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戦う受験生!?掘りごたつ戦線を突破せよ!

俺、始まる

作者: 友ちゃん


今は冬だ。

冬は寒い。

俺は寒いのが苦手だ。

心にぽっかりと、穴が空いた気がするから。

だから冬は嫌いだった。


ーーーけど、ある日を境にそれは一変したんだ。

今日はそのことについて、話して行こうと思う。


それは月曜日の朝だった。

憂鬱な朝だ。

月曜日は嫌いだ。

布団からでれば、学校に行かねばならない。

ーーああ、そうそう。当時の俺は高校生だった。都立相沢高校に通う高校三年生。

顔は、まぁ普通。成績は中の中、ってところだったと思う。

スポーツはまぁ、自慢じゃないがそこそこできた。

俺は中学の頃サッカー部だったんだ。

まあ、高校に入ってまで続ける気力はなかったけどね。

うん。人並みの体力はあったんだ。


話を戻そうか。

んで、月曜日の朝、しかも冬だったからさ、俺は頭まで布団かぶって起きれなかった。

その日は一段と寒くて、凍ったアスパラで釘を打てるくらいには寒かった。

学校は休みたかったけど、単位は落とせないし、受験は目の前に控えてるしで、おいそれと休むわけにはいかない。

布団からモソモソでた俺は、素早く顔を洗って、トイレに行って、飯を食って、歯磨きしながら髪を整えた。

ちなみに朝食はカリカリに焦げ付いたトーストと、おいしい牛乳だった。

トーストは母ちゃんがミスしたらしく、炭鉱で掘り出した岩みたいに固くて苦くて不味かった。


朝食を終え、歯磨きしながら髪を整えている途中、突然思い出した。

今日は笹倉の誕生日だった。

笹倉っていうのは俺の高校の友達で、小学校の頃から仲が良かった。

俺は髪を整え終わった後、笹倉もこんな真冬に産まれてくるなんてバカなヤツだな、とか考えつつ笹倉への誕生日プレゼントを小脇に学校へと向かった。

今日、この日ーー笹倉なんぞにプレゼントを渡そうと思わなければ、こんなことにはならなかったのにーー


「おーい笹倉」


俺は教室に入って、一つ前の席の笹倉に声をかけた。


「こたつこたつこたつこたつこたつこたつこたつ」


「・・・・・・・!」


俺は瞬時に悟った。

笹倉はこの冬の寒さに耐えられず、頭がピィーヤしたに違いない。


「笹倉、すまん・・・」


俺は、唯一無二の親友のその姿に、去年何処かにいなくなった飼い猫の吉次郎の面影を見た。

吉次郎はこたつが大好きで、冬はずっとこたつで丸くなっていた。

こたつが大好きだった吉次郎。

ごめんな、吉次郎。

お前の死を、決して無駄にしないと誓ったあの冬の日。

俺は、約束を、守れなかった。

笹倉、吉次郎になっちまったよ。

笹倉は吉次郎になっちまった。

吉次郎な笹倉はもはや笹倉ではなかった。

こたつを求め彷徨うただの亡者だった。


笹倉へのプレゼントを取り出し、ライターで火をつける。

パチパチと燃えていく包装紙。

白の下地に赤いペンで笹倉、と書かれたその包装紙は、やがて塵となり風に流れて消えていった。


ああ、なんと儚い最後か・・・笹倉よ!

お前は俺の親友であった。

唯一無二にして苦楽を共にした仲間であった。

エロ本を見つければ二人でベーションを交わし合った仲ではないか・・・!

だというのにお前は、友を残して消えるのか!

笹倉、吉次郎、皆そうだ!

俺の気持ちなど知りもせず、皆先行く。

一人残された者の気持ちなど、考えもせずにーー

いや、真に悪いのは笹倉でも吉次郎でもない。

この寒さをもたらす冬。

貴様がいなければ、貴様さえいなければ!

俺は友を失わずにすんだ!

許さぬ。ぜったいに、許さぬ。

勝負だ、冬よ!貴様が四季の一人であるならば、俺は太陽!

太陽なくして、地球なし!

地球もろとも滅ぶがいい!

喰らえ!爆裂ッ!メルトォォォォォ!フラァァァッシュッ!!!

みたか冬め!

地球もろとも塵と化したわ!

ファーハハハハハハハハ!!

俺は頭のなかで大嫌いな冬を三度地獄送りにしてからようやく笹倉に口を開いた。


「どうした笹倉。そんなに気持ち悪い顔して」


「あ、ああ・・・。友成か・・・」


笹倉がようやく気付いたとばかりに俺に虚ろな瞳を向ける。

気持ち悪いので笹倉の顔を極力視界から外して笹倉がなんでそんなに気持ち悪いのか理由を尋ねた。


「おれ、おれさ・・・・」


笹倉が鼻水を辺りにぶるんぶるん振りまきながら俺に抱きついてくる。

気持ち悪いがここは我慢だ。

仮にも親友。

親友は汚物より清なり。


「どうしたんだよ、笹倉。落ち着いて話してくれって」


俺は優しく微笑みながら笹倉の体を引き剥がす。


「おれ・・・おれ・・・推薦落ちちゃった」

ザッマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

推薦乙!

去年の生徒会長乙!


