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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第9章 修学旅行 京都編
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395 神社が好き

 岩原比呂志(いわはらひろし)がスマホで女子三人が並んで座っている写真を撮ると、吉口千由紀(よしぐちちゆき)にスマホを渡して男子の写真を撮ってもらった。その後、比呂志はもう一度スマホを借りて、車内の撮影を始めた。

「岩原氏、嬉しそうだな。俺もちょっと興奮しているけど、岩原氏の鉄道愛には敵わない」

皐月(こーげつ)って鉄道もオカルトも好きだけど、のめり込むタイプじゃないよね」

秀真(ほつま)と岩原氏が凄過ぎるんだよ。俺なんかまだ入門レベルだから温かい目で見ててくれよ」

 藤城皐月(ふじしろさつき)神谷秀真(かみやしゅうま)の「のめり込むタイプではない」という指摘で、年下の彼女の入屋千智(いりやちさと)との会話を思い出した。

 千智は短期的な集中力があっても長期的な集中力がなくて、何かに没頭するという経験があまりないと言っていた。それは皐月も同じ傾向があるが、皐月はさらに興味が多方面に分散してしまう癖がある。好奇心が旺盛なのはいいが、力がつくまで経験を積み重ねられないところが短所だと自覚している。


「次に行く下鴨神社なんだけどさ、僕は一人で河合神社に行こうと思っているんだけど、皐月(こーげつ)はどう思う?」

 秀真の提案に驚いた。河合神社は下鴨神社の摂社(せっしゃ)だ。祭神が玉依姫命(たまよりひめのみこと)ということで、玉依姫命が玉の様に美しいことから美麗の神として信仰されている。

「そうだな……。さっき八坂神社で美御前社(うつくしごぜんしゃ)に参拝したから、女子は御利益(ごりやく)がかぶっている河合神社に行かなくてもいいかもな。でも、秀真(ほつま)のお目当ては任部社(とうべのやしろ)だろ? 俺も行きたいな」

 任部社は河合神社の境内にある小さな祠の末社で、祭神は八咫烏命(やたがらすのみこと)という、神武(じんむ)天皇を大和の橿原(かしはら)まで案内した三本足の烏だ。

「やっぱ皐月(こーげつ)も行きたいか……。皐月に女子の面倒を見てもらえたらって思ったんだけど……。僕が河合神社を見ている間に下鴨神社本社の方を案内してもらえると時間が短縮できるかなって」

 勝手なことを言う奴だな、と皐月は内心憤慨していた。誰のせいでスケジュールが遅れたのか、と。

 だが責任の一端は自分にもあることはわかっている。明日美(あすみ)へのお土産を買っている間、みんなに待っていてもらった負い目がある。


秀真(ほつま)は下鴨神社の本殿は見なくてもいいのか?」

「もちろん参拝するよ。ただ、河合神社も下鴨神社もどっちも急ぎ足でまわらなきゃいけないけどね」

 この日の終わりの時間は決まっている。予定が後ずれすると、京都駅でお土産を買う時間がなくなってしまう。遅延の回復は至上命題だ。

「じゃあ、いいよ。俺が女子を本殿に案内するわ。秀真は一人で河合神社に行って来いよ」

「ホント? 助かる〜。ありがとう、皐月(こーげつ)!」

 下鴨神社には八坂神社以上に多くの摂末社がある。今度こそ全てをまわるのは不可能だろう。ましてや次に行く伏見稲荷大社ともなると、見られない箇所が多過ぎる。

 秀真は行きたいところを相当我慢しているはずだ。そう思うと皐月も少しは秀真の我慢を肩代わりしてやろうという気にもなる。

秀真(ほつま)さ、これが修学旅行だっていうことを忘れるなよ?」

「わかってるって」

 どうせ自分は秀真ほどオカルトに没頭できないさ、と皐月はやや自虐的になっていた。

 だが、神社の勉強をするだけならネットでかなりのことまでできる。百聞は一見に如かずと思うけれど、今の自分は前提知識の準備が不足している。こんな状態で神社に行ったとしても、ただ見たという経験以上のものを得られることはないかもしれない。

 情熱が続くのなら、またいつか行けばいい。皐月はそのように考え方を改めると、少し心が軽くなったような気がした。


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