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第五話 能力の反動

夜が明けると、朝日が霧を透かしながら森の隙間からこぼれ、神秘的な光が野営地を包み込んでいた。しかし、その柔らかな光とは対照的に、家族の表情はどこか重く沈んでいる。昨夜の戦いの反動が今も彼らの体に重くのしかかっていた。健一と颯斗は、目が覚めるたびに痛みを伴う筋肉の強張りと疲労感に苛まれ、ほとんど身動きが取れない。体中の筋繊維が酷使され、その一つ一つが引き裂かれたように感じられ、寝返りさえ困難なほどだ。


「くそ…まったく体が言うことを聞かねえ…」健一は小さな呻きを漏らしながら、なんとか身を起こそうと試みるが、その度に体中が警鐘を鳴らすように痛みが走る。


颯斗も同様に、昨夜の瞬間移動を繰り返した影響で、全身が痛みに支配されていた。「父さん…オレもだ…一歩も動けそうにないや…」


蒼一は、その二人の姿を見ながら、自分の中で湧き上がる焦りと悔しさを抑えきれないでいた。「なんで…なんでオレだけ何も起きないんだよ…」彼の声には悔しさが混じり、瞳にはどこか寂しげな色が浮かんでいた。能力が目覚めた家族と違い、自分だけが普通のままであることに対する不安と焦りが募る。


玲奈がそんな蒼一の肩に優しく手を置き、心配そうに囁く。「大丈夫だよ、蒼一も絶対に目覚めるよ」


「玲奈はいいよな…お前の力は役に立ってる。でもオレは…」蒼一は視線をそらし、地面を見つめながら溜息をつく。玲奈の励ましも、この瞬間だけは蒼一の胸に届かない。


「ちょっと蒼一、大丈夫だからって悲観的になるなよ」颯斗が苦笑いを浮かべながら、力を振り絞って言葉をかける。


その時、まりが柔らかく笑みを浮かべながら、二人に気を配り、「大丈夫、皆今はそれぞれのペースで成長しているのよ」と語りかける。その言葉には、まるで自分の過去に触れているような遠い響きがあった。


蒼一が不思議そうに眉を寄せ、「…お母さんはどうやって今の力を手に入れたの?」と尋ねると、まりは一瞬遠い昔に思いを馳せるように視線を漂わせた。そして、彼女の顔に優しい微笑みが浮かび、物語が始まるかのように話し始めた。


「実はね、私もこの世界に来る前の場所では何の力もなかったのよ。ただ、そこは私にとっても異世界みたいなもので…」と語りだすと、健一が懐かしげにまりに視線を向け、二人だけに通じる何かを感じ取った様子で目を細めた。


健一とまりが出会ったのは、まるで運命のような出会いだったという。まりは、健一が偶然立ち寄った場所で困っていたところを助けられ、それから自然と一緒に過ごす時間が増えた。そして、日本に来てからも異世界からやってきたまりは日本のことを一つひとつ学びながら健一と共に生きていく決意をしたのだと語った。


「健一さんは、私がどこから来たかを知っても変わらずに接してくれて、そんな健一さんを私は心から信頼し、愛するようになったの」とまりはどこか恥ずかしそうに微笑んだ。


蒼一と玲奈は、いつもと違う母親の一面に驚きつつも、彼女の過去に触れることで、家族としての結束がさらに深まっていくような感覚に包まれていた。颯斗も弱りながら、静かに話に耳を傾け、自然とまりへの尊敬の念が心に広がっていく。


まりの話が終わる頃、彼女は蒼一の手をそっと握り、優しく言った。「蒼一もいつか、自分の力に気づく日が来るわ。それがどんな時であっても、私たちはあなたを信じているから」


蒼一は母の言葉に少し照れながらも、心が少し軽くなった気がした。


朝日が低く差し込む中、健一と颯斗が筋肉痛で動けないことから、運転席に座るのはペーパードライバーの真莉になった。彼女は座席に深く座り直し、ハンドルを慎重に握りしめた。運転には自信がないとはいえ、ここでは彼女にしかできない役目だ。


「ま、マーちゃん…頼むから、ゆっくりな?」健一が痛みで顔をしかめながら言う。


「大丈夫よ、けんいち。あんたがしっかり休んでくれるなら、どんな山道だって私がどうにかするわ」真莉は自分に言い聞かせるように小さくうなずき、エンジンをかけた。エンジン音が静かに響き、家族全員が一瞬緊張した面持ちを浮かべる。


玲奈は後部座席で丸くなり、「マーちゃん、ゆっくりでいいよ。私も応援するから」と優しい声をかけた。


真莉は慎重に車を進め、異世界の道なき道を見つめた。この世界の風景はますます異様さを増していた。巨大な花々や、昼間にもかかわらず星のように輝く不思議な光が空に浮かび、山や森の奥からは見慣れない動物たちの鳴き声が響いてくる。


「しっかりね、真莉」と自分に言い聞かせ、ハンドルを少しずつ動かして車を進めた。


「ほんと、こんなにでかい木や植物があるなんて…」蒼一が驚きながら窓の外を見ていた。まるで原始時代にタイムスリップしたような巨大な植物や、見たこともない動物たちが木陰から顔を覗かせている。


「ねぇ、蒼一。ちょっとはお母さんのドライビングスキルを褒めてくれてもいいんじゃない?」真莉が少し冗談めかして言うと、蒼一はにやりと笑って「そうだね。今のところ、驚くほど安定してるよ」と言った。


