表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/159

第73話 今回だけですよ

 目が覚めて、ぼんやりしながら水を受け取った。包帯が巻かれた手は滑る。しっかり両手で掴んで傾けた。キエが差し出したコップの中身を干して、また追加で水をもらう。三杯目は温かいお茶で、これまた半分ほど飲んだところで意識がはっきりした。


「……侵入したルイは?」


 ようやく働き出した頭がはじき出したのは、捕らえられて引きずられるルイの姿だった。狗神様に何かあった心配はしない。もし瘴気が残っていたら、他の神様が飛んで来ると思うし。叩き起こされてもう一度舞ってる頃よね。


「現在まだ牢内です」


 キエが答える間に、枕元からココが這い出てきた。手足を伸ばしてゆっくり欠伸をして、ココは再び寝転んだ。腹を上にする姿勢なので、顔を埋めてしっかり補充する。やっぱり神様の化身はいい匂いがするわ。毛皮もふわふわだし、絶対に癒し成分が出ているはず。


「会える、かな」


 こてりと首をかしげて尋ねる。出してほしいと願ったら拒絶されると分かっていた。だから自分が出向くと伝えてみる。眉根を寄せたキエはしばらく睨みあった後、仕方なさそうに肩を落とした。


「皇太子殿下にお伺いしておきます」


 伝えるだけです。そんな副音声が聞こえるわ。嫌だと示すのに、応えてくれる。ありがとうとお礼を口にした。いつだってそう。キエは嫌われるのを承知で、厳しい道を示す。本当は嫌な役目だと思うのに、彼女は私にも優しかった。叱られるのは怖いけれど。


「……はぁ、今回だけですよ。何とか致します」


 そういうつもりじゃなかったんだけど、嬉しいから頷いた。ここからは軽いお説教と安静にするよう伝える内容で、小一時間も拘束される。でもキエの表情が怒ってるのに、なんだか照れているみたいで擽ったいわ。


 一人になってまた眠って、起きたら夕方だった。丸一日寝ていたのかしら。顔を見せた侍女に尋ねたら、二日目の夕方だったわ。驚いたけれど、それだけ霊力を消耗したって意味だ。キエに伝言を頼み、姉達へ挨拶に回った。ココはまだ休むと言って、布団で丸くなる。


 奉納舞いの控えは簡単そうだけれど気を遣う。ヒスイ姉様は霊力が低いから、余計に大変だと思う。神々が四隅を固める舞台なんて、肩が凝るもの。アイリーンは次姉に挨拶して立ち去るつもりだったが、舞台を見に行くならと同行を申し出られた。


 断る理由もないので、長姉のアオイの部屋へ足を向ける。ここでも体調を心配され、撫でまわされた後……アオイ姉様が同行すると言い出した。普段は仲の悪い姉達なのに、アイリーンが絡むと過保護になる。くすくす笑いながら廊下を進み、舞台へ足を踏み入れた。


 庇が覆う舞台の上は片付けられ、誰もいない。しんとした場にアイリーンがぺたんと座った。ほぼ中央の位置に座る彼女の前に、白い狗が現れる。


「狗神様、お加減はいかがですか。瘴気は湧いてきませんか?」


『うん、ありがとう。何ともないよ。こんなに体が軽くて気持ちが前向きなのは、本当に久しぶりだ。それで……ちょっといいかな』


 神様に「いいかな」と問われたら、巫女は断らない。頷いたアイリーンの額に、狗神の鼻先が近づいた。


『こらっ! 僕のリンなのに!!』


 駆け込んだ神狐が叫ぶも遅く、咄嗟に目を閉じたアイリーンの額に鼻先が押し当てられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