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図書館列車、その名の通り列車型の移動式図書館である。外装は歴史あるスコットランドの豪華列車を想起させ、乗客を優美な風格で出迎える。内装は木を基調としており長い歴史を感じさせながらも、人々を暖かく迎える雰囲気があった。職人の手で丁寧に掘られた装飾品や鼻に抜けるような木の香りは、それだけで人を幸福にするのだ。
一度のその列車に乗った者は口々に言った。
『あの列車は素晴らしい。本好きにとってはまさに天国のような場所だった』
『とても居心地が良かったわ。いつかもう一度乗りたいの』
『列車はとても素晴らしかった。けれどもっと素敵だったのは、あの《《支配人》》だな』
『《《人形姫》》と呼ばれているだけあるわね。髪は艶がかったブロンドで、肌も陶器のように白くて、思わず見惚れてしまったわ』
図書館列車の支配人、リリア・スチュアート。通称は人形姫。彼女の美貌は異性だけでなく同性までも虜にする。支配人としての洗礼された態度や心遣いが存在をより神聖なものにしていた。
彼女はこの図書館列車の総括であり本の選定を行う司書でもある。この列車の全てを担う人材であることから、支配人と呼ばれているのだ。
『もう一度乗りたいけれど、残念ね。私が生きている間にもう一度出会うことができたならいいけれど、本当に名残惜しいわ』
一人の女性客が眉を下げて惜しそうに呟いた。乗客を見送りに出ていたリリアはその客にそっと近づき、極めて男性的な礼をした。
『ご婦人、この度は図書館列車へのご乗車誠にありがとうございました。名残惜しいとのお言葉、支配人冥利に尽きます。人間は夢を見ることができる唯一の生き物である、とシェイクスピアが記しました。それならば私たちは再会という名の夢を見ましょう。また、巡り会えることを信じて』
そうして女性の手をとり、リリアは口付けた。いやらしさは全くなく、絵画として切り取った一部のような光景だった。
図書館列車は一見普通の豪華列車であるが、一つ他の列車とは大きく違う点がある。それは時空を行き来する、まさに本を求める列車であること。行き先は支配人であるリリアにしかわからないと言われている。故に乗客は図書館列車と巡り会えたことに感謝をし、また出会いたいと思うのだ。
この列車は人々の間で、幻の列車として噂されている。いつどこで出会えるかわからない、時代、国を問わず様々な本が配架された列車。その言葉だけで人々は胸躍らせる。そして願わくば一目見たいと思うのである。