車は順調に進んでいたが、真莉が深い森の小道を曲がろうとしたその時、何かがバサッと草むらから飛び出してきた。


「わっ!」真莉が驚いて急ブレーキを踏むと、目の前に立ちはだかったのは、異世界の生物らしい奇妙な鹿のような生物だった。大きな角を持ち、体は青みがかった光で輝いている。


「マーちゃん、ゆっくりね。焦らず…」健一が静かに声をかける。


「うん、あれを避けて通ればいいだけよね」と真莉はハンドルを慎重に切り、鹿のような生物を避けるように進んだ。息をのむような状況だったが、家族全員が息を合わせて真莉を応援しているようだった。


未知の土地を進むこの冒険の中、彼女は確かな一歩を踏み出していた。そして、彼女の運転技術も、少しずつ家族を守る力に変わっていった。


車が静かに道を進んでいく。真莉は慎重にハンドルを握り、道なき道を進みながらも、家族を不安から解放しようと必死に運転していた。周囲の風景はまさに異世界そのもので、視界の隅々まで奇妙で美しいものばかりだ。遠くの空には、明るく輝く異星のような星々が昼間にもかかわらず浮かび、巨大な木々が風に揺れるたびに、どこか神秘的な光を放っていた。


「すごい景色だな…」颯斗が感心したように言う。


「うん、異世界ってこういう風景なんだろうね。」蒼一が言うと、真莉は「それにしても、どこかの世界の景色みたいよね。こんな風景、本当に見たことないわ」と呟いた。


「そうだな、でも、この道がどこに続いてるかさっぱりだ」と健一が言う。彼はまだ筋肉痛に苦しんでおり、体を動かすたびに痛みに顔をしかめながらも、時折真莉を気にかけている。


「けんいち、安心して。もうちょっとだけ進めるわ。みんなが支えてくれるから」真莉はそっと運転に集中しながら言う。彼女の声は少し震えていたが、必死にその不安を隠していた。


その時、突然、車の前方に強烈な風が吹き荒れ、周囲の空気が一変した。何かが近づいてくる、そんな予感がした。


「なんだ!? この風!?」颯斗が窓から顔を出し、眉をひそめる。


「おかしい…何かが近づいてきてる…」蒼一が、鋭い目を細めて言った。


その瞬間、目の前に現れたのは、見たこともない巨大な生物だった。全身が鱗に覆われ、鋭い爪を持つその生物は、まるで岩のように硬い表皮をしており、巨大な翼を広げて、空を支配しているかのように見えた。その背中には、何本もの角が生えていて、全体的に圧倒的な存在感を放っている。


「これは…一体…」健一が目を見開く。


「ただの動物じゃない。あれは異世界の生物だ。」蒼一が冷静に言う。


「動物じゃないのか?」颯斗が驚いているが、そんな余裕はない。


その巨大な生物は、突然翼を広げて地面に突き刺すように飛び込んできた。風圧が車を揺らし、何もかもが一瞬で狂ったように感じた。


「やばい、避けろ!」健一が叫び、真莉は必死にハンドルを切るが、あまりにも急な動きに対応できず、車は一度、大きくスリップしてしまった。


その瞬間、颯斗は、これまでの状況に必死に対応しようと考えていたが、突然、自分に何かが起きたことに気づく。突如として、彼の身体が異常なほどに軽くなり、視界が一瞬で変わった。


「な、何だ、今の!? どこだ!?」


颯斗の周りが一瞬で歪んだ。彼は、周囲の景色を感じ取る暇もなく、目の前に見えたものに反応する。視界の中で、瞬間的に移動できるような感覚が湧き上がり、気が付くと、颯斗はその生物のすぐ近くに立っていた。


「颯斗!?」健一が驚き、声を上げる。


その瞬間、颯斗の周りの空間が一瞬で変わり、次々と異なる場所へと移動し始めた。異世界の広大な空間を、彼は瞬間移動で切り裂いていく。視界が変わるたび、彼は異常な速度で動いていたが、そこに恐怖が生まれた。


「ちょっと待ってくれ! 力が…暴走してる!」颯斗の体は、まるで自分が操縦されているかのように動き、瞬間移動を繰り返しながら無力感を感じ始めた。体が疲労を蓄積し、どこかで限界が来るのがわかった。


突然、颯斗が地面に崩れ落ち、空間が歪んだような錯覚に襲われた。息も絶え絶えに、体を起こそうとするが、手足が動かない。


「颯斗!」健一が車を降りて駆け寄る。


「どうした、颯斗?」真莉が慌てて駆け寄るが、颯斗の顔色は異常に青白く、息も荒い。


「暴走した…体が…動かない」颯斗はその言葉を言い切ると、痛みを感じたように顔をゆがめた。


真莉はすぐに手を差し伸べ、回復魔法を発動させた。軽く手をかざすと、彼の体を包み込むような暖かな光が広がる。その光は、颯斗の体に瞬時に浸透し、彼の傷ついた体を癒していった。


「大丈夫か、颯斗?」健一が心配そうに声をかける。


颯斗はうっすらと目を開け、「うん、大丈夫だ…でも、なんだか疲れすぎて…」と、何とか力を振り絞って答える。


真莉の回復魔法が効き、颯斗は少しずつ回復していったが、それでもまだ完全に元気を取り戻すには時間がかかるようだった。


「すごい…ほんとに、お母さんの力は…」颯斗が小さく呟くと、真莉は微笑みながら言った。


「でも、この世界ではみんなそれぞれ力を持っている。私だってまだまだ、これからだよ。」


真莉はそう言い、運転に集中する。


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