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第60話 倭国式の部屋は驚きの連続

 学校の寮は倭国式だった。まず玄関ホールで靴を脱ぐ。この習慣がない上、途中で立ち寄った宿では脱がなかったので驚いた。だが、宿は異国人も多いため土足を許可しているだけと聞いて、三人は顔を見合わせる。ここまで来て逆らう理由もなかった。


 大人しく靴を脱ぎ、定められた棚に入れる。その先は廊下もすべてベッドの底板と同じ素材だった。畳と呼ぶらしい。草の香りがして踏みしめると柔らかい。なるほど、靴で踏むのはもったいないと納得した。


 部屋の扉は内開きでも外開きでもなく、横にスライドする。変わった形の捻る鍵の使い方を教えてもらい、首を傾げながら振り返った部屋の中は……何もなかった。最低限、机だけはあるが高さが低い。


「必要な物はすべて、この押し入れの中だ。使い方はこれを読んでくれ」


 寮の管理人は、まだ若い男性だ。留学する異国人の相手をするため、簡単な説明書を用意していた。問題は、三人が漢字を読めなかったことだ。話す言葉は魔法で補ったが、その流暢な話し方で管理人は誤解した。彼らは話せるし、読めるはずだ……と。


「……図を見て判断し、分からないところは尋ねてはどうでしょう」


 ニコラの提案に従い、三人の留学生達は頷き合った。図解されているため、机が低い理由はすぐに判明する。床である畳に四角いクッションを敷いて座るのだ。必要な物が入っていると言われた「押し入れ」なる扉を開いた。


 スライドした先に、四角いクッションを見つける。が想像したより重く、さらに平べったかった。綿をケチったのか? 首を傾げながら並べる。座ってみると、意外に丁度良かった。使い古しを用意されたわけではないようだ。


 押入れの奥を探ったニコラに呼ばれ、ドナルドが手を貸した。床に直接布団を敷いて眠る。その絵に困惑しながら、彼らは一式敷いてみた。寝る段階で布団が敷けなければ、床で直接寝転がることになる。


 重く白いカバーが下で、上掛けは軽く模様と色が付いていた。枕を引っ張りだし、ここはあまり変化がないので、普通に頭の下に入れる。くたくたの枕は、がさがさと音がして硬かった。いろいろ不満や疑問はあるが、ひとまず形にはなった。


「ここで二年生活するんですよね」


 不安そうなニコラに、ドナルドは明るく返す。


「俺は寝る部屋と食事、鍛錬の時間があれば満足だ」


「脳筋ドナルドらしい発言です」


「ああ? なんだと?!」


 二人の言い争いをよそに、ルイは王家の図書室から持ち出した本を広げた。そこに書かれた生活の絵と同じ道具が、目の前に並んでいる。


「見てみろ、そっくりだぞ」


 興奮して手招きし、ニコラやドナルドと盛り上がる。こうやって使うのか、と自国の本を参考にあれこれ確かめた。作業に夢中になっていると、管理人から食事の時間だと声が掛かった。荷物は一切片付いていないが、三人はにやりと笑い合い、押し入れの隙間にすべて押し込んだ。


 大きな荷物はこれから届くが、二年間はこの部屋で三人で暮らす。押し入れはいい物置になりそうだと、ルイ達の共通認識になった。大量に物を詰め込みすぎ、布団が敷きっぱなしにして叱られる数か月後の未来を知ることなく。

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