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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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284 夕明かりの中

 豊橋の夜は迫っていた。まちなか広場の並木はすでにライトアップされていた。今はまだ夕明かりの中にあるが、夜の(とばり)が下りてしまえば、樹々は光で美しく照らされる。

 ショッピングを終えた明日美(あすみ)藤城皐月(ふじしろさつき)はメンズファッションショップ『コンパル』を出た。

「ねえ、皐月ってカレー好き?」

「うん、好きだよ。大好き。給食で一番好きな献立」

「今晩は一緒にカレー屋さんに行ってもらいたいんだけど、いいかな?」

「いいよ。CoCo壱番屋(ここいち)?」

「ううん。インド料理の店」


 皐月はまだ本格的なインド料理を食べたことがなかった。インドのカレーが日本のカレーと違うということは知っていた。作ってみたいと思ったこともあったけれど、自炊するにはスパイスを揃えるなどハードルが高い。皐月はいつか本格的なカレーをインド料理店で食べてみたいと思っていた。

「私、外食ってほとんどしないんだ」

「本当? じゃあ、普段の食事は自分で作っているの?」

「めったに作らないかな……。何か買って来て食べたり、レトルトで済ませたりすることが多いよ」

「あぁ〜、なんかそんな感じ。明日美の部屋って生活感がないから、自炊しているように見えないんだよね」

「片付けをちゃんとしているだけよ」

 皐月は自分の家の台所が片付いている方だと思っていた。及川頼子(おいかわよりこ)が住み込むようになり、家の中が整理整頓されるようになったからだ。

 だが、明日美の家のキッチンはレベルが違う。全ての物が完全に収納されていて、外に物が一つも出ていない。


 明日美と皐月はライトアップされた並木道を抜け、豊橋まちちか駐車場から emCAMPUS(エムキャンパス) EAST の建物の中に入った。

 1階のフードコートには寄らずに、そのまま地下にある豊橋まちちか駐車場へ下りていった。事前精算機で支払いを済ませて明日美の車の方を見ると、周りには一台も車が止まっていなかった。

 改めてレジェンド・クーペを見るとデザインが美しい。大きな車体なのに2ドアというのも贅沢な感じがしていい。車の後方から近づいたので、リアからのスタイルをよく見ることができた。この車は豊満な女性を思わせる色気がある。


 明日美と皐月は車に乗り込んだ。明日美のスマホでナビをするので、明日美にインド料理店を検索してもらった。

「皐月、どの店がいいと思う?」

 スマホを持って明日美が身を寄せてきた。皐月がスマホを覗きこむと、自然と顔を寄せ合うことになった。

 大人の女の匂いがした。皐月は女性の香りに弱いので、理性のたがが緩んでしまい、明日美の頬にキスをした。

「あっ……やったね」

「へへっ。だってしたかったんだもん」

「今はダメ。我慢して」

「じゃあ後で。ええっと……インド料理か」

 拒否する意思を見せられると、これ以上強引なことはしたくはないので、皐月は話を元に戻した。

「スーパーの『フィール』でね、時々インドカレーのお弁当を売りに来る『スヴァーハー』っていう店があるの。そのお店のレストランが豊川(とよかわ)にあるから、そこに行ってみたいな」

「なんだ……行きたい店、決まってんじゃん。それならスマホで探さなくても良かったのに」

「一緒にスマホを見ているから、こういうことができるんでしょ?」

 そう言いながら、今度は明日美からキスのお返しをされた。

「さっき俺に我慢しろって言ったじゃん」

「皐月に先にキスされちゃったからね。ちょっと意地悪を言ってみたくなったの」

 明日美が眼鏡を外した。地下駐車場の車内は顔の辺りが少し暗くなるが、かえって明日美の美しさが増しているように見えた。

 大人の色気に(ひる)みそうになるが、皐月は自分から明日美に顔を寄せた。三度目のキスは唇が重なった。


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