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第4話

オレは、自分の部屋にいた。

 学校の課題をこなしている。

「……ユイのそばにいなくていいのか?」

 今日は病院が休みのナトリが、部屋に入って話しかけてくる。

「どうして?」

 オレはノートにペンを走らせながら、ナトリに聞き返す。


「こういうとき、昔のお前ならユイのそばを離れようとしなかっただろう。熱を出した日なんて、初等学校の帰りにユイの家に急いで行ったこともある」

「そんなこと、あったね」


 それに今のユイは、母のことを案じている。オレたちが反対しなければ、そのまま外に出て、病院に向かったかもしれない。

 だから、ユイが勝手に外出しないように見張っておいたほうがいいかもしれないけれど。


「でも、もう子供じゃないんだし、ずっと子守りするわけにはいかないって」

 監視しているみたいなのも嫌だ。


 「いつも、ユイとは距離をとろうとするな。まっさきに家ですごすように言ったのはお前なのに」


「昨日のは、さすがに見捨てられなかったから。でも、いつまでもべったりしたくない」


「……ウィルのことを気にしているのか。彼は残念だった」


 ウィルの名前を出されて、オレは動揺した。

 ノートに黒い線が引かれる。


「何が言いたいんだよ」

 後ろを振り返り、父さんを睨みつける。

「ウィルのことは、お前は悪くない。ただの災害だ。ユイも本当のことを知ったとしても、お前を恨んだりしない。わかるだろう」


 甘いな、オレの父さんは。


「息子だからって、優しくしすぎだよ」

「息子かどうかは関係ない。何なら、本当のことを話してもいいんじゃないか?」


「だめだよ。それはユイの父さんが話すなって言ってる」


 ユイにそっくりな栗色の瞳だが、娘と違って目つきが鋭い彼女の父親。

 家に火を放たれ、妻も娘も傷を負ったというのに姿を現さないという、オレからするとなりたくない大人の手本みたいな男。


 あいつが目の前にいたら、殴ってやるのに。


「なら、父さんの話は忘れていい。……せめてお茶でも淹れて、ユイのところに持っていったらどうだ? いつまでも放っておくのもどうかと思うが」


「……そうだね」


 朝ごはんを食べて、母さんが家を出ていってからだいぶ時間がたった。

 もうお昼前だし、昼食は何にするか聞いておかないと。


 だが、お茶を用意して、ユイのいるはずの部屋に持っていったとき……


「……あのバカ」


 肝心のユイは、その部屋にいなかった。窓が開いていて、外からの冷たい風が吹いてくる。

 その風に吹かれて、テーブルの上の紙切れが足元にまで飛んできた。

 オレは紙切れを拾い上げた。

 整った若干丸文字なユイの字で、こう書かれていた。


『病院に行ってきます。ちゃんと戻ってきますので』


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