第107話 自由に行き来できたのよね
数週間後、倭国では公家の一斉調査が行われた。不正に皇族へ干渉したことが問題視され、審査会が発足する。皇太子シンが審査委員長を務めるため、ある意味、出来レースだった。
同時に末姫アイリーンが、三柱の神々と契約した件を発表する。ここまでが準備段階だ。何を探られているか分からない公家は、恐れ慄きながら動きを見守った。審査会により吊るされた貴族は、十二家にのぼる。末端まで含めれば貴族や公家を名乗る家は三十六。多いか少ないか、判断は難しかった。
「シン兄様、ちょっと相談があるの」
執務室を訪ねたアイリーンは、山積みの書類に目を見開く。普段はこまめに処理をする兄が、こんなに溜めるのは珍しい。隣で姉アオイも書類処理を行っていた。
「アオイ姉様もいたの? じゃあ、お茶菓子を追加してもらおうっと!」
ひょいっと扉を開け、控えていた侍従にお使いを頼む。侍女がお茶を運ぶ前に、お茶菓子とお茶の追加を伝えてもらうのだ。部屋に戻ったアイリーンは、コの字型に並んだ机の正面、シンの前に座った。
「何かあったのかい?」
「留学なんだけれど、本当に行ってもいいの? もし瘴気や穢れが出たらどうするのかな」
巫女としての能力が高く、何か事件が起きればアイリーンが呼ばれた。その状況が頭を過ぎる。姉アオイの手に負える程度の敵ならばいい。もっと大きな穢れなら、二人で協力する必要があった。
異国にいたら、緊急時に困るんじゃないかな。こてりと首を傾げ、ツインテールを揺らして問う妹に、シンは目を瞬いた。それから筆を置いて、柔らかな笑みを浮かべる。
「問題ないよ。君ばかりに頼りっきりも良くないからね。巫女達に頑張ってもらうつもりだ」
「そうよ。それに普段から隣大陸と行き来してたんでしょう? 本当に手に負えなければ、助けてって呼ぶわ」
アオイに笑顔でさらりと付け加えられ、アイリーンは納得した。それもそうだ。何かあれば、向こうの屋敷にある陣と行き来できる。神であるココが出来るなら、ネネも白蛇神様も出来るはず……あっ!
「大変っ! 白蛇神様に名前つけてないわ!!」
契約獣なのに、名付けていない。これでは白蛇神の力を使えないのだ。お互いに霊力や神力を行き来させるには、名付けという絆が必要だった。
慌てて立ち上がるも、後ろの扉から茶菓子が運ばれてきた。大好きな豆大福で、緑茶付きだ。うぅと唸って、アイリーンはすとんと腰を落とした。
「おや、行かなくていいのかな?」
茶菓子を受け取りながら、意地悪な発言をする兄に妹はぷいっとそっぽを向いた。
「いいの! 今まで忘れてたくらいだもの、あと一刻遅れても一緒よ」
ある意味正論だが、屁理屈のようにも聞こえる。肩をすくめたシンが、豆大福の皿を差し出した。嬉しそうに受け取り、手で頬張る。アイリーン曰く、大福は豪快に齧るのがマナーらしい。くすくす笑いながら、兄シンも同じように齧り付いた。
確かにこちらの方が美味しい気がする。口元に粉を付けて食べる二人を交互に見て、アオイも初めて大口を開けて噛みついた。




