俺の葬儀
故 竹谷周平 儀告別式。
自分の名前が書かれてた立て札の横にある受付に立ち、周りの様子を静かに眺めていた。
白と黒を基調にした小さなメモリアルホールには花が至る所に飾られている。華やかであるが、死者に捧げる花という意味合いは少し淋しげだ。
ロビーには平日に都合をつけて駆けつけてくれた数人の友と親族が、俺の死を悼んで涙を流したり流さなかったりだ。
自分の告別式が間もなく始まろうとしている。しかし今の俺は人生これ程までなく冷静で、慌てふためく時間はとうの昔に終わっていた。
雪の量が増してきた中、どうやって帰ってきたのか分からないがぼーっとした様子で俺は家に着き、家の鍵をカバンから探そうとした。
しかし、気が付いた時にはカバンは持ってはいなかった。さっきまで持っていたはず。と俺はカバンを探しに来た道をすぐに引き返したが、道中で車と人間の衝突事故があったとのことで道が封鎖されていて、やじ馬たちに割り込むこともできず、再び家へと向かった。
「カバンを落としてしまったので鍵を開けてください。」
帰る道中何度もためらわれる言葉を心の中で復唱した。
「高校三年生にもなって、そんな大きなものを何処で忘れたの」と呆れられることを覚悟し、家にいるはずの母親にドアを開けてほしいとインターホンを鳴らそうとした。
しかし、インターホンを押すどころか俺の指自体がインターホンを貫通し、壁まで突き刺さるという怪奇現象に見舞われ俺の正気は失われ完全に気が動転していた。
完全にパニックに陥った俺は体制を崩し転倒。何故か壁を全身ですり抜け家にダイレクトに入室することができたというわけだ。
この時点で俺は考えることの許容量を超え相当パニックに陥っていたところ、一周回って平然を装うことに成功。いつも通り部屋を歩いていくと母が真剣な面持ちで電話をしていて。
話しかけても返事をしない母が急いで出かける様子を追っていくと俺が病院にいて、息を引き取っていた。といった訳だ。
カバンを探しに帰路を戻った時に見た事故現場は俺と、雪でスリップした車との衝突事故現場
だったらしい。その後、車の運転手がすぐに救急車を呼んでくれたそうだが病院に運ばれている間俺は死んだらしい。人生何があるか分かったものではない。
葬儀所の受付の人が遺族や関係者を式場へ案内し、扉を閉めた。そして、俺の告別式が始まった。父と母、親族や友人を見守りながら彼らに最後の別れを告げた。
もうじき俺の魂は浮かばれるのだろう。
「さようなら。そしてみんなありがとう。」
念仏を唱えるお坊さんの後ろで目をつぶり、静かに焼香をつまむ人たちの姿を目に焼き付けた。