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幼なじみが「クリスマスまで100日を切った」とアピールしてくる

作者: 三位三体

「クリスマスまで100日を切りました」


やけにかしこまった風にそう言って、目の前に座る幼なじみのイオリは飲みかけのコーラをじゅー、と吸った。


「はあ……、だから?」


また面倒な話が始まるに違いない。俺はポテトをつまみながら、適当に返す。


「だから?って、いや、もっと興味持とうよ。クリスマスまであと100日なんだよ?重大な事だよ!」


イオリは、ストローからきゅぽっと口を外し、身を乗り出して息巻いた。


「クリスマスって、お前なあ。さっき夏休みが終わったばっかだろう。いくらなんでも気が早すぎる。クリスマスの何がそんなに重要なんだ」


心底呆れた。俺はそんな風にため息をついて、月見バーガーの包みを開けた。


気づけば八月も背中に去り、残暑が元気に猛威を振るう今日この頃。俺とイオリは学校終わりに、駅前のハンバーガーショップに寄り道をしていた。


文化祭を数日後に控え、授業が午前中で終わったため、今俺の手の中にあるバーガーは少し遅めの昼食だ。


窓の外をちらりと見ると、店の前の路地を、見るからに仲の良さそうな高校生カップルが手を繋ぎながら歩いていた。俺はその光景からふい、と視線をそらして月見バーガーに齧り付いた。うまい。


「いやいや、でも、あたしの友達も彼氏作んなきゃって焦ってたよ!」


「……それとクリスマスになんの関係があるんだよ?」


イオリはだめだこりゃ、と芝居がかった風に大袈裟に肩を落とした。


「だーかーら、クリスマスまでに恋人作らなきゃってこと。クリスマスはやっぱり恋人と過ごしたいでしょ?だからつまりね、あたしは今恋バナをしようとしてるワケ」


分かった?とイオリは俺の瞳を覗き込む。


「……俺なあ、それ、よくわかんないんだよなあ」


俺は食べかけのバーガーを一旦トレイに置き、ぐっと背もたれに体重を預ける。


「何が?」


イオリは首を傾げた。


「いや、その"クリスマスまでに恋人作らなきゃ"ってやつ。俺も友達からよく聞くけどな。イマイチ理解できないんだよ」


「えー、なんで。クリスマスはカップルの祭典だよ?恋人といちゃいちゃする為のお祭りだよ?」


キリストさん、怒っていいですよ。


「……まあ、一万歩譲ってそうだとしても、だ。クリスマスに恋人と過ごすのが楽しいってのは、結果として、というか」


「どゆこと?」


「つまり、そういうのって、好き合ってるから楽しいんだろ?クリスマスの為に急いで恋人作るんじゃ、そんなの友達と過ごしてるのと同じようなもんじゃないのか?」


「……恋愛感情の問題?」


「まあ、そういうこと。クリスマスの為に恋人作るってことは、クリスマスが終わったら別れることになるじゃないか」


イオリは、分かってないなあ、と頬を膨らませた。


「だから急がなきゃなんじゃん。クリスマスまでに今から恋愛感情育ててくんだよ!」


「そういうものか?」


「そういうものだよ。……それにさ、別に全員そういうパターンって訳でもないでしょ?」


「……つまり?」


「いや、だからその、片思いしてる相手がいるんだったら、クリスマスまでに、告りたい、とか」


「あー……。そういうのも、あるか」


「あります。そういうの、めっちゃあります」


イオリは少し顔を赤くして、コクコク頷いた。


「……それでつまり、イオリもクリスマスまでに彼氏が欲しいと?」


「ふぇ!?」


予想外の言葉を言われたかのように、イオリは目を見開いて2センチほどガタンと飛んだ。いや、自分からこの話題出したんだろ……?


「え、何その反応」


「いや、え?うん、まあ……彼氏?、はまあ、そう、なんだけど。あたしはどっちかと言うと、というか圧倒的に後者って……いうかっ?まあ、今まさにっていうか……いやこれはなんでもなくて」


目とか舌とかくるくる回してよく分からないことを言ったかと思うと、イオリはどん、とトレイの乗ったテーブルに肘を置いて鼻の前で手を組んだ。


「あたしがもしクリスマスまでに彼氏欲しいって言ったら、あんたは……どうする?」


やけに血走った目……よく見たら少し涙ぐんでもいる目でこちらを窺う。


「え……いや、どうだろ」


急な質問に戸惑う。心臓が急にドコドコとうるさくなったようだ。動揺で不自然に乾いた声を、イオリには悟られないようにしないと。


「やめとけ、っていうかもな」


「それは、なんで?」


それは、それはその、あれだ。あれなんだ。あれなんだけど……何て答えればいいんだ!?


「それは……、くだらないからだ」


「何が?」


「……クリスマスに、恋人と過ごすことが」


「ふぁい?」


あ、やべえ。なんか言い方間違えた。


イオリぽかんと開いた口がぷるぷると震えている。


「そ、そ、それはいくらなんでも陰キャすぎでしょ!?この話題を根本から否定したぁ!?」


ふぎゃー、とイオリが吠える。


「くだらないですって!?クリスマスに!恋人と!過ごすことが!んがぁ!?じゃあ無理じゃんかよう!クリスマスデート、したくないのかよぅぅ」


頭を抱えて悶えるイオリに、俺は慌てて声を張った。


「俺の言い方がおかしかった。誤解だ。そういうことではない!」


「じゃあどういうことだ!」


その、つまり、俺は!


「……クリスマス当日に告白した方が、なんかこう、良くないか?」


「……へ?」


イオリが気の抜けた声を出す。


自分の顔が熱くなっているのが分かるが、俺は止まらずに続ける。


「その方が、ロマンチックじゃねぇか!……その、だから!」


「……う、うん」


「……イオリ、クリスマス当日、予定空けといてくれないか」


自分の口から出たのは思ったよりか細い声で、ちゃんとイオリに届いたかどうか一瞬不安になるが、みるみるうちに真っ赤に染め上がるイオリの頬を見て、大分しっかり届いたことを確信する。安心と同時に恥ずかしさが波のように込み上げてきた。


「……うん。分かったァ」


絞り出したような声が、トマトみたいになっているイオリから発せられた。


***


それから十年後。


「やっぱりクリスマスに告白なんてするんじゃなかった」


「なんで!?」


「お前がクリスマス用のと、付き合った記念用ので、毎年ケーキ二つねだるからだろうが!」


「いいじゃん、いいじゃん。お得じゃん。それに、今年からはケーキ三つに増えちゃうもんね!」


「婚姻届もクリスマスに出すんだもんな……」

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