながら進んでいくと周りの天使達とも目が合ったりする。俺好みの天使はいなかった。
「着いたぞ、ここだ」
ある球体の前で急に立ち止まった神様はそう言って俺の方へ向き直った。
「この球体はもうわかってると思うが、それぞれ“世界”だ。お前が転生する世界はここ」
「有難き幸せ」
「じゃ、行ってこい」
ん?何かお忘れではないだろうかこのおっさんは。いやいや、ボケにも程があるだろう。
「あの、なんか能力とかそういうのは……?」
「甘えんな」
「え? 冗談でしょ?」
「そうだな、さすがになんもなしってのは野垂れ死にするか。んじゃあ金でいい?」
「ちっがーう、なーんにもわかってないよチミぃ」
俺が欲しいのはあっちで無双できる系のやつ、わかんないかなぁ。
「創造とか?」
「おお、分かってるじゃないですか! さすがですぜ神様」
「ただし、これは扱うのがかなり難しい、激ムズだ。そんなものをお前が扱えるとは思えないな」
「いやいや、そこをなんとか」
「仕方ない、お前には創造と身体能力を授けよう。ま、ぶっちゃけ最初から渡すつもりだったんだけどな」
なら最初から渡せやおっさん。
「言葉強くない!? まあいい、ほらよ」
そういって神様が俺の頭に手をかざすと俺は謎の光に包まれて、その光は最終的に全て俺の中に吸い込まれていった。
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「30階建てのビルから落ちてもへっちゃらなくらいの体にはしといたから」
「サンキュー神様」
俺は最後に神様に心から礼を言って球体へと身を投げた。
「いい人生を」
後ろからそんな声が聞こえた気がした。
ーーー
全てがどうでも良くなる程気持ちいい青空だった。俺が30階建てのビルから飛び降りた時もこんな綺麗な青空を見た。
現在、落下中の俺はそんな感想と共にこの事態をどう打破するかを考えている。
いや、まあ大体は予想していたし、これは俺の期待通りの展開の一つでもあるが、異世界転生したと思ったらはるか上空からスタート、なんてベタにも程があるだろう。もう少し捻ったアクシデントが欲しかったが、大方これは神様の奴が仕向けたのだろうか。
まあ俺が授かった創造にかかればこんなのワケもない。
そんな余裕をかましながら俺は背中に翼を創造した。
「冷たっ!?」
うん?これはどういうことだろう?
創造した瞬間、何か冷たいものを背中に感じたのだ。
創造の影響かと思ったが違うらしい。なぜなら背中に翼は生えていないからだ。
いったいなんだと思って俺は服の中に手を入れてまさぐってみると、出てきたのはこんにゃくだった。
「なんでやねん」
こんにゃくを思いっきり地面に叩きつけたかったのだが、あいにくここは空中だ。思いっきり握り潰すだけで我慢した。
ビルの30階を経験しているとはいえ、今のこれはあの時とは比にならない高さだ。
妙に落ち着いてしまっている俺だが、これって結構ヤバイんじゃないだろうか。
こうしている間にも地面が近づいてきている。
焦りを感じてきた俺は、あらゆる物を創造しまくった。
パラシュートやヘリコプター、さらにはキン斗雲なんかも。だけど俺の努力も虚しく、全てがこんにゃくへと変わっていく。
「なんでなん!?」
創造といったら、想像したものを創造することのできるチート能力ではないのだろうか?
これじゃあこんにゃく限定の創造能力じゃねぇか。
俺は必死に考えた。どうすればこの場を切り抜けることができるのだろうか。考えて考えて考えた。
そして、すばらしい名案を思いつく。
思わずポンと手を叩いてしまったくらいの名案だ。
この状況でこれ以上の発想があるだろうか、否、ないだろう。
思いついた俺にスタンディングオベーションを贈りたいくらいのナイスアイデア。
俺の創造は役に立たない。だけど、こんにゃくは悪くない。こんにゃくを責めるのは良くない。
そこから思いついた名案だ。
頭の良いやつなら思いつくだろう。
こんにゃくをクッションにすれば良くね?
すでに俺は行動に移していた。ひたすら創造。だが、ただこんにゃくを出し続けるだけではダメだった。こんにゃくの落下速度は俺より遅い。創造しただけでは俺はこんにゃくより先に地面に叩きつけられてしまう。
だからこんにゃくの落下速度を上げるために俺は手にこんにゃくを創造しては地面に投げつけまくった。名付けてこんにゃくクッション作戦だ。
不思議とこんにゃくは念じるだけで普通に創造できた。地面がより鮮明に見えてきたころで直接地面に創造できることに気づく。この距離で見えるってことはどうやら視力も上がっているようだ。
そこでさらに名案を思いついた。クソでかいこんにゃく作ればよくね?
が、これはできなかった。クソでかいこんにゃくをイメージしても普通のこんにゃくしかでない。
まあでもすでに地面には大量のこんにゃくがある。これだけあれば大丈夫だろ。
ーーー
「え? やる気ある?」
神様の声が空間に響いた。
現在、俺はまた神様の前に立っていた。
あのまま地面に落下した俺は普通に死んでしまったのだ。マジでこんにゃくクッション作戦とは何だったのか。
「やっぱりダメかぁ……」
そりゃそうだよなぁ。冷静になって考えてみたらアレで助かるわけないんだよなぁ。
「お前の死体あった所見てみる? そりゃもうこんにゃくだらけだわ。いや、マジで何があったの? 行ってから10分かかってないぞ?」
「ちょっと待て、俺にも文句を言わせてくれ。なにこの糞能力?」
「大体想像できるけどまだ何があったか知らないからとりあえず見させて」
そう言って神様はまたスクリーンのようなものを具現化させた。これでさっきの始終をみるのだろうか。
そして映像が流れだす。
「あー、空中スタートか。運悪いな、これ出現ポイントランダムなわけ」
そんな仕様になっていたのか。てっきり神様が仕掛けたのだと思っていた。
そして映像では俺がこんにゃくを投げだす所に突入した。
それを見た神様は笑い転げる。
「ブッハハハハハハ!! ちょ、お前、これ!」
こうやって違う視点から見ると、必死の形相でこんにゃくを投げまくっている俺は本当に馬鹿みたいだった。
いや、なんていうかシンプルに恥ずかしいよ。
「これにはワケがありましてね」
「ハァ、ハァ、うまく創造できなかったんだろ?」
「そうなんですよ、どうしてですかねぇ?」
「だから言っただろう、これは扱いが難しいんだ」
だからと言ってここまで的外れな能力なんですかねぇ。
「仕方ないから特別に再チャレンジさせてやるよ。久々に笑わせてもらったし」
「よしきた」
「俺があげたその創造には色々制限が付けてある。そんなにポンポンなんでも創造できちまったら世界を壊しかねないしな。まあそれでも十分強すぎる能力だから、制限を見極めながらうまく使うことだ」
教えてくれないのかよ。いや、もう一度チャンスを与えてくれるのだから文句は言えない。
そんなに何回も転生させれるほど死ってのは甘くないだろうし。
「そのとおりだ」
その後、俺はまた先程の球体のところまで案内され、再び異世界へと転生した。