第92話 誰とどこへ行ってきた?
寮の部屋に入るなり、お土産に目を輝かせるドナルド。ニコラも興味深々で覗き込み、開いた途端に甘じょっぱい香りが広がった。
「食っていいのか?!」
「美味しそうですね」
二人の様子に「ああ、美味かったぞ。食え」と答えてしまい、ルイは失敗したと顔を歪ませた。ドナルドはちらりと視線を向けたが、深い追及はしない。カトラリーも箸もないので、諦めて手で摘まんで口に放り込んだ。
「ふあい!」
旨いと大絶賛し、二つ目を右手に、左手でもう一つ掴む。行儀の悪さに、ニコラが叱った。だが手に取った稲荷寿司を置くことはなく、そのまましっかりキープした。十個購入した稲荷寿司は、気づいたら半分になっていた。
「誰と食べたんですか? まさか一人で……なんて、嘘を吐いたりしませんよね」
追及するニコラから逃れるため、一つを口に投げ入れる。ちょっと大きくて、口の中がいっぱいになった。これで食べ終わるまでに言い訳を考えればいい。ずる賢いルイの振る舞いに、ニコラは笑顔で稲荷寿司を齧った。ゆっくり分けて食べるのは、彼が好きな物を最後に食べるタイプだからだ。
幼い頃からもったいぶって残し、隣のドナルドに取られて泣くくせに。何度経験しても癖は直らなかった。ちなみにドナルドはもちろん、ルイも好きな物は最初に食べる派だ。
「はんほほは」
なんのことか、わからないとルイがとぼける。呆れ顔のニコラに静かにと指でジェスチャーされた。
「食べているのに話さないでください。ドナルドは食べ過ぎです」
叱りながら、六個目を手にしたドナルドから包みを取り上げる。竹の皮で包んだ稲荷寿司は、残り二つになっていた。半分以上食べたので満足したドナルドは、取り返そうとしない。残りを一つずつ手に取り、お土産は終わった。
この後夕食があるのだが、当然ドナルドは二人分食べる予定だ。白米に関してはおかわり自由なので、山盛りに食べるのが日常になっていた。パンより腹持ちがいいと気に入っているようだ。
「それで、誰とどこへ?」
「……倭国の友人に、お稲荷さんが買える店に買い物へ」
最低限の情報に限定しようとして、逆にボロが出た。お稲荷さんという呼称を、ルイが知るはずがない。ということは、教えてくれた誰か、倭国の友人へ興味が向いた。ニコラはかなり執念深いタチらしい。
「へぇ、僕達を置いて?」
「いいじゃないか、お前達が知らない友人がいても」
ぷくっと頬を膨らませ、不機嫌さを装う。にやりと笑って、ニコラは引いてみせた。
「ええ、構いませんとも。この情報は陛下にご報告しておきます。我々の知らない、倭国で二人きりで会うような友人ができた、と」
何度も意味ありげに言葉を区切りながら、国の家族にチクるぞと脅した。嫌そうな顔をしながらも、ルイは無視する。まさか本当に報告するとは思わなかったから。




