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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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286 インド料理店

「何を食べようかな……カレーのいい匂いがするから、お腹が空いちゃった」

 明日美(あすみ)でもお腹が空くのかと、藤城皐月(ふじしろさつき)には不思議に思えた。

 明日美には食事をとらなくても生きていけるような非現実的なイメージがある。それは皐月が明日美に憧れていた期間が長かったからだ。こうして現実に明日美と付き合うようになってからも、その心象はまだ消えていない。

 明日美がメニューを手に取った。ディナーメニューのページを開いていたので、皐月もそこから選ぼうと思った。

「いつもスーパーで買っているカレーとは違うものを食べてみたいな……」

 明日美はレディースセットを選んだ。定番のカレーメニューから1種類選べるところが気に入ったようだ。このセットにはスープ・サラダバイキングとドリンクバーの他に、生春巻きが付いていて、ナンを選べる。

「カレーはブロンマサラにするね。ナンは普通のでいいかな……」

 ブロンマサラはコクのあるエビカレーだ。皐月もエビを食べたくなってきたが、家ではチキンのカレーが好きだ。


「皐月は何にする?」

 単品を組み合わせた方が面白そうだが、今日は御馳走になるので高額になるようなことはできない。皐月は無難にセットメニューにしようと思った。

「エビマヨセットにしようかな。これならカレーとエビの両方を食べられる」

 エビマヨセットはエビマヨとカレーのセットだ。その他にスープ・サラダバイキングとドリンクバー、タンドリーチキンが2本付いていて、ナンを選べる。

「カレーはバターチキンにしようかな。俺、バターもチキンも好きだから」

「バターチキンカレーはインド料理の定番だから、美味しいと思うよ」

「ナンはどうしよう……本当はご飯が食べたいんだけど、せっかくインド料理店に来たんだから、やっぱりバターナンにする」

 注文が決まったので店員にオーダーして、明日美と皐月はドリンクバーへ行った。明日美がマンゴージュースとラッシーを混ぜて、マンゴーラッシーを作っていたので、皐月も明日美の真似をした。

 スープバイキングでは皐月はコーンスープを選び、明日美はえびスープを選んだ。サラダバイキングでは明日美は量を控えめに、皐月は好きなポテトとコーンを多めに盛り、インドかベトナムの漬物のようなものを少しだけ載せた。


 皐月は明日美の食生活が気になっていた。明日美はどんな食べ物が好きで、普段は何を食べているのか。皐月はそんなことすら知らなかった。そもそも明日美が何かを食べているところをほとんど見たことがない。こうして一緒に食事をするのも初めてだ。

「明日美って普段は何を食べているの?」

「何それ? 変な聞き方をするのね……。心配しなくてもちゃんとした食事をしているよ。ご飯を炊いて、お味噌汁を作って、おかずも食べて。普通でしょ?」

「でも、あまり自炊しないんだよね?」

「お味噌汁は多めに作って、2〜3日は同じのを飲んじゃうかな。だからあまり料理はしない方かも。おかずはスーパーで買っちゃってるけどね」

「味噌汁を自分で作るだけでも偉いじゃん」

「疲れているときは味噌汁もインスタントにしちゃってるんだどね。へへ」

 自分で作らない割には、思ったよりもきちんと食事を摂っているようなので、皐月は安心した。家のキッチンを見て、明日美は料理なんかしないのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。


「皐月は頼子さんが家に来るまでは食事、どうしていたの?」

「俺はね、自炊することもあったけど、外食が多かったかな」

「一人で外食するの?」

「うん」

 明日美はかなり驚いていた。

「小学生なのに一人で外食?」

「そうだよ。家の近くにお店がたくさんあるからね。たまに自転車で遠出して、全国チェーンの店に行くこともあるよ」

「へ〜、すごいのね。私は一人で外食ができないから、尊敬しちゃうな」

「一人で外食できないって、明日美、大人じゃん」

「人前に出るのが好きじゃないの」

芸妓(げいこ)なのに?」

「芸妓の時は衣装や化粧で武装しているから平気なの」


 明日美は人の目を気にしている。自意識過剰と片付けられそうだが、皐月はそうは思わなかった。

 明日美くらい美しいと、どうしても周りの人は目で追ってしまう。それに、機会があれば話しかけてみたいと思う人もいるだろう。

 小学5年生の入屋千智(いりやちさと)でさえ、外に出るときは目立たないようにしている。だから、皐月には明日美の心情がわからないでもなかった。

「こうしてね、皐月が一緒に食事をしてくれると助かるよ。行きたくても行けなかったお店で外食ができるから」

「そういうことなら、いつだって俺がお供するよ。俺も明日美と食事ができると嬉しいからさ。時々明日美と食事に行きたいって、ママに言ってみるよ」

「ありがとう。でも、百合姐さんに変な風に思われないかな……」

「しょっちゅうじゃなければ大丈夫だと思うよ。俺は毎日でも一緒にご飯を食べたいけどね」

「じゃあ私からも百合姐さんにお願いしてみる」


 皐月と明日美がスープを飲んでサラダを食べていると、カレーとナンがやってきた。明日美の生春巻きと皐月のエビマヨとタンドリーチキンもきた。

「これは……すごいボリュームだな。ナン、でかっ!」

「皐月、全部食べられそう?」

「俺は余裕だけど、明日美は?」

「たぶん大丈夫だと思うけど……」

「多かったら俺が食べてあげるよ」

 皐月と明日美はお互いに食べ物をシェアをして食べることにした。そうすればより多くの品を食べられる。

 カレーは皐月が想像していたのと違い、マイルドな味付けだった。インド料理ということで、もっと辛く、癖の強い味なのかと思ったが、日本人向けにアレンジされているようだ。生春巻きはソースがベトナム風の味付けで、辛かったり甘酸っぱかったりして、皐月の知らない不思議な味だった。


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