公園にて少女と
目の前に現れた少女は華奢な肩を揺らしながら、不思議そうにこちらをじっと見つめている。
俺はその少女の顔を見つめ返す。
薄い茶色の丸い瞳に小さな形の整った鼻、そしてその下にうっすらと色ずく淡いピンク色の唇は人形みたいで生気を帯びていないようだ。いや、実際に生気を帯びていないのかもしれない。
何故なら彼女の姿から背後の風景がうっすら透けて見えるからだ。
生きている人間であれば、自分の姿に被さっている風景は見えないはずだった。そして少女の足元を見ると、日に照らされているにもかかわらず影はない。物質的な質量がないことを示していた。
年齢は幼く見え、女性の年齢を推測するのは気が引けるがおそらく俺と同じくらいかそれより年下だろう。
唯一断言できることは、彼女は生きている存在ではないということだけだ。
思考を張り巡らせていると、少女はしゃがみ足元にすり寄った猫を撫でる仕草をしはじめた。
「君、成仏できないの?」
彼女が口を開くと同時に透き通った声が空気に溶け込む。
「えっと、はい。多分、そうだと思います。」
彼女が発した一言目のは予想外に非日常的な内容で動揺をしてしまう。さらに久々に言葉を交わしたこともあって、思考が散らかったまま収束しない。
「そっか。・・・じゃあ私と一緒だね。」
と彼女が小さくつぶやいてどこか儚げな笑顔をこちらに向けた。
空気感をつかめずに様子をうかがっていると、死んでまで何かに気を遣う必要はないし敬語はいいよと心を見透かしたように少女は言った。
人形のような少女から飛び出た浮遊霊ジョークに俺は目を丸くしたが変わらず猫を撫でる少女を見て少し肩の力を抜き、わかったと降参する。
「君の名前はなんて言うの?」
「まずは内緒かな。」
早速思ったままの言葉を口にすると彼女は子供のように頬を膨らませた。
ただの幽霊じゃなくて妖怪かもしれないし、とフォローにもならない理由を付け足せば膨らんでいた頬ををさらにぷりぷりさせていてちょっとおかしい。最初は人形のようかと思ったが表情が分かりやすく人間味を感じて少し生きていた時を思い出した。
「ごめん、君が元人間なのはわかったよ。俺の名前は竹谷周平。周平でいいよ。」
と答えると不服そうながらも俺の名前を認識したようだ。そして少女が名前を教えてくれるのを俺は静かに待った。
「じゃあ、周平くんと呼ぶね。私は七瀬。ななせでいいよ。」
そう言って少女が頭を傾けるとミルクティー色の髪が絹のようにさらりと肩から零れ落ちていく。
彼女は猫を撫でるのを辞めこちらに近づき、これからよろしくねと手を差し出した。
俺はその手に自分の手を添えたが、その手が触れ合うことはなく空をさまよう。
個体がなく握手がうまくできなかった二人は顔を見合わせてうなずき、お互いの手を噛み合うように変形させてからもう一度握手をした。
今度はうまく手を握れたようだった。