俺はそう思った。

けど表にはださない。

俺たちは親友。

親友は決して裏切らない。

だから。

お前が推薦落ちようと、俺たちはずっと親友だ。


「なぁ笹倉。お前、やっぱ一般受けるの?」


笹倉は推薦に落ちた。

なら残る選択肢は一般受験で志望校を狙うしかない。

だが笹倉は、死んだ魚の眼をしたまま首を横に振った。


「無理だよ・・・今更一般受けようなんて」


まあそうだろう。

ヤツは推薦をアテにして全く勉学に励まなかった。

その程度の学力しかない笹倉が、

今更大学受けようなんて、ガガが徹子の部屋に出るくらいおかしかった。

俺はため息をついて、笹倉の肩をポンと叩いた。


「友成・・・」


笹倉が涙目で俺を見上げてくる。

気持ち悪いな・・・。

俺は笹倉と目を合わさないようにして言った。


「また来年があるじゃないか、笹倉」


それを聞いて笹倉は嗚咽を漏らしながら、うん、うん、と頷いた。


その日、笹倉は早退した。

戦死者に黙祷。

受験戦争を共に戦う戦友が、クラスを去った。

ちなみにその日、俺は勉強道具一式を家に忘れたため、ガガが徹子に変装する妄想をひたすら繰り返す作業をすることしかできなかった。


前置きが長くなったけど、本題はここから。

どうか聞いて欲しい。


その日のすべての授業をガガと徹子の妄想で乗り切った俺は、放課後、笹倉の家に足を運んだ。

なんだかんだ言ってもやはり親友。

慰めくらいしてやらないと、親友失格だと思った。

ちなみに笹倉の家は所謂上流家庭だった。

父親は市内の市場を牛耳る大手会社の社長。

母親はママさんバレー【ライトニング相沢】のチームリーダー。

言うまでもなく、そんな家庭に育った笹倉に、倹約精神などあるはずもない。

笹倉は生徒会長だったが、親友の俺のためならと、俺と毎日のように街に繰り出した。

カラオケ、ゲーセン、ファミマ。

笹倉といると、毎日が楽しかった。

俺は笹倉と一緒にいる時間が、本当に本当に楽しかった。

片手にはファミチキ、もう一方はカラオケマイク。

俺は笑いが止まらなかった。

笹倉も財布を縛らなかった。


しかし俺たちは三年に進級し、街に繰り出す頻度はみるみる減って行った。

俺は笹倉と遊べないことを嘆いたが、仕方が無い。

そうして夏休みが終わり、体育祭も無事終了し、季節は何時の間にか冬になっていた。

受験生である三年は、最後の悪足掻きとばかりに必死に勉強した。

俺も例に洩れずその中の一人だった。

そして緊張した空気のまま、一般受験の前に、推薦を受ける者たちが先行して戦場へと旅立ったのだ。

結果は見ての通り。

笹倉は見事に落ちた。

生徒会長をやっていたにも関わらず、推薦に落ちるとは。

大学おそるべし。

笹倉の気持ちも推して知るべし。

というわけで、俺は笹倉家のインターホンを高速プッシュした。


「おーい笹倉ー。出てこいよ~」


「さ~さくらちゃ~ん?は~あ~い~」


一人でジブリの不朽の名作、となりのトトロのさつきとみっちゃんの真似をするが、返事がない。

不在か?

いや、そんなはずが無い。

電気メーターの針が振れてるから、笹倉は家にいるはずだ。

俺は笹倉家を熟知している。

不法侵入など朝飯前。

塀を越え、音もなく庭を走り抜ける。

玄関には鍵がかかっていなかった。

俺は扉をそっと開いて、中に入る。


「おじゃましまーす」


せめてもの礼儀。他人の家に無断で入るべからず。

玄関で丁寧にお辞儀をし、靴のまま邸内に侵入した。


ガラッ!

「あれ~?」


ガラッ!

「あれ~~?」


一人でさつきとその妹メイの真似をしながらトイレ、寝室、風呂場の扉を開けて行く。

おかしいな、本当に誰もいないぞ。そう思った俺は、最後にリビングの扉を開けた。

我が家より数倍広く、落ち着いた色で統一された笹倉家のリビング。

以前俺が訪れた時となんら変わらないその風景。

ーーいや、見慣れないモノがひとつ。

俺の目に映る。

こたつだ。

以前来た時にはこたつなんてなかった。

いやまあ、冬は寒いし、こたつがあるのは全然普通のことなのだが・・・。

そこで、俺はふと今朝のことを思い出した。

笹倉は、洗脳されたみたいにこたつを連呼していた。

頭がピィーヤしていた笹倉。

こたつを求める亡者。


「ーーまさか、このこたつ・・・」


俺の頭がフル回転。

マッハ3。

常人ならミソが耳から飛び散る程の速さ。

ーー考えろ、なぜ笹倉があんなに気持ち悪かったのかーー

・・・っ、ダメだ。

いくら考えても答えは出ない。

こうなったら考えるよりも感じろ。

スイッチオン。

こたつのスイッチを入れる。

ブゥゥン

こたつに熱が入る。

俺はこたつに足を突っ込んだ。


「むっ・・・?」


どうやら掘りごたつだったようだ。

俺は足をプラプラさせて、掘りごたつの中を探る。

どうやら相当深く掘ってあるらしく、足に当たるようなものは何もなかった。

ふむ、やっぱり冬はこたつに限る。

更に体を沈め、掘りごたつの奥へ。


「おっ、おっ、おっ?!」


ーーーなっ!?

ヤバイヤバイヤバイ!!

体が掘りごたつに呑み込まれていく錯覚。

ーー否、それは錯覚なんかじゃなかった。

掘りごたつの中に、床なんて無かった!

俺は暗い穴の中を、一直線に落ちて行く。


「ああああああああああ!?」

これが奇跡の第一歩。

グッバイ日常。

ハロー掘りごたつ。

マイクテストマイクテスト。

母ちゃん聞こえますか?

ーー今日は帰れそうにない。


「不思議の国のアリスかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


そうして俺は、暗い暗い、底なしの闇に落ちて行った。


続く?

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