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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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297 女子を喜ばせることが趣味

 稲荷小学校に着き、藤城皐月(ふじしろさつき)が6年4組の教室に入ると、今日も最初に会ったのは松井晴香(まついはるか)だった。晴香といつも一緒に小川美緒(おがわみお)惣田由香里(そうだゆかり)の二人もいる。

「おはよう、諸君」

「おはよう。諸君って何? 上から目線?」

「違うよ。君たちに敬意と親愛を込めて言ったんだよ」

 晴香からふわっといい匂いがした。

「あれっ? 松井、香水つけてきた?」

「よくわかったね。あんたはいつも、よく気が付くよね」

「普段と違って大人っぽい匂いだからな。そんなセクシーな香りを撒き散らしていたら、俺、晴香のこと好きになっちゃうじゃん」

「じゃあ後で美耶(みや)にこのパフュームつけてあげよ」

 晴香は軽くかわしているようで、皐月の言葉に喜んでいる。晴香を喜ばせるのは皐月の趣味で、ラスボスを攻略するような面白さがある。


「晴香、良かったじゃん。月花君も晴香のこと、好きになっちゃうかもよ?」

 由香里は自分も月花博紀(げっかひろき)のファンクラブに入っているのに、ファンクラブ会長の晴香を博紀にくっつけようとする。由香里は自分が恋愛するよりも、人の恋愛を見たり、小説やマンガの恋愛を楽しむのが好きらしい。

「なんだ、俺の気持ちを(もてあそ)んでおいて無視かよ」

「あんたなんか、どーでもいいのよ」

「あ〜、そーですか。でもさ、俺よりも博紀よりも花岡(はなおか)の方がお前に惚れちゃうかもな。隣の席でずっとフェロモンに当てられ続けるんだからさ」

「嫌だ!」

 晴香が叫んだところに花岡聡(はなおかさとし)がやって来た。

「先生、おはよう。今日も朝から女とイチャついてるな」

「イチャついてないわ! バカっ!」

 晴香は聡のことを毛嫌いしている。聡は晴香の好きな博紀とは真逆なタイプで、爽やかさに欠けるところがある。

「花岡、おはよう。悪いな、お前の女と仲良くしちゃって」

「いいよ。存分にかわいがってやってくれ。キスまでなら許してやるから」

「サンキュー。心が広い」

「お前ら、キモいんだよ!」

 聡がセクハラ発言したのに、晴香は聡にではなく、皐月に思い切り蹴りを入れた。顔が歪みそうなくらい痛かったが、皐月は何事もなかったような顔をして痩せ我慢した。

 聡は晴香の隣の自分の席にランドセルの中身を入れ、ランドセル置き場に逃げて行った。

「松井……足、痛い」

「あんたが悪いんでしょ? 私が花岡の女みたいなこと言うから」

「ごめんごめん。ちょっとからかい過ぎた」

「今度そういうこと言ったら殺すからね」

「出たー! 晴香の『殺す』」

 由香里が嬉しそうだ。由香里は晴香の毒舌が大好きだから喜んでいるが、美緒は少し怖がっているように見える。

「小川、今日は外ハネにしてこなかったんだ」

「うん。ちょっと時間がなかった」

「そっか。でも、いつものボブも似合っててかわいいよ。じゃあね」

 皐月は背中のランドセルが重く感じ始めたので、美緒たちに手を振って自分の席へ行った。


 皐月が自分の席に着くと、同じ班の女子3人は席に着いていたが、男子の他2人はまだ来ていなかった。

「おはよう」

「藤城さん、おはよう」

 隣の席の二橋絵梨花(にはしえりか)はいつも勉強の手を止めて挨拶を返してくれる。本人曰く、学校ではあまり真剣に勉強をしていないそうだ。

「おはよう」

 後ろの席の吉口千由紀(よしぐちちゆき)も読書を一時中断して、皐月に挨拶を返して読書に戻った。千由紀は今日から新しい本を読み始めたようだ。何の本か聞きたかったが、今は聞くのを遠慮しておいた。すぐに読書を再開したので皐月は千由紀の邪魔をしたくなかった

 前の席の栗林真理(くりばやしまり)は勉強に集中しているので、何も言ってこない。真理は学校でも受験勉強に集中できるタイプだ。こういう時、皐月は勉強を邪魔したくないので、真理にちょっかいを出さないようにしている。絵梨花は勉強に戻る気がなさそうなので、皐月は体を寄せ、小さな声で話しかけた。

「修学旅行ってたくさん歩く予定じゃん。靴ってどうする? 新しいの買ったりする?」

「私はもう買った。エアークッションの靴。今日の体育の授業で慣らそうと思ってる」

 絵梨花ではなく、千由紀が本を読むのをやめて、絵梨花に代わって質問に答えた。最近の千由紀は皐月たちのお喋りによく付き合うようになった。

「私は今履いている靴で行こうと思ってるけど、甘いかな?」

「二橋さんは身体が軽いから、足に負担がかからないし、大丈夫だと思うよ」

「でも吉口さんは新しい靴を用意したんだよね。私も新しい靴、考えてみようかな。藤城さんは?」

「俺は新しい靴、買うよ。旅行用に新しい服を買ったから、それに合わせて靴も買おうかなって思って」


 真理が勉強の手を止めて振り返った。

「皐月、おはよう。修学旅行に着ていく服、買ったの?」

「まあね。俺って旅行に着ていけるような私服を持っていないからさ、この際ちょっとお洒落しちゃおうかなって思って」

「そうか……もう買っちゃったんだ。なんだ、私が服選んであげたのに」

「その時はまた頼むよ」

 皐月は真理の言葉にわざと素っ気なく答えた。真理の言い方が学校では心理的な距離が近すぎると感じたからだ。

 皐月は教室で二人が仲良くしているところをあまり見られたくないと考えている。うっかり仲良くし過ぎると、雰囲気で周りに二人の関係を気付かれるかもしれないので、用心するに越したことはない。

 素早く絵梨花と千由紀に視線を走らせると、皐月には何となく二人が怪訝(けげん)な顔をしているように見えた。


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