第一章 第10話 守るための拳
「今話した事が17年前に起きた、第二王子ルシウス殿下の反乱の始まりとなった出来事です」
そう言ってエリオットは削られた建物の外壁に手を当てながら話し終えた。
大切な人
命を投げ出しても守りたかった人
——俺にとってのセラ
それが、エリオットにとってのルシウスだった。
隣で鼻を啜る音がする。
「一つ質問してもいいか?」
「なんでしょう?」
「エリオットが言っていた少女の翼は俺のとは違うのか?」
"ええ"と言って続ける
「似ているようで全くの別物です」
「そこまで違うの?レイの翼も人工なんでしょ?」
セラの疑問に答えたのはエリオットではなく
「レイニハ、ワタシガイルカラナ」
ルクスが自慢げに言った。
こいつが本当に機械なのか疑いたくなる。
腕を組み、鼻を伸ばして自慢する——
そんな人間の姿が重なる。
「そのことはもちろんなのですが1番の違いは他にあります」
「1番の違い?」
セラが首を傾げた。
俺もルクスは、他の翼にない1番の違いだと思った。
「そうですね......そもそもとしてレイと彼女では用途も使用方法も違います」
用途?
そもそも翼なんて飛ぶだけじゃ無いのか。
「それでは簡単に、レイは生かす翼、彼女は奪う翼という事ですね」
「なるほど?......」
またセラが首を傾げた。
「今はまだわからなくても大丈夫ですよ、それに彼女を見ればその意味もわかりますから」
「ルクスがいるからってのは?」
忘れられていた話題に戻した。
「それは単に、レイの翼は"ルクスから生えている"それだけです」
「言ってた少女は違うのか?」
「ええ、黒色羽が背骨付近まで貫通しそこから生えています」
想像するだけで恐ろしい。
エリオットの言っていたラートンという男はどれだけ頭がおかしいのか......
そんな事を考えていた時だった、
「ナニカイルゾ」
そうルクスが言った刹那
地響きが俺たちの体を揺らす
「なんだこれ!?」
「土......魔法、死の壁」
声?
「これは......!攻撃です!2人とも衝撃に......」
エリオットが言い切る前に俺たちとエリオットの間に壁が隆起した。
間一髪だった。
エリオットが叫ばなければ死んでいた。
壁の上には土の槍が並んでいる。
「お前らが零階層から逃げてきた奴らだろ」
そう言われ振り返ると
そこに緑の翼を持つ大男が立っていた。
「レイ、あの翼......」
「大きすぎるな......」
__エリオットと同等、それ以上かもしれない。
戦ったら負ける。
「なんだ?無視か?」
飛ぶか?いやセラを置いていけない。
どうすれば、何をしたら逃げられる?
エリオットが来るまで時間稼ぎ......それが1番確実な選択。
ゆっくり羽を広げ、攻撃の準備。
「なんだ?やる気か?」
先に仕掛けなきゃ負ける。
油断してる隙に倒す!
「おいおい!子供を殺すの本当は嫌なんだが、任務なんでな」
腕を伸ばしてる?
魔法か?
「レイ!避けて!」
「土の槍」
槍が......飛んで?
奴が腕を伸ばした瞬間、足元の土から槍が飛んできた。
クソったれ
脇腹を掠めた......
「これも避けるか。なかなかやるな」
「お前......何者だよ......!」
「名乗っていなかったか!私は天穿騎士団、五柱が1人、地砕の柱 ガルド」
天穹騎士団?五柱?
また新しい単語。
「レイ、あいつはやばい、今は絶対に勝てない」
また流暢に話し始めた。
ルクスが明確に勝てないというほどの相手。
やっぱりエリオットを待つ選択は正しかった。
「分かってる」
「いや全く分かってない、五柱はこの世界の最強の5人なんだ、今戦えば死ぬぞ!」
ルクスがなんでそんなこと知ってる?
「じゃあどうすればいいんだよ」
「あいつはレイしか見てない。」
確かにセラには攻撃してない。
「だからひたすら飛んで逃げて遠くへ行け」
飛んで逃げる。
それはわかってる。現に今やってる。
でも、
「遠くへは行かない」
それにセラを1人にしたくない。
もう目の前で失うのは嫌だ。
「セラは隠れててくれ!」
「それじゃレイは!?」
「大丈夫」
エリオットが来るまできっと数分だろう。
その間、この攻撃を耐える。
「いいないいね、俺も熱くなっちゃうよ!」
また腕を伸ばす。
さっきのが来る。
また奴の地面が動いてる。
「土の槍」
「上だ!」
ルクスの指示で移動する。
おそらく一撃一撃が致命死になり得る攻撃。
でも、もう見た攻撃。
あの槍は曲がったり分裂する事はない。
だから、ある程度距離を取れば大丈夫、避けられる。
いける!
