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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第6章 穏やかな日々の終わり
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247 かつての同級生

 子どもたちのいない校庭に秋風が吹き抜けた。稲荷小学校は最終下校時刻を迎えた。この日はクラブ活動もなく、最後まで学校に残っている児童がほとんどいなかった。

 修学旅行実行委員会で委員長を務めている藤城皐月(ふじしろさつき)はしおり作りを終えて、達成感で心が軽くなっていた。実行委員になった時は、できるだけ早く委員会を終わらせて帰ることばかりを考えていた。

 だが今では副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)と書記の水野真帆(みずのまほ)と一緒に、少しでも長く仕事をしていたいと思うようになっていた。彼女らと過ごした時間は充実していて、楽しかった。それに少しドキドキした。

 皐月たちは最終下校を(しら)せる「遠き山に日は落ちて」を聞きながら閑散とした校内を歩き、三人揃って校門を出ようとしていた。

 皐月は真帆と別れた後、華鈴と二人で家に帰るのを楽しみにしていた。今日は誰とも会う予定がない。今度華鈴に誘われたら、家でもどこでも行こうと思っていた。前回は華鈴の誘いを断って、泣かせてしまった。


 華鈴は5年生の時、担任の北川先生の意向で半年もの長期間にわたってずっと皐月の後ろの席にされていた。

 このいびつな席の配置は、問題児と思われていた野上実果子(のがみみかこ)の目付け役として華鈴が指名されていたからだ。実果子はクラスで暴力沙汰を起こし、男女問わず、クラスメイトから恐れられていた。

 皐月もずっと実果子の隣の席だった。当時の皐月は、自分も実果子の目付け役のつもりでいたが、実際は皐月も華鈴に監視されていたと、後に華鈴から聞かされた。

 皐月は授業中でも隣の席の女子とお喋りをしていて、よく先生に怒られていた。そんな皐月を封じるために、北川先生は皐月を実果子の隣の席に置いたようだ。

 北川先生の目論見の半分は上手くいき、半分は上手くいかなかった。上手くいったのは実果子の暴走を抑止できたことで、クラスは落ち着きを取り戻した。

 上手くいかなかったことは皐月のお喋りを止めることができなかったことだ。皐月は実果子とお喋りをするにとどまらず、華鈴も巻き込むようになっていた。華鈴にたしなめられたことで皐月は声を抑えるようになり、先生からは実果子との多少のお喋りは大目に見られるようになった。

 皐月は華鈴や実果子と過ごす5年生の後半がこれまでの小学校生活で最も楽しかった。その頃は何とも思わなかったが、学年が変わり、華鈴と別々のクラスになると、華鈴が自分のそばにいない学校生活に寂しさを感じるようになっていた。だが新しいクラスは刺激的で、皐月は華鈴のいない教室にもすぐに慣れた。


 修学旅行実行委員会で華鈴と再会した時は懐かしかった。クラスが離れれば話をする機会がなくなる。皐月が委員長になり、華鈴が副委員長になったことで、二人で話をすることが増えた。

 初めこそぎこちない二人だったが、委員会を重ねるごとに、昔のように話せるようになった。華鈴は児童会長になり、すっかり大人びていたが、それでも時々見せる()の部分は5年生の時と何も変わっていなかった。

 気が付くと、皐月と華鈴は5年生のころと比べて距離はぐっと近くなっていた。修学旅行実行委員で遅くなった日、皐月と華鈴は初めて二人で下校をした。華鈴が皐月の家に寄り、皐月は華鈴の部屋に上げてもらうまでの仲になっていた。

 だが、皐月には華鈴に対して幼馴染の栗林真理(くりばやしまり)や、芸妓(げいこ)明日美(あすみ)に抱いているような恋心があるわけではない。

 それでも皐月は華鈴に対して異性として好意は持っていて、華鈴のことを魅力的だと思っている。タイミングが合っていれば、華鈴とは恋仲になっていたかもしれないと思うこともある。皐月にとって華鈴は一緒にいると心安らぐ存在だ。


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