表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

プロローグ

プロローグ



豪華な部屋の一室では、                                

泣き崩れるマリーヌの姿があった。


いつも丁寧に整えられている髪も乱れ、その顔は一気に十歳も年を取ったかのようであった。

そのマリーヌに寄り添うシュバイツの顔にも、悲壮に満ちた表情が浮かんでいた。



2人の息子である3人も苦しげな顔をしていた。


みんなが視線を向ける先には、一つの小さなベッド。そこには幼女が寝かされていた。


マリーヌに良く似た栗色の髪をした可愛らしい子供の顔は青白く、生きる象徴であるはずの呼吸はすでに止まっていた。



マリーヌが難産の末に産んだ4人目の娘は産まれながらに体が弱く、王都から様々な医師や巫女と呼ばれ神力を操るといわれる人間を呼んでも、その体が良くなる事はなく、今日、家族に見守られながらその短い生涯に終止符を打ったのだった。



産まれながらに生き続ける事は難しいといわれ続けてはいたが実際に幼いわが子の死は辛く、マリーヌもシュバイツもただただ悲嘆に暮れるしかなかった。



―それから1年後の美しい紫眼の天使が舞い降りるまで。





幼い末娘が死んでからリーベルト家に明るい笑い声など響くはずもなく、もともと寡黙であったリーベルト家当主・シュバイツは終始険しい顔をし続けていたし、嫡男であるアルベスと三男であるライナスはすべての享楽を忘れたように、武芸や学業に夢中になり、次男のロイドは女遊びに現を抜かし、家であるミーリィーン

領の領主城にはめったに帰らなくなってしまった。


そして、なにより母であったアリーヌは娘の死から1年以上経っているにもかかわらず、立ち直ることができなかった。


そんなある日、武芸ばかり勤しみ享楽を忘れたように無表情で生きる、主であり、友を心配してハッセンはアルベスを遠駆けに誘った。

遠駆けに興味もなかったが、友の気遣いを嬉しくも申し訳もなく感じ、その日アルベスは三男であるライナスも誘って遠駆けに出かけた。


ミーリィーン領は他の領土からは森林で囲まれており、遠駆けには適した土地であるのと同時に、古くから続く神殿や遺跡が多く神力が土地に宿ったのか、魔獣の出現も他の領と比べると少なかった。


しかし近年、どの大陸でも魔獣による被害が拡大し、それはミーリィーン領でも例外ではなかった。



そんななかの遠駆けではあったが、騎士であるハッサンはもとより、アルベスとライナスも将軍であった父、シュバイツの血筋のおかげか類まれなる剣の才能に恵まれていたため、中型程度の魔獣なれば朝飯前ぐらいの腕前はあった。


末娘が死んでから毎朝、母マリーヌは、領主城近くの神殿に祈りをささげるのが日課であり、父シュバイツはそんな母の付き添いをしていた。


アルベスやライナスは敬虔な信徒ではなかったが、遠駆けの場所の通り道であることもあり、その日に限っては、両親と共に行くことにした。


領主城を見渡せる小高い丘の上にある小さな森の中にその神殿はあった。ほとんどが領主城の敷地のためか、ほかに訪れる者はなく、森の中には、早朝ということと相成って、静寂だけがみちていた。

いつもどおりの祈りを捧げ終わり、アルベス、ロイド、ハッサンはシュバイツとマリーヌと別れ、遠駆けに行こうとした矢先にそれは起こった。


小さな小さな泣き声がするのである。

   

小さな小さな今にも声も尽きてしまいそうな声だったが、静寂の満ちたこの森では、

聞き逃す事のないオトだった。


領主城の敷地内のこの森にふさわしくない小さな泣き声は、しかしたしかに、森に響いていた。一同呆気にとられるなかで最初に行動したのは、三男ライナスだった。


ちょうど馬にまたがっていたこともあり、一目散に今にも消えてしまいそうなくらい儚くなった泣き声の主の下まで、馬を走らせた。


遅れてアルベスも馬を走らせ、ハッサンはもし不審な人間がいた場合に備え領主夫妻を守れるように、抜刀し構えながら、足を進めた。

ハッサンと領主夫妻が泣き声の主のところまで着くと泣き声の主は、すでにライナスの腕の中に納まっていた。しかし腕の中を見るライナスとアルベスの顔には、驚愕した表情が浮かんでいた。


