第114話 実家からの緊急要請
学校の授業が終わったところへ、客が待っていると連絡が入る。寮ではなく、学校へ連絡してくる相手……? 考えながらルイは応接室へ向かった。
畳の部屋で座布団に座り待っていたのは、大商人バローだ。大きく肥えた体はやや細くなり、頬も痩けていた。ほぼとんぼ返りの大陸間往復は堪えたらしい。
「第二王子殿下、お久しぶりでございます」
「ああ、なんというか。大変だったようだな」
話を聞かずとも、かなり無理をしたのだろうと察せられる。バローは苦笑いし、痩けた頬を撫でた。それから手を懐へ差し入れる。取り出したのは一通の手紙だった。
「こちらをお預かりしました」
まだ数十日は先だった日程を、大幅に繰り上げた理由はこの手紙にある。受け取ったルイは、裏にある封蝋に目を細めた。見覚えがあるどころではない。ビュシェルベルジェール王家の封印だった。
表を確認すれば、宛先はルイになっている。実家からの正式な手紙、嫌な予感がした。
「言伝は?」
「可及的速やかにお渡しし、ご返答をいただくように、と」
嫌な予感がさらに強くなる。帰ってこいとか、そんな内容じゃないのか? 疑うから、開けることを躊躇した。知らないフリで処分したい。だが縋るようなバローの視線に、根負けして封筒を開けた。
無理を言って儀式に同行させてもらったり、自分の勝手な行動で彼を罪人にしたりと、申し訳ない借りがある。返せるうちに返せないと、利息が膨らみそうだ。大商人相手なので、そんな心配も働いた。
乾いた音を立てる手紙は、たった一枚だった。開いた文面に目を通し、後悔が胸に広がる。と同時に、読まなくても後悔する未来に気づいた。
「地震が頻発し、魔力濃度が上がった……ドラゴンの目覚めが近いのか」
「まだ予測段階ですが、その危険性が高いと思われます」
王家が隠そうとせず、商人にも話が通っているなら。ほぼ確定事項と考えてよさそうだ。表向きは兄アンリのために病弱で通すルイだが、魔力が高く戦えることを家族は知っている。緊急時は、ドラゴンと戦ってほしいと綴った。
他大陸へ留学した第二王子は、本来なら王家の血を絶やさないために帰国を拒まれる。しかし王太子となったアンリに、戦う能力はなかった。護身程度の剣術と最低限の魔法しか扱えない。
ドラゴンが復活すれば、大陸を挙げての戦闘になるだろう。戦える騎士団や貴族を指揮し、戦える王子を温存する余裕はなかった。両親の苦悩が滲んだ手紙を畳み、丁寧に封筒へ戻す。
「承知した。船の手配を頼む」
ニコラとドナルドには、どうするか選択させる気だった。ドナルドは竜退治と聞けば、参戦するか。ニコラは出来たら東開大陸に残したい。頭の中で様々な打開策や作戦を打ち上げ、片っ端から否定した。
もし本当にドラゴンが復活するなら、大陸と命運を共にする覚悟が必要だ。悲痛な決意を固める王子に、バローは床に擦り付けるほど深く頭を下げた。こんな若者に命運を託すしかない大人の、無力感に苛まれながら。