あぁ、楽しい。
空を飛んでる。
戦えてる!
「なかなかやるな!まだまだ行くぞ!」
そう言って奴は両手を上げた。
「2本来る!」
まだ避けれる。
ひたすら奴の動きと地面の動きを観察して攻撃を予測しろ。
この調子なら、エリオットが来るまで持ち堪えられる......
「太陽の炎」
「重力魔法 万象圧壊」
詠唱の声とともに激しい閃光と地響きが伝わってくる。
壁の向こうにも敵がいるのか、これはまずい。もしエリオットが来なかったら、俺がこいつを倒さなきゃいけないのか。
「あっちはすごいな!こっちも早く終わらせないと後で怒られるよな」
早く終わらせる?
「レイ、気をつけろ。やばいのが来る!」
こっちに指をさしてる。
「魔法陣展開」
「流星砕拳」
奴の地面が動く気配はない。
......は?
「なんだよあれ」
上を見ると巨大な土の塊が空から炎を纏って落ちて来ている。
本能的に死ぬ。
そう思った。
「左に全力!」
響くルクスの声。
その声でハッとして体を捻った。
翼を最大限動かして全力で土の塊から逃げたが、翼の先は少し燃えてしまった。
でもギリギリで避けられた。
そう、油断した。
「大地の拳」
まじ......かよ......
油断した隙に、下からの一撃。
上からの攻撃に気を取られ、奴のことを完全に視界から外されていた。
強すぎる。
単純な武力も、戦術の知恵も何一つ足元に及ばない。
また、何一つ守れない。
——背中が痛い
どこまで飛ばされた?
息ができない
力が入らない
頭が回らない
目の前が真っ白だ
「ほう、羽をたたんで守ったか」
声だけが聞こえる。
「レイ!起きてレイ!」
セラの声?
——レイ——力を——使って
いや、セラだけじゃない
これは、零階層でも聞いた声。
また羽がざわめいてる。
翼に集まってくる。
前よりも更に多い。
「お?なんだなんだ?」
少しずつ手に力が戻ってきた。
「聞こえるか?レイ」
「一応」
「あいつはレイが攻撃して来ないと確信してる」
「だろうな」
「その隙を狙って、今出せる最高速度で殴れ」
一か八か、今の羽の量ならいけるか?
呼吸を整えろ
一瞬に全てを賭けろ
守るために戦え
「レイ!」
またセラが祈ってる。
この翼はセラの力なのか?
今はそんな事はどうだっていいか
今はただ
「ありがとうセラ。声、届いた」
羽を広げる。
さっきよりずっと重い。
「ちょいちょい!その翼大きすぎだろ!」
「行くぞ!レイ!」
「ああ!」
拳に力を入れ、思い切り羽ばたいた。
見えていた景色が一瞬で後ろへと流れ、体が風になったように進む。
目の前にガルドが現れる。
「土の......」
またガルドの地面が動いてる。
だけど、
「遅い!」
俺は硬く握った拳を引き、進んだ勢いのままガルドの顔面めがけて振り抜いた。
ガルドはそのまま後方へ吹っ飛び倒れた。
「......っ」
遅れて拳にジンジンとした痛みが伝わって来る。
無理に動かした翼はもう言うことを聞いてくれない。
......倒した、か?
危なかったけどなんとか、勝った。
そう思った時、前から声が聞こえてきた。
「痛えなおい!速すぎだろうが!」
吹っ飛んで倒れたはずのガルドがもう立っていた。
あれを喰らって生きてる?
早く立たなきゃ——
「いやぁ、久々に痺れた!」
セラを守らなきゃ——
「殺すのは惜しいが仕方ない」
ここで死にたくない。
まだ青い空も見れてないのに......
「土魔法......」
「総員魔法陣展開!少年に当てるなよ!」
誰だ?
味方?
わからない。
でも、もう意識が——
「ガルド!逃げるぞ!」
赤い......翼?
「エリオットはどうした?やったのか?」
そうだ、エリオット......無事なのか?
「まだだ、でももう無理だ、反乱軍が来やがった」
反乱軍?
「もう少しだってのに......一旦引くか」
引くって言ったか?
何が起こったのか?
大きな2つの翼が遠ざかっていくのを見ながら俺の意識は薄れていった。
「この子が例の人工翼ですか?」
「ああそうだ、お頭の元へ連れてってくれ」
「それにしても酷い怪我だ、早く手当てをしないと」
「絶対に死なすんじゃないぞ、その子は俺たち唯一の希望だ!」




