はじまり
高校三年生の冬。
受験を間近に控えていた俺は最後の悪あがきとして古文の参考書を片手に、学校からの帰り道を歩いていた。
志望大学に受かるために一年前から勉強を重ねてきたものの、この本の内容にはまだ理解出来ていない部分がありこの調子で一週間後の本番までに間に合うのかと肩を落とした。
国語の勉強は最後にしようと怠ったのがよくなかった。
しかし、今は前へ進むしかない。
少しでも多くこの本に触れあえばいつか理解することもできるだろう。
そう気を持ち直し集中して再び参考書に向き合う。
何事も諦めないことが時には大事なのだ。
そうして、本を読み進めていくうちに次第に文字の世界へ意識が飛ばされていった。
どれくらいの時間集中していただろうか、すっかり古文の世界に浸っていると、ふと参考書の黒の印字に水気がジワリと滲んだことに気付く。
「雨が降ってきたか。」
視線を空に移すとすっかり薄暗くなった空から真っ白な雪がゆっくりと舞い落ちている。
雪。めったに雪が降らない都市部では珍しいことだ。それ程に今日は冷え込んでいるのだろう。
久しぶりの雪に内心うれしさを覚えたが、受験生で風邪を引けない身分であるということを思い出して我に返り、参考書を閉じて歩くペースを速めた。
こんなところで風邪をひいてられない。
健康が第一だ。早く家に帰って参考書の続きを読もう。
深く多くなっていく雪の中、受験期真っただ中の少年がそこにはいた。