ドンヘイルという国
真美がドンヘイルという国に来た時の様子の続きです。
不安いっぱいです。
でも時間は淡々と進んでいきます。
窓辺が明るくなってきた。
陽の指す角度が変わってきたんだろう。
甘い牛乳を薄めたような飲み物を飲みながら真美は尋ねた。
「ここはどこなの?日本?」
「ここは…ドンヘイルっていう国。日本じゃないよ。」
ケイトはテーブルの向かいにある椅子を引きながらそう答えた。
「日本じゃないって、ドンヘイルって国…あった?地球にあった?」
「地球に…なかった。ここは地球じゃないんだ」
ケイトはテーブルの上の水滴を指で広げ、真美の方を向きながら答えた。
「地球じゃ…ない?」
真美はケイトを見つめたまま繰り返した。
ここが日本ではないかもしれないとは思っていた。
その現実をとりあえず口に出してみる。
つぶやけば理解できるんじゃないかと思っているように見える。
「地球じゃないって、じゃぁどこなの?ドン…ドンなんとかって地球じゃないどこにあるの?」
ケイトは静かに指を組み、真美に言葉をかける。
「最初はどう言っても理解できないかもしれない。
ここは多分…多分だけど異世界と呼ばれる世界で、ドンヘイルという国なんだ。
異世界と言ってもほぼ地球と同じ生活ができる。
電気や家電はないけど、慣れたらそんなに不自由を感じないで暮らせると思う。」
「…異世界?あのラノベとかにあるあの異世界?転生とかスキルとか、そういうの流行ってたよね?」
「流行っていたのかな?
僕がここへ来た頃には聞いたことがなかったよ。僕の周りになかっただけかもしれないけど」
ケイトは穏やかに笑った。
「じゃ…じゃぁさ、私日本に帰れる?どうやったら帰れるの?」
「それは僕にもわからない。
僕も帰りたいと思いながら生活していて、知らない内に7年も経ってしまったってことに君を見て気が付いたから」
真美は思わずケイトを見た。
「7年?」
「うん、多分だけど7年くらい経ってると思う。カレンダーもないし、日付もなんだかどうでもよくなってきちゃうんだよね」
微笑んだケイトは付け足すように言う。
「ただ受け入れたんだ。自分の状況をね。
帰れる時には帰れるだろうから、とりあえず今を生きる。
僕はそう思って暮らしてきた」
ケイトの穏やかで悟ったような物言いは、真美を黙らせた。
だからと言って疑問が消えたわけではないので、時間をおいて言葉を重ねた。
「今を生きるって…そりゃぁそうかもしれないけど…
お父さんとお母さんにはどう伝えたらいいんだろう。それと旦那も私がここにいるって知らないのにどうしてるんだろう」
「君、結婚してるの?
旦那さんには多分今の君の状況は残念だけどわからないだろうね。
お父さん、お母さんも、こんな状況想像もしていないと思うよ」
ケイトは続けた。
「こちらから日本へは…地球へはどうやったらいけるのかわからない。
多分昔からある神隠しっていうのが、今の僕たちの状況じゃないかなって思ってるんだ。
こちらでは時々僕たちみたいに突然現れる人がいるらしい。
ただ僕の前の人はかなり前なんで、僕がそういう人に会ったのは君が初めてなんだけどね」
こんな現実、どうやって受け入れたらいいんだろう。
自分が異世界にいる、この状況。
思いつめた顔をしていたのだろう、ケイトが心配そうに真美の顔を覗き込んだ。
「不安になるのはもっともだけど、とりあえず今日は休んだ方がいいと思う。
僕の家でよかったらいてくれてかまわないよ。
ただ…君の名前だけ、教えてもらえると次から困らないかな」
真美は自分の名前さえも告げていないことを思い出す。
「真美…竹内真美っていうの」
「真美さんね。わかった、了解。
寝室がひとつしかないんだ。
よく眠れないかもしれないけど同じ部屋でもいいかな?
気になって眠れないようなら僕はここに寝るよ」
ここって…ソファがあるわけでもないこの部屋にどうやって寝るんだろう。
寝る場所を提供してもらえるだけでも、とてもありがたいことだ。
「ありがとう。お言葉に甘えて泊まらせてもらいます。
私がこの部屋に寝ますので、ケイトさんは普段と同じ生活を送ってください」
この後ずっとここに暮らすことになるとは知らずに、真美は丁寧にお礼を言った。
起きた=おきた など表示の間違いがたくさんありました(自己チェック中)。
文章を書くというのはなかなか難しいというか、気を使うものですね。
自分の心があらわれてしまうと思うので、できるだけ丁寧に仕事をしたいと思っています。