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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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282 アパレルショップ

 明日美(あすみ)藤城皐月(ふじしろさつき)は豊橋まちちか駐車場にある事前精算機の横を抜けた。

 緑の看板に描かれた案内を頼りに、スロープから emCAMPUS(エムキャンパス) EAST という複合施設に入った。ここには商業施設や行政施設のほか、図書館やオフィス、住宅(129戸)が入居している。皐月と明日美は1階の emCAMPUS FOOD には寄らず、外へ出た。

 地上には豊橋市まちなか広場という、かつてあった狭間児童広場を再整備した美しいエリアがある。皐月たちは多目的空間という楕円形のイベントスペースから左へ進んだ。みどりの空間というアンジュレーションを横目に見ながら並木通りを抜けると、水上ビルのある大豊商店街に出られる。


「きれいな所だな〜。ビルもでっかいし、都会みたい」

「皐月は都会に憧れているの?」

「うん。最近ちょっと憧れ始めた。真理(まり)が名古屋の中学に行くって言ってたり、頼子(よりこ)さんの子の祐希(ゆうき)さんも高校卒業したら東京へ行きたいって言ってるから、影響を受けたのかも」

「じゃあ、皐月は大人になったら都会に出ていくのかな?」

「……わかんないけど、一度は住んでみたい」

 並木通りを抜け、水上ビルが並ぶ通りに出た。背の低いビルが横に長く広がり、1階の高さでアーケードが作られている。令和のキラキラした emCAMPUS とは対照的で、昭和のノスタルジックなアーケード街が味わい深い。

 皐月の住む豊川商店街も大概古いが、水上ビルはガチだ。豊川駅前の商店街や豊川稲荷の表参道は戸別になっているので徐々に建て替えが進んでいるが、水上ビルの店は大きなビルのテナントなので、古い建物がそのまま残っている。

 昭和の雰囲気は水上ビルの方が圧倒的だ。昔は水上ビルも華やかだったのだろうが、現在ではタイルで粧飾された外観や、アルミサッシ丸出しの窓もレトロの味になっている。

 アーケードの錆びた柱や金具、色褪せたり禿げたりした塗装などが今でいう昭和の雰囲気ということになるのかもしれない。経年劣化したコンクリートやタイルの外観の店舗に、その古さを利用したレトロな作りや、老朽化に抗うように個性的なファサードの店が立ち並んでいる。

「ヤベ〜。こっちも面白いや」

「皐月はレトロも好きなのね」

小百合(さゆり)寮も昭和の建物だから、こういう場所は落ち着くのかな。昭和の歌謡曲も好きだし」

検番(けんばん)の建物も昔のままだよね。私のしている芸妓(げいこ)って仕事も昭和の仕事って感じだし……」

 皐月には明日美がこの場の雰囲気を楽しんでいないように見えた。よくよく考えてみると、皐月は明日美が無邪気に楽しんでいる姿をまだ見たことがない。それでも自分のことを猫かわいがりしていた時の明日美は嬉しそうにしていたと思う。


「ねえ、皐月。この店じゃない?」

「もう着いちゃった……」

 皐月たちが目指す『コンパル』は emCAMPUS から近かった。皐月は大回りをしてでもこの商店街を見て回りたいと思ったが、明日美のことを気遣って店に直行した。

 コンパルは店の外から中が見えにくいファサードデザインになっていた。無機質でお洒落な感じはするが、店舗の中に入るのには少しだけ勇気がいる。

 皐月が店に入るのを躊躇して小さな窓から店の中を見ていると、明日美は扉を開けてさっさと店の中に入っていった。

「いらっしゃいませ」

 落ち着いたトーンで男性の店員に声をかけられた。明日美が軽くお辞儀をしたので、皐月もそれに倣って軽く頭を下げた。店員はその男性一人しかいなかったので、彼が店長なのだろう。

 コンパルの店内は皐月の近所にあるアパレルショップとは違い、陳列されている服の量が少ない。この店はいろいろなブランドの服が店主の販売コンセプトに沿って置いてあるセレクトショップだ。


 皐月は小中学生の女の子向けのファッション雑誌を読むことがある。掲載されている商品はお小遣いの範囲でも買えそうな価格なのに、この店の服は子どもが買える金額ではない。だから皐月はこの店を候補から除外したのだが、明日美がこの店に決めてしまった。

 この店の服はモノトーンの配色で統一されている。明日美が価格を気にしないでこの店に決めたのは、売られている服が明日美の好みだからなのだろう。皐月は実際に店に来て、店内に身を置いていると場違い感に困惑した。

 明日美が黒のテーパードパンツの前で立ち止まって商品を物色し始めた。

「ねえ、皐月って身長何センチ?」

「前に身体検査で身長を測った時は162センチだったけれど、あれから背が伸びたって言われるようになったから、165センチくらいはあるんじゃないかな?」

「う〜ん。じゃあサイズはSかな? Mでもいけるかな?」

 皐月の年頃になると、子ども服では小さすぎ、メンズだと大きすぎてしまう。母の小百合(さゆり)が服選びで悩むと言うので、皐月は学校指定の体操服の短パンばかり穿()いている。

 明日美はすぐに候補を決めた。黒のテーパードパンツで、2プリーツのスラックスだ。今穿いているチノパンとシルエットが違い、裾に向かって細くなっている。これなら脚がスリムに見えそうだ

「明日美の選んだパンツって、Mサイズより上しかないんじゃないの?」

 他のボトムスを見てもSサイズは見つからない。皐月はここに来て初めて小百合の悩みを理解した。


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