ハッサンは周囲に怪しげな人間がいないか一通りたしかめると、ゆっくり剣を納めた。

ハッサンが剣を収めるのを見て取ったシュバイツとマリーヌは、ゆっくりライナスの腕の中にいる、子供を見た。


その瞬間、シュバイツとマリーヌも目を剥いた。ロイドの腕の中にいる子供は5歳くらいの恐ろしく整った美貌をした。黒髪の子供だったからだ。

ミーリィーン領がある、ウルバァーン帝国、そしてウルバァーン帝国があるトリット大陸、そして近隣4つの大陸、2つの島国、そのすべての土地で黒髪は特別な意味を持っていた。


「聖なる気を纏う者」「神力を宿す者」「神に愛された者」



ウルバァーン帝国では「巫女」様々な言われ方をしているが、総じて神聖なる存在として崇められまた国の宝とされた。


髪や眼の色は血によって受け継がれる物であり、どこの国にも古の昔には巫女の一族、神に近い一族など様々な名で呼ばれる黒髪の一族が存在していたが、時と共に純粋な黒髪はいなくなり、今では青か藍色ばかりとなっていた。


国の中枢にいたシュバイツも数多くの巫女と呼ばれる者をみてきたがいまだかつてこれほどまで見事な黒髪を見たことがなかった。

皆は食い入るようにその幼子を見ていた。

そのうち、沢山の視線を感じたのか、先ほどまで、泣きつかれてライナスの腕にすがるように眠っていた子供が目を覚ました。







ゆっくり眼を開けた子供の眼を見て、再度一同は驚愕した。

ウルバァーン帝国やその近隣の国々の民は薄い色素で髪の色や、眼の色が構成されていた

一般的な国民は灰に近い髪色に薄い茶の眼だったり銀や水色だったりする。

濃くなれば濃くなるほど位が高いとされ、黒、紫、金、藍、深紅、深緑、蒼、薄紅、黄緑、琥珀の順に高貴な者とされて

いた。

公爵家当主であるシュバイツは曾祖母が3代前のウルバァーン皇帝陛下の王妹という由緒

正しき血筋であるため、金色に近いブラウンの髪に深緑の眼であった。

ちなみに今皇帝陛下はウルバァーン王族一族の特色である金色の髪に金の目である。




そんな中、一同が驚愕したのは、子供の眼の色が紫眼であったためだ。

紫眼はかなり珍しく海を越えた大陸の国で遥か昔わずかにいたという記述が載っているくらいである。


この国で紫眼の眼がいたという話は聞いたことがない上に、もはや絶えたであろう黒髪

の子供がなぜ森に1人でいるのだろう。黒髪というだけで国の宝になれるはずだし、この

紫眼もある。



皆の胸中は疑心でいっぱいであった。

しかし、そんな大人たちの表情をどう見取ったのか子供は泣き始めてしまった。慌てたの

は腕に抱いていた、ライナスである。


ふぇふぇとぐずり始める子供におお焦りであやしている。

いつも無表情で鍛錬に励む姿からは想像できない醜態である。

それを助けたの

は黒髪の子供をずっと見ているだけだったマリーヌである。


そっとライナスの腕から自の

腕に子供を移し、優しくあやしはじめた。子供は慣れた手つきに安心したのか、マリーヌ

の体にすがりまたくぅくぅと寝始めてしまった。

黒髪の子供の正体について色々思案していたシュバイツは、久しぶりに見る、妻の優しい

笑顔に複雑な思考をやめ、久しぶりに穏やかな気持ちになっていた。


  

その後、両親や保護者の見つからなかったこの小さな子供はシュバイツとマリーヌの養女となり、

黒髪という目立つ容姿を他の領から隠しつつも、家族の愛に恵まれ、優しく賢く育つのでした。





ミーリィーン領で起こったこの小さな出来事は

リーベルト家の救いとなった。



しかしその小さな小さな子どもは

後に大勢の人々の心に大きな喜びと

幸せを運ぶのであるが、それを知るのはまだまだ先のお話。



                  プロローグ・完




初心者です


目指せ完結!



読んでくださり

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