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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第9章 修学旅行 京都編
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433 京都のホテル

 修学旅行初日の班行動は京都駅を出て、駅前の街中を歩いて、ホテルの玄関の前まで来て終わった。藤城皐月(ふじしろさつき)たちの班がホテル「つづれ屋」に着いたのは門限の3分前、16時27分だった。

 皐月たちは京都駅前の旅館街ということで余裕だろうと思って、時間ぎりぎりまで京都駅でお土産を見ていた。だが、そんなことをする児童たちは皐月たち以外にいなかったようだ。稲荷小学校の修学旅行生では皐月たちの班が最後のホテルへの到着だった。

 つづれ屋の外観はビジネスホテルよりも地味に見えた。それでも、玄関には黄金の切り文字表札で「つづれ屋」と大きく表示されていて立派な外観だったので、迷うことはなかった。

 紋の入った玄関幕が古都のホテルであることを誇っているように見えた。まだ小学生の皐月たちは仰々しいエントランスの中に入るのを躊躇して立ち止まった。

「こんなところ、俺たち子供だけで入ってもいいのかな?」

「私たちだけで入らないといけないのよ? 藤城さんって面白いことを言うのね」

「だって、大人の世界って感じでビビるじゃん」

 そんなつづれ屋に二橋絵梨花(にはしえりか)がなんのためらいもなく入ったので、皐月たちも後に続いた。


 ホテルのロビーには修学旅行の責任者で、6年3組の担任の北川先生と、新人の女性教師で6年2組の担任の粕谷先生が待っていた。

「藤城。お前たちが最後だ」

 班長の吉口千由紀(よしぐちちゆき)が粕谷先生にスマホを渡そうとしたので、皐月が止めた。

「ちょっと返すの待って。粕谷先生。俺たちの写真、撮って!」

「いいよ。じゃあ、みんな集まって」

 皐月たち六人はロビーにある欄間(らんま)が施された間接照明の下に集まった。

 ロビーはゆったりと落ち着いた純和風の雰囲気だった。だが、カウンター周りだけは昭和のような雰囲気だった。壁にはポスターや認証マークなどの掲示物が貼られていて、カウンターの横にはパンフレットスタンドやアクセサリー什器が場所を争うように置かれていた。

「撮るよ〜。はい、笑って〜」

 京都観光ではあまり撮れなかった六人勢揃いの写真を1枚増やすことができて、皐月たち六人は喜んだ。写真を撮り終わった粕谷先生は回収したスマホを業者に返却しに行くと言い、ロビーのソファーでスマホの確認をし始めた。


 皐月たちはカウンターで北川先生と従業員の女性のチェックを受けた。ペットボトルのお茶を受け取り、昼食時のゴミをゴミ箱へ捨てるように促された。

 ナップサックの中から使い捨てのランチボックスを出してゴミ箱に捨てていると、児童会長で修学旅行実行委員の副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)がやって来た。

「あれっ? 江嶋、何やってんの?」

「先生たちのお手伝い。集まったゴミをバックヤードに運んでいたの。藤城君も手伝ってね」

 副委員長の華鈴が手伝っている以上、委員長の皐月が手伝わないわけにはいかない。

「実行委員にこんな仕事、あったっけ?」

「ないよ。ホテルの人への挨拶をどうするのか北川先生に聞きに来たら、今年のホテルは挨拶をする時がなさそうだって言われた」

「本当? でも良かったじゃん。面倒がひとつなくなった」

「うん。それで北川先生についでにちょっと手伝ってけって言われた。ゴミは後で先生が片付けるみたいだったけど、代わりにフロントに溜まったゴミ袋を片付けてほしいって。見た目が悪いし、ちょっと臭うから捨てに行ってたの」

「そうか。じゃあ、俺も手伝うよ。あとこれらのゴミ袋だけだな。俺たちの班が最後だし」

 皐月がゴミ袋の口を縛っていると、栗林真理(くりばやしまり)神谷秀真(かみやしゅうま)岩原比呂志(いわはらひろし)らは先に行くと言い、それぞれの部屋に行ってしまった。


「このゴミ袋、どこに持っていけばいい?」

「私について来て」

 皐月は瓶や缶の重い袋と可燃ゴミの袋を持ち、華鈴は軽いペットボトルのゴミ袋を持った。二人は従業員用の出入り口からバックヤードに入って、ゴミ収集所へと向かった。

「班行動、楽しかった?」

「うん、楽しかったよ。でも、バスの移動が大変だった。人がいっぱいで、吸われなかったから疲れちゃった」

「俺たちは電車で移動したから、歩く距離が長過ぎた。疲れたけど、街歩きが面白かったよ」

「街歩きか……いいな〜」

 ホテルの裏側は何の装飾もなく、使い込まれていて年季が入っていた。ホテルの裏側を垣間見ることができたのは面白い経験だ。

 クリーンセンターには温和そうな係の老人がいた。彼に挨拶をして、指示に従ってゴミの処理を終えた。

「生徒はんがここまでゴミをほかしに来ることはあらへんで。おおきにな」

「ゴミを集めるところなのに、とても綺麗にしているんですね」

「クリーンセンターだからこそ清潔にしとてな。その方働いてるわしが気持ちがええさかいな」

 そう言って笑う係の人に皐月と華鈴は頭を下げ、ロビーに戻った。皐月はこの修学旅行で初めて地元の人と商売以外の会話をすることができた。


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