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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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328 二人だけの秘密

 (みちる)藤城皐月(ふじしろさつき)は少し早めにカラオケを切り上げて店を出た。まだ4時前だったので、満にデザートを食べに行こうと別のコンカフェに誘われた。

 満に連れて行かれたのは男装カフェだった。満はここにも通っているらしく、男装の麗人たちに厚くもてなされた。

 キャストの子たちは男っぽく振る舞っていたが、やはり女を隠し切れていなかった。男装カフェはあえてそういうところを楽しむ店なのだろう。

 メイクの効果で皐月は中性的な美少年になっていた。そのせいか、この店でキャストたちから異様にチヤホヤされた。女装の男子が男装の女性と出会う……そんな化学反応を見て、満は満足気な顔をして微笑んでいた。

 皐月には満がまるで自分のことを自慢しているように感じた。だが、皐月は男のような女性と話をしていても、ロリータの子たちと話をしていた時ほど楽しくはなかった。店内の客は全て女性だったので、男の皐月が居心地が悪いのは仕方のないことだ。


 店を出て立体駐車場に戻った。帰りはビートをオープンにしないつもりなのか、満はいつまでも幌を開けようとはしなかった。

「どうして屋根を開けないの?」

「うん……。帰りはいつも幌を閉じて走ってる。そうするとビートって小さいから、密室って感じになって落ち着くんだよね」

「確かに狭いね。でも、心地いい」

「だよね。……ねえ、皐月。さっきはカラオケで拒んじゃってごめんね。今してあげる」

 満の右手が左頬に添えられ、皐月は引き寄せられてキスをされた。軽い口づけだったが、満はさっきより顔を押し付けてきた。唇が柔らかくて、気持ち良かった。

「皐月は明日美(あすみ)姐さんが好きなんだよね?」

「まあね」

「私とこんなことしてもいいの?」

 満は自分からキスをしてきておいて妙なことを言う。皐月は満に及川祐希(おいかわゆうき)と同じ倒錯を見た。皐月はこういう背徳行為に慣れ始めていたので、満と少し遊んでみたくなってきた。

「あれっ? 二人の秘密じゃなかったっけ?」

「秘密だよ」

「じゃあ、いいじゃん」

 今度は皐月からそっと唇を重ねた。薄目を開けて満を見ると、満は目を閉じていた。皐月は人とキスをしているような気がしなかった。


「満姉ちゃんは俺なんかとキスしてもいいの?」

「ん……本当は良くない」

「じゃあ恋人がいるんだ」

 満は男嫌いだと明日美から聞いていたので、満に恋人がいることが意外だった。皐月は本当に良くないことをしている気がしてきた。

「私ね……薫と付き合ってるの」

「えっ!」

 明日美から満の男嫌いの話を聞いた時、満がレズビアンかもしれないということを考えたことはあった。まさか本当にレズだとは思わなかった。

「まあ、そういうことで。……皐月、私って気持ち悪い?」

「全然」

「本当?」

「うん。気持ち悪くないよ。でも、キスしたら気持ちいい」

「皐月はエッチだな〜」

 今度は満からキスをしてきた。今までの唇を重ねるだけのキスではなく、皐月の知らないレズビアンのキスだった。満のキスは唇にも舌にも全く力が入っていなく、甘く、柔らかく、とろけそうなキスだった。

「でも、どうして? 俺って男なんだけど……」

「それはまだ皐月が男になっていないからかな。それに皐月って私の好みなんだよね。ごめんね、いやらしくて」

 ドールのような満には不思議とエロスを感じなかった。それでも満の超絶技巧に体は反応していた。

「いいよ。俺だってそういうエッチなことをしたいって思ってたから。でも、いいの? 薫姉ちゃんがいるのに、こんなことして」

「二人だけの秘密なんでしょ?」

「……そうだね。秘密だったね」


 皐月は家に電話をして、満と晩ご飯を食べてくることを母に伝えた。小百合は予想していたのか、なんの疑いも持たずに了承した。

 皐月は体の反応に心が追いついて、急に胸がドキドキし始めた。満ともっとキスをしたくなり、ロリータ服の満を抱きしめたくなった。

「皐月。何時まで一緒にいられる?」

「9時かな……」

「わかった。じゃあ私の家に行こう。豊川じゃ、この格好でお店に入りたくないな。皐月、後でコンビニで何か食べ物を買って来てね。今日の夕食にするから」

 満は皐月の返事も聞かず、イグニッションキーを回してエンジンを始動させた。満の駆るビートはスロープを滑るように駐車場を出た。外はまだ明るかった。夜の9時まではまだたっぷりと時間がある。

 満は大須に来る時ほど話をしようとしなかった。皐月から話しかけられない限り、黙って運転をしていた。だが、怒っているわけではなかった。話している時の声のトーンは大須に来る時よりも優しかった。

 皐月は時々こっそりと満の横顔を見た。運転している時の満は美しく、格好良かった。人形のような満を見ていると、自分がこの人とキスしたことが信じられなくなってくるが、体にははっきりと満の記憶が残っていた。


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