第108話 ようやく名付けた
「ねえ、そんなに拗ねないでよ」
『我のことなど、どうでも良いのであろう? なにしろ、三番目ゆえ』
名付けを後回しにされたと、盛大に拗ねてとぐろを巻く白蛇神に、アイリーンは手を伸ばした。鋭い牙で威嚇したものの、本気ではない。噛みついたりはしなかった。
「ココだって名付けに二週間もかかったの。いっぱい考えて、名前を付けるんだから……分かるでしょう?」
譲歩してほしいと願えば、じっと見つめる瞳が煌めいた。
『よい名が見つかったのか?』
「ええ。とっても素敵よ。今までが同じ響きを繋げたでしょう? 同じ繋がりにしたくて、ミミがいいかなって」
ちょっとどうなのか。この子に名付けの才能は皆無なのでは? 任せたらいけないような。不安になる白蛇神に、由来を話し始める。
「蛇って巳年じゃない。だからミミ」
そう言われると、悪くない気もする。これを断っても、ナナだのモモだの名付けられそうだ。考えたあと、白蛇神はミミの名を受け入れた。
『それでよかろう。今後はミミと呼ぶが良い』
今までの神々の中で、一番偉そうに承諾する白蛇神は、とぐろを解いて移動した。くねくねと近づき、指先へ口付けるように舌を触れさせる。
「よろしくね、ミミ」
『ふむ。我と契約したからには、呪いは二度と主人の身に降りかかることはあるまい』
呪いや呪詛、蠱毒といった面を司る白蛇神の断言に、アイリーンは曖昧に微笑んで頷いた。他人を呪う予定もないし、いいかな? 役に立つ能力なのは確かよ。私の呪いが消えてから、すごく楽になったもの。
笑顔のアイリーンは知らない。呪いの力は成就するまで、消滅しないことを。彼女へ向けられた呪いは到達したものの、巫女の霊力やココの抵抗でほぼ休止状態だった。
その呪いが動いたのは、アイリーンがミミと契約した瞬間だ。ネネは瘴気に侵食されたため、神であっても闇への抵抗力が下がっていた。ココ単独では軽減がせいぜい、ネネが加わってようやく拮抗し、最後にミミが呪いを返した。
そう、呪いは相手に返ったのだ。呪いを司る神が、この呪いは認めぬとはね除けた。恨みを向けた人の数は多く、妬んだ者は数えきれない。皇家の末姫の巫女は、羨望の証だった。憧れは届かない嫉妬に変わるのだ。
貴族の粛清に動き出した父と兄だが、半数は気が触れていた。返った呪詛はそれだけ重く、大きかったのだろう。歴代最強の巫女をして、体調や霊力に不調を感じるほどに。
まあ、主人殿は知らずともよい。狐も狗もまっすぐ過ぎるゆえ、我のような臍曲がりが混じるくらいでちょうど良いはずだ。白蛇神は温もりを求め、冷えた身をアイリーンへすり寄せた。
「ミミ、すごく冷えてるわ。これじゃ辛いでしょ」
快く受け入れ、膝の上に持ち上げる。五尺(150cm前後)まで小さくなった白蛇神を恐れることなく、手を伸ばして温めた。幼い頃と同じだ。この子の本質は何も変わっていない。安心しながら、ミミは彼女の膝で短い眠りについた。




