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第106話 父と兄の悪巧みは深夜捗る

「いいんじゃない?」


 セイランは不貞腐れた様子を隠さず、好きにすればと突き放した。口調は乱暴だが、アイリーンの留学も悪くないと思っているようだ。ルイを客間へ送ったシンは、その足で父の元を訪れていた。近習に叱られ、かなり機嫌が悪い。


 見捨てた息子を睨むが、その八つ当たりでアイリーンの未来を潰さない辺りは彼らしい。帝としての振る舞いは、公平だった。いや、かなり家族に傾いているか。貴族である公家の不満を引き受けることになっても、徹底抗戦するつもりのようだ。


「父上、戦うならご協力しますよ」


「もちろん協力してもらうよ。だって君らの希望を叶えるんだからね」


 セイランは当たり前だと頷いた。アオイとヒスイも協力するだろう。妻達が生きていた頃は、誰もが仲良く力を合わせていた。彼女らが亡くなった途端、抑えていた実家が外戚として勢力を伸ばす。


 欲が出た。まさに、そう表現するしかない状況だった。皇族と繋がるために娘を差し出したのに、子を遺して亡くなる。ならば彼女らの代わりを、皇族である孫に負わせよう。そんな醜い意図が垣間見える状況で、神々が倭国を見放さなかったのは……アイリーンがいたから。


 神々の寵児と表現できるアイリーンは、巫女としての力も強いが、神々の好む天真爛漫な性格で魅了する。振り払うことも可能な魅了に、好んで飛び込んだのが神狐ココだった。続いて狗神ネネ、さらに白蛇神が加わる。


 歴代の巫女に、二柱以上の契約をした者はいなかった。この功績を持って、アイリーンの皇族としての地位を復権する。最強の末姫には、三柱もの神々が味方していた。反対すれば、白蛇神辺りに呪われる。


 わかっていて不幸を呼び寄せる家門はないはず。二人はにやりと笑い、お互いそっくりな悪い顔で頷きあった。深夜にお開きとなった非公開会合の内容は、早朝から姉姫二人に共有される。


 知らぬは当事者ばかりなり。アイリーンが呑気に惰眠を貪った。二度寝して、キエに起こされ慌てて支度を整える。今日はルイを見送りがてら、街に出る予定なのだ。朝食は自室で一気に粥を掻っ込み、飛び出した。


「あ、リン……っ、姫?」


 ぎこちなく呼び方を調整するルイに「リンでいい」と告げる。侍女など使用人もいるので、気を遣ってくれたらしい。微笑んで手を繋ぎ、出かけてくると言い残した。数分後駆けつけた兄シンは息を切らせながら、舌打ちした。


 根回ししている間に、妹が男と手を繋いで外出したなど。報告を受けて飛んできたが、すでに姿は見えない。悔しさにそのまま飛び出そうとして、側近達に拘束された。


「皇太子殿下、本日の仕事が終わっておりません」


 もっともな理由を告げられ、それでも抵抗したのだが。慣れた侍従達は手早く靴を奪い、彼を担いで執務室へ運んだ。


「兄様ったら無様ね」


 ふふっと笑い、アオイは忍び足で裏口へ向かった。だが脱出直前にキエ達に発見され、これまた執務室送りとなる。次姉ヒスイは、仕事のフリをして脱出に成功した。巫女や舞い手の祠訪問は不定期に行われる。その慣習を利用したのだ。


 頭の良し悪しより、ずる賢さが物を言う。長女より次女、次女より末っ子。年若いほど、上の失敗に学んでいた。

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