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アフタヌーンティー

「初めましてディオス殿下。イルナ・シェラザードと申します」


 まだ5歳なのに必死に練習したのだろう。俺に名乗ってから5歳とは思えない所作でカーテシーをした。 


「イルナ殿。今日はお越しくださってありがとうございます。お目にかかれて嬉しいです。どうでしょう。この後テラスでアフタヌーンティーを召し上がりませんか?」


 ディオスがそう提案すると、イルナの後ろに控えていたイルナの母がそっと彼女に助言した。


「行ってらっしゃい。お母様は別室で待っていますから」


「はい…お母様」


「ではご案内します。イルナ殿。お手をどうぞ」


 そう言ってディオスはイルナに手を差し出すと、イルナはおずおずとその手にまだ小さい手を乗せてディオスと一緒に庭園に向かった。


「今はちょうどバラが咲いておりますから。もし気に入られたらお持ちになりますか?庭師に命じますので」


「ありがとうございます。ディオス殿下。バラは好きです」


 イルナはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。先ほどまでの緊張した面持ちが少し和らいだようで安心する。


(まだ5歳なのにこんなところに親なしで放り込まれて少し気の毒だな。きっと彼女は生まれた時から妃候補として扱われてきたのだろう。だから5歳にして既にその資質を見せている。先ほどのカーテシーにしてもそうだ。3歳であれだけできるのであれば、あと2年もすればさらに磨きがかかるだろう。どれだけの研鑽を積んできたのか。想像に難くない)


 ディオスはそう考えると、せめて今日は美味しいジュースとお菓子でこの小さな妃候補を可愛がりたいと思った。

 今後どのように育てば、目の前の可憐な少女が悪女になるのか想像できないが、彼女を救うために尽力しなければと改めて思う。


「ディオス殿下…あの…お母様から言いつけられて…」


 イルナはモジモジと視線を彷徨わせながら何かを伝えしょうとしている。


「今日は必ず気に入っていただくようにと…命じられております」


 まだ5歳だ。大人の言うことを、言葉そのままに伝えてしまうのは仕方のないこと。本来、今の発言は大変な失言だが、周りの大人たちにはイルナの小さな声は届いていなかったようなので、ディオスはほっとした。


「イルナ殿、母君や父君のおっしゃったことは私に言ってはいけませんよ?それはきっと母君や父君が秘密にしておきたいことでしょうから」


 優しく諭すとイルナはすぐに先ほどの発言が失言だったことに気づいて慌てて頭を下げる。


「ごめんなさい!お母様には…」


「大丈夫だよ。俺の心の中に留めておく。それから。心配しないで。俺はイルナ殿のことを気に入っています。あなたがこれから健やかに成長されて。いずれ俺の妃となって国を支えてくれることを期待しています」


「ディオス殿下…」


  イルナはそれを聞くとキラキラと目を輝かせて微笑んだ。とても可愛らしくつい見惚れる。まだ3歳なのに彼女の美貌は人目を惹く。俺もその一人だった。


(あとはこの子の性格がどのように捻じ曲がっていくのか…それが問題だな)


 気をつけて見張りたいが、基本、婚約を結んだと言ってもお互い勉学などに忙しく、会える機会は良くて月に2〜3回。だがディオスはそれでは少ないと思っていた。せめて週1〜2で会えるようにして彼女の成長を見守りたいと思った。


「さあ着きましたよ。イルナ殿が好きなお菓子があるといいのですが」


 テーブルの上には所狭しと美味しそうなお菓子がたくさん並べられていた。

 イルナは目を輝かせたが、何かを思い出したようで、お菓子には手を伸ばさず、ジュースだけ飲んで沈黙している。


「どうしましたか?何かお気に召さないことでも?」


「いえ…。お母様が…あっ!」


 イルナはまた口を滑らせてしまい。慌てて小さな手で可愛い唇を押さえた。

 その所作が可愛くて俺は微笑みながらテーブルの上からマドレーヌを手に取ってイルナに手渡す。


「今日は遠慮しないでください。うちの料理番が腕によりをかけて作ったお菓子です。イルナ殿に是非食べていただきたい。もし叱られそうになったら、俺が無理やり食べさせたと言えばいいんですよ」


 イルナはそれを聞くとしばらくマドレーヌを見つめていたが、小さな口を開いて一口齧った。


(どんな反応を見せるのかな?)

 密かに楽しみにしていると、イルナはキラキラと目を輝かせて小声で「美味しい」

と言ってから。少しずつ、小動物が餌を食むように食べ進めていく。


(可愛い!こんな可愛い娘が本当に悪役令嬢になるのか?)


 ディオスはイルナの可愛さに癒されながらアフタヌーンティーを楽しんだ。


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