第10話 神奈川県警編②
「神奈川支部は取り壊しが決定してる!建物はぶっ壊してもいいから、人質の保護を最優先だ!」
安倍の指示を受けて、突入したB・Cランクの魔導師達は、四方八方に分かれて人質の職員達が監禁されている部屋を探す。
樹もその中に加わり、懸命に探す。
その道中、当然邪魔は入る。
「敵襲だ!全員魔導師だ!向かってくる奴はぶっ殺せー!」
失村の部下であろう男達が迫り来る。
樹は地面に魔力を流し、大木を生やして動きを止める。
「ちょっとだけ苦しんでもらうよ!」
大木で動けなくなった男達に、間髪入れずに泡瀬が魔力で作った泡で顔を覆う。
息が苦しくなり、気絶したところで泡を解いて制圧。
樹と泡瀬のコンビ技だ。
「木ノ下君、何か腕上げた?」
「生意気言うな。俺はBランクなんだよ」
「ははっ!ちょっと口悪くなってきてるよ!」
「うるせぇ」
その後も2人で次々と制圧していく。
その姿を見た安倍は口笛を吹く。
「あの子ら、やる〜!」
「お前があの歳の頃よりはやるかもな」
「何すか?煙さんってそういう事言う人っすか?」
「気にさわったか?言っとくが謝んねえぞ」
「うっざ!この戦いで痛い目見りゃいいのに」
「おじさんにそういう事言うんじゃねえよ。とりあえず、骨のありそうなのが3人いるな」
撤引は建物全体を魔力探知で探り、強い魔力を放つ3人の居場所を特定する。
一人は動く気配がないが、もう2人は既に移動を始めていた。
「5階の女は俺が殺る」
「じゃ、私は残りの2人を片すっす」
それだけ会話を交わすと、撤引はその場で体を煙に変えて5階へと向かう。
それを見送り、安倍も向かってくる男達をあしらいながら敵の元へと向かった。
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突入から10分、予想より多い敵の数に樹達は魔力の消耗を感じていた。
それでもこちらがかなりに状況を有利に進めているのは、奇襲という点ともう一つ。
「こいつら、さっきから全然魔法を使ってこない」
泡瀬が言うように、向かってくる男達は単純な魔力での肉体強化はするものの、魔法は使わず、その身ひとつで向かってくる。
それが樹達を有利にする最大の理由でもあった。
「魔力強化だけで、俺達に勝てると思ってるのか?随分と舐められてるな」
「……そういう訳でもないみたい」
泡瀬の言葉通り、倒した男達はかなりのダメージを負っていても粘り強く立ち上がってくる。
「まるでゾンビだな…」
「魔力云々というより、純粋な肉体の強度が高いんだよ」
「このままじゃ、こっちが消費するばかりって事か……」
できるだけ魔力を温存して戦っている2人に、男達はジリジリと迫ってくる。
男達の粘り強さは肉体の強さだけではないと樹は考える。
例えばそう、あの薬のように。
樹と泡瀬は背中合わせで応戦するも、やはり倒し切る事ができない。
「くそっ!マジでこのままじゃジリ貧だ!」
「どうにか打開策を─」
「そこ!邪魔だよ!」
泡瀬の言葉を遮って後ろから声が聞こえる。
向かってくる安倍の姿を見て、樹は咄嗟に泡瀬を庇って避ける。
安倍は小さなヨーヨーを持っていて、そのヨーヨーを男達に当てていく。
樹達の攻撃でも倒しきれなかった男達が、軽いヨーヨーに当たっただけでノックアウトしていく。
「すごい……あんなにしつこかったのに、次々と…」
「あんな軽いヨーヨー振り回しただけでか……何か差を見せられた気分だな…」
「多分魔法だよね?どういう能力なんだろ」
粘り強い男達がヨーヨーに倒されていく異様な光景とその光景を作り出すAランクの魔導師の凄さに驚く。
倒れる男達の真ん中に立つ安倍のデバイスに連絡が入る。
「……了解。そこの若人2人、朗報だ。人質が見つかった。保護もすぐ可能だってさ」
「本当ですか!良かった……」
ここまでは完璧な流れで事が進んでいる。
そう思った樹だったが、直後どす黒い魔力を感じ取る。
表情を見るに、安倍と泡瀬も感じ取ったようで、その魔力の方を向いて戦闘態勢を取る。
「……どうやら、やっと雑魚以外がお出ましってわけ?」
