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第80話 権利を譲渡されました

 罪を許しても自由放免になるだけ。それでは主であるアイリーンの望みは叶わない。もう一度願うチャンスがあればいいけれど、無理だろう。帝セイランを知るからこそ、ココは厳しめに状況を判断した。


 所有権を主張するのは、二人を勝手に処分させないため。代わりに二人の罪がアイリーンに掛からないよう、神狐である僕が願いを使用する。その上で、僕の主人はアイリーンだからと所有権を移転すればいい。当事者間で解決を考えたら、これ以上の解決方法は思い浮かばなかった。


「やれやれ、神狐様はいつも邪魔をなさる」


『承知の上で受けたんだろう?』


 二人の会話の意味が分からずきょとんとするアイリーンの向かいで、ルイは多少理解できてしまった。つまり、ルイもバローも、アイリーンと契約した狐の配下になったということ。ただ、深刻に考えるのはやめた。


 一国の王子に対して無礼だとか、自国に戻ったらやり返してやるとか。そんな物騒な感情はない。助けられたのは事実なので、恩返しはしたいけれど。


「では、神狐様にお渡ししましょう」


『うん、確かに受け取った』


 ココはくるっと宙返りした。描いた円が縁を繋ぐ。大きな体で回転したのに、着地の音はしなかった。天井や壁にもぶつからない。絶妙な体の捻りと柔らかさで、簡単そうにココは準備を整えた。てくてくと近づいて、二人の前に座る。


 じっと見つめて、仕方なさそうに溜め息を吐いた。いやに人間臭い態度だが、アイリーンと一緒にいて感化されたのだろう。右前脚を持ち上げ、ぽんぽんと二人の額に肉球を押し付けた。ぐいと押されて倒れそうになるが、ぐっと堪えるルイ。だがバローは後ろに転がった。


『これで僕の声も聞こえるはずだよね。神の眷属になったんだから、しっかり働いてもらわないと』


「……この狐、喋る?」


 魔法で翻訳されたが倭国の言葉だった。流暢に喋る仕組みが気になる。


「ねえ、ココ。結局のところ、どうなったのよ」


 振り返って小型化した神狐は、やれやれと首を横に振る。いつの間にか膝に乗って撫でられるネネを蹴落とし、当然のように膝を占拠した。


『うわっ、ひどいよ……ココ』


『うるさいよ、ネネ。僕が優先なの』


 はるかかなた、神代の時代からの決まり。そう言われて、狗神はうーんと考え込む。それからアイリーンの膝の脇に寄り添って寝転がった。


『神代からの決まりじゃ仕方ないかな』


 あっさり小狐に騙される子犬に、さすがのアイリーンも気づいて笑った。神代の時代から決まってたら、私は何歳なのよ。そう呟いた途端、ルイがぷっと吹き出す。起き上がったバローも肩を震わせるが、声を洩らすのは堪えた。


「お父様、二人とも連れ帰っていいですか?」


「好きにしなさい。神狐様によくお礼を言うんだよ」


「はーい」


 明るく返事をしたアイリーンは神狐を抱いて立ち上がり、足下でじゃれ付く狗神も抱える。ついてきてと二人に声を掛けた後、思い出したように『(かい)』と言霊を洩らす。解けて落ちた腕の拘束に驚きながら、帝に一礼して彼女に従った。

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