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第一章 第8話 自由。

「これはなんだ...?」


一面に広がるガラスの部屋。

部屋は何十、いや何百と広がって終わりが見えない。


「ここで羽の元になる人間を飼育しているのですよ」


飼育......

赤ん坊がひしめく部屋。

それだけじゃない、私たちと同世代に見える人達の部屋もある。

こちらを物珍しそうに見てくるその目に、活力はない。


いきなりその人達が一点に集まる。

そこには餌と水の出る管がある。


手の甲には番号。

床は黒い水が溜まり、虫が蠢いていた。


人としての自由

人としての権利

人としての食事

人としての心


私たちが当たり前に持っているものを、


彼らは......持っていなかった。


私と殿下は、ただ愕然と立ち尽くすしかなかった。

「どうですか?これが農園の本来の部分です。圧巻でしょう?」

この人間は正気なのか?

いや私の頭がおかしいのかもしれない。


「ええ、そうですね」

ルシウス殿下......?


「"ふふっ"まだまだ農園はこれからですよ」

これ以上のものがこの世にあるのか?

喉の奥が焼けるように痛い。

進むにつれ空気が重く暗くなる。


「ここが収穫所です」

大きな魔法陣

その下の部屋に人が押し込まれていく。


扉を閉め、ラートンが魔法を唱える。

時間加速(クロノリープ)


時間......操作?


次の瞬間

頭を壊すほどの悲鳴。

それが振動となり建物を揺らす。

部屋の中が羽へ変わる。


胃の中がひっくり返る。


これは——現実なのか?


「この爆音!最高でしょう!」


ルシウス殿下は何も返さずただ羽を見つめ淡々と、

「どうやって羽に変えた?」


ラートンは待ってましたと言わんばかりに話し始めた。


「時間加速を使って人体の形を保てなくするほどの生え替わりを起こすんですよ!」


「抜け羽を培養するというのは?」

淡々と続ける。

「あれは庶民へのガセです」


「なんでこの方法を?」

殿下は質問を続ける。

感情を決して表に出さず、ただ淡々と。

「抜け羽にはほとんど魔法因子が残っていませんから燃やしてもエネルギーにはならないんですよ」


「見させてくれてありがとう、すまないが少しエリオットと周りを見てきても良いか?」

冷静に一つ一つ情報を引き出すその姿は、

いつもの殿下とは全く違っていた。


「ええ、もちろんですとも」

私は殿下に連れられラートンから遠ざかっていく。


「ルシウス殿下!あまり遠くへ行っては」

「ラートンは、もう見えないな......空間隔離(スペースアイソレート)


周りが見えない壁に包まれる。

「ルシウス殿下?これは......」

「エリオット、あれを許せるか?」


「それは」

「エリオットは国のため、あれを許せるか?」

あんな人を人だと思わない所業を許す。

そんなこと、決まっている。

「私はできません......」

「よかった、エリオット。私も——無理だ」

少しずつ殿下がいつもの調子に戻っている。


「それにしても、あの時間加速魔法は......」


「王族家しか使えない2大魔法の一つ——

"時間操作魔法"」

この国で唯一、殿下と対等な最強の魔法


「でもそれは......」

あの魔法は、

「今、この国では兄様しか使えない」

「ということはカシウス殿下もこれを知って......」


「おそらくそうだろうな......その上で来させた」

殿下はため息を吐き、天を仰ぐ。

信頼してる兄がこれに加担している辛さは相当なものだろう。

「これが、この国の真実ですか」

この国の一部の人間しか知らない裏側。

「ああ、そしておそらくこれも、"一面"に過ぎない」

「一面?」

「6層でこれなんだ、5層以下がどんな扱いを受けてるのか......」

確かに、想像するだけで恐ろしい。

もしかしたらこれよりも酷い扱いを受けているのかもしれない。


「エリオット、俺は決めたぞ——ここを解放する」

「待ってください、そんなことをしたら!」

ここを止めなければいけないのはわかってる。でも私はまず殿下を守らなければ。

「分かってる、だから今じゃない」

今じゃない?

「力をつけ、この国で反乱を起こす」

殿下の指が掌に食い込んでいる。

ああ、もう殿下は覚悟を決めていたんだ。


じゃあ私にできること、それは

「その時は私も一緒に」


「心強いよ、エリオット」

少し笑っているのを見て安心した。

ただ、その顔はすぐに硬くなった。


「エリオット、反乱のために目を背けるな。細部までこの施設を見ろ」


「承知いたしました」


「あと最後に——」


「どうかしましたか?」


「もう私に"自由"はいらない」


「それはどういう意味ですか、殿下......?」

その表情は、もういつもの殿下ではなかった。


隔離していた壁が消える。

ここからはもう何も話せない。


反乱

殿下の最後の言葉

"自由"はいらない

頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


急いでラートンの元へと戻った。

「ずいぶんと長かったですね」


「すまない、想像以上に大きくて見回ってしまった」


「いえいえ、謝るほどのことではないですよ!」


「ありがとう」


「さあさあ、先へ進みましょう」

まだ終わらない......


変えられた羽の場所とは真逆へと進んでいく。


少しずつ汚れが減っていく

そして現れた、おかしなほど真っ白な通路。


「どこへ向かってるんだ?」

情報を引き出す。

冷静に淡々と。


「研究棟です」


「何を研究してるんだ?」

こちらの気を悟らせるな。


「基本的に動力炉の研究と兵器開発です」

兵器?


「炉はわかるが、兵器?とはなんでしょうか?」


「まあこれをご覧ください」

ラートンは腰につけていた筒のようなものを取り出した。

そして前へかざした瞬間


地を揺らすほどの衝撃

空を切り裂く轟音


あまりに大きな力に唖然とする。


「これ一本で大体500人分ですかね」


さらっと発したその一言。

見本の1発。

その一言で、衝撃が吹き飛んだ。

それと同時に、別の恐怖が襲った。


「これじゃあ、1発打つのにあまりにも消費が多すぎるんですよ、それにエネルギーが大きすぎるのか途中で霧散してしまう」


「まあ、実験段階のポンコツですね」

笑っている......


殿下の拳に爪がめり込み血が出ていた。


「ああ……そうだな……」

声が震えている。


そう話している間に一つの大きな扉が現れた。


「ここから研究棟です」


ラートンは壁に手をやった。

扉の一部が光る。

そこに手をかざした。


勝手に扉が開いていく。


見たことのない技術。

王宮にすら、こんなものはない。


本能が関わるなと告げてくる。


扉の向こうがうっすら見え始める。

大量の白衣を着た者たち。

その視線の先には一つのガラスの部屋。


ただ先ほどとは違う。


そこには羽のない小さな少女が座っていた。

ーーそして、ただじっと殿下を見つめていた。

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