「全く。女性がそんな言葉遣いをするものではありませんよ」
安倍の言葉に、その男は眼鏡をクイッと上げながら言う。
見た目は30代前後、チェックのスーツを着ているサラリーマン風の男だ。
「はん!女語れるほど知らなそうだけど?」
「失礼ですね……その口、閉ざして差し上げましょうか?」
「やってみろよ、童貞野郎」
「童貞野郎ではありませんよ。僕には、言呑という名前があるのですから」
その男、言呑はまたメガネを上げて言った。
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樹達が言呑と遭遇する少し前、撤引は一人10階のフロアに到達。
敵の気配を探る。
物音一つしないフロアに小さな風を切る音が聞こえる。
直後、撤引の体を数本の針がすり抜ける。
「…ったく、何よその体」
暗闇から女が一人、悪態をつきながら姿を見せる。
撤引の体の針がすり抜けた部分は煙のように消えている。
「魔法だよ。お前らが大嫌いな」
「別に嫌いじゃねえっての。リーダーじゃあるまいし」
「リーダー、ね。そういう事は言わない方がいいぜ。今の発言でお前がリーダーじゃねえって事が俺にバレたわけだからな」
「別にそんな小さな事バレても問題ねえっての」
「小さくても情報は情報だ」
「うっざ!これだからおっさんは嫌いなんだよ」
「どいつもこいつも。おっさんをもっと敬えって話だぜ」
女と撤引は向かい合い、戦闘態勢を取る。
数秒の沈黙の後、先に仕掛けたのは女の方だ。
先程と同じように針を撤引の飛ばす。
撤引は避ける素振りすら見せず、逆に女との距離を詰めるため向かっていく。
女は後退しながらまた数本を針を飛ばす。
撤引はこれも避けないでいると、
「!?」
一本の針が撤引の肩に刺さる。
それを見て、女はニヤリと笑う。
「なるほど。魔力で作った針は刺さるのね」
「……中々策士じゃねえか」
先程まで飛ばしていた無数の針は確かに本物だが、撤引に刺さった一本は魔力で作られた針、その証明に刺さっていた針は既に消えている。
「本物の中に偽物を紛れ込ます。いつもなら気付けたんだが、この部屋というより建物、魔力探知が鈍るな」
「さっすがAランク様、よく気づくね」
撤引の推察が当たり、女は拍手を送る。
「私の仲間に魔力阻害のテリトリーを使える奴がいんの。クソ陰キャでキモイけど魔法は使えるのよね」
「厄介な野郎だが、自分の仲間から陰キャだのキモイだのと言われてる事には同情するぜ」
撤引は針が刺さった部分を止血し、もう一度戦闘態勢を取る。
女は先程のヒットで調子に乗っているのか余裕を見せている。
その油断を撤引は見過ごさない。
撤引は同じように女に突っ込む。
「ははっ!バカ正直に突っ込んでじゃねえよ!頭使えないの!」
女は同じように針を飛ばす。
飛ばした針の中に次は2本、本物を混ぜる。
本物には痺れ毒が塗られているため、当たれば相手を弱体化できる。
魔力探知が鈍っている今、本物と偽物の見分け方見た目以外にないが、小さな針を刹那に視覚だけで見分けるのはほぼ不可能。
予想通り、本物の針が撤引に刺さる。
女が勝ちを確信したその時、背後に強烈な痛みを感じる。
「ガッ!?」
脳が揺れる中、何が起きたのか確認する。
女の背後には棒状のパイプが煙に支えられ浮かんでいて、その煙は撤引から発生していた。
(なんで!?腕も足も見えてる、どこから煙を…!?)
「戦闘中に相手の能力を探るのは基礎中の基礎だろうが」
女の疑問の答えを撤引は説明する。
「お前の攻撃がすり抜けた時、俺は体を煙に変えてたんだぜ?何で腕と足しか煙に変えられないと思った?」
撤引は背中を煙に変え、煙で形どった腕でパイプを掴み、女を殴った。
女は煙に変えられるのは腕と足だけだと勝手に決めつけていた。
背中で物を掴むという発想ができていなかった。
「魔法ってのは奇跡だぜ?普通はできねえ事もできるかもしれないと考えないとなー」
「このクソジジイ!この針生様を怒らせた事、後悔してもしらなねえぞ!」
「威勢のいい女は嫌いじゃないぜ。ほら立て。第2ラウンドだ」
撤引と針生は向かい合い、3度目の戦闘態勢を取った。




