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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十一章『創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》著・帯来洞主』
98/126

時には物語とは深く読まなければならない時がある。

「全く、私だけレトルトとかありえねーのですよ! しかも星の王子様なのかよです!」

「マフデト兄様、すみません最後の一皿を私が食べちゃいました」

「セシャト姉様はいいのですよ! 食べ盛りなのです! つーか、テメェ! なんでいやがるのです?」

「テメェではないぞ、ダンタリアンの倅、私は神様だ! まぁ、そんな事よりも続きを楽しもうではないか! ついに貴様らの大好きなデカも終わりかと思いきや……だの」

 

 シロが言っていたヒーローは遅れてなんとやらである。レトルトカレーと牛乳という給食みたいな夕食を食べながらマフデトはスマホを開いて語る。

 

「ヒバチとつらら、乱狐の三人は英雄らしく表現されてるのです。そしてここでもアンチテーゼなのです?」


 つららの苦言というか、呆れにも近いツッコミに対してマフデトは誰に聞くわけでもなく全員に尋ねた。

 それに当然神様が答える。

 

「これはどちらかといえば、ギャグの一環として捉えた方が面白かろうな。実のところ、いつの時代もご都合主義な設定というのは存在するがその在り方が違うというところかの」

「どういう事なのです? 邪神」

「全く最近の若い奴は……私は神様であると言っておろう。まぁ要するにだの」

 

 つららが言うように昨今は所謂チートという名のご都合主義設定が多い。四十年以上前だと努力、友情、勝利、根性、愛、奇跡と進行上ご都合主義が多く。


「はて、それはどういう事でしょうか?」

「まぁ、あれだ。死んだと思ったキャラクターが実は生きてましたよとか、最近ではギャグ以外で使われなくなった心の目とかだの。特にその背景とか説明されない物も多い。あってもかなり雑だったの、昔の読者やら視聴者は気にせんかったというのもある。で、次だの。つららやヒバチのような」

 

 二十年前後前の造形のキャラクターが登場する作品群に関しては、後付け系のご都合主義が多い。どうしてもクリアできない困難に関して、それを攻略する為の技や道具やらを取得するなど。

 

「それらを最近の主人公とかは個人の単独能力でやってのけてしまうという感じかの? 本来、出来ないと思われている事ができたり、本来専用の技や道具がないとクリアできない問題を力技でクリアしてしまったり、所謂、“俺、またなんかやっちゃいましたかね?“と呼ばれるやつだの。実際魅せ方の違いがあれど時代に合わせた表現とも言えるの」

 

 神様の解答にセシャトとマフデトは成程と頷いている中、純粋な読者かつ、読み込み初心者なハチドリはコーヒーを飲みながら質問する。

 

「乱狐は忍者なのだろう? ドロンと消えてその場に登場とかできぬ物なのか?」

 

 神様、セシャト、マフデトは間違った日本の認識をしている外国の人を見る顔でハチドリを見つめる。昔々のとんでもドラマやアニメのせいで魔法使いのような存在になった忍者のような何か……当然、乱狐はそっち側の忍者ではない。

 

「あれだのハチドリよ。乱狐はその設定を持っていない忍者キャラクターという事だの。なるととか言う新参者とハットリ君、赤影という大先輩とは違うという事だの」

「おぉ! なるほど! ハットリ君は吾輩も知っているぞ! 日本で今一番流行っている忍者コミック!」

 

 宇宙と地球との情報伝達はめちゃくちゃ遅いのでご愛嬌。

 日本で今、一番流行っている忍者コミックはきっと忍者スレイヤーである。

 

「まぁ、そういう事にしておいてやろうかの。貴様らはW.Eの増援三人が登場して口上語り出しておるのをどう思う?」

「てめぇの言いてぇ事は分かるのですよ。作品の中での口上なんて正直基本中の基本なのであまり気にはしねーですけど、本来リアルならまずありえねーのです。でもこの三人はそういう風にできているから口上を語るようにできているっていいてぇのでしょう」

 

 ややここしいのだが、作品の中における作品の中の登場人物の行動という事で非常識の上書きがされている面白いシーンと言えるだろう。乱狐嬢に至ってはなんで俺だけポジションにまとまり、古き良きトリオとして味を出している。

 キャラクターの造形や動かし方だけ見ると本当に失礼ながら普通という感想なのだが、その普通を立たせる舞台や設定が凝らしてあると、こうも見え方が変わってくる事には実に感服する。

 

「む? 吾輩には酷く面白く感じるのだが、皆は少し色眼鏡がすぎるのではないか?」

 

 いい意味でハチドリは昭和から平成初期の読者の感想を述べる。この頃は矛盾やら設定をあまり重じるより展開とキャラクター愛に全振りしていた読者が多かった。割と当時のキャラクターの行動や物語の設定はとんちんかんな物が多かったが許された所以だろう。

 

 方や、今時の読者代表、セシャトが神様の言う普通を際立たせる舞台を表現するのに使った物は……。

 

「少し前に話題になった“100円のコーラを1000円で売る方法“に似ているかもしれませんね」

「リッツ・カールトンの最高の環境なら人はコーラにも1000円を出すってやつなのですね……母様が読んでたのですよ」

 

 まぁ、冷静に考えると1000円でコーラは買わないが、簡単に述べるとそういう事ある。100円の価値しかない物を10倍の価値を持たせるにはどうするか? それ相応の舞台を用意してあげるという感じだろうか?

 

 そこで我らの王子マフデト君は続ける。

 

「大体こういうバトル作品って、何故か敵が一思いにトドメを刺さねーじゃねーですか? それもよく考えると不自然なのですけど、本作だとその不自然の上書きがなされていると考えると奥がふけーのですよ」

 

 作品からの存在である為、華のない事はしない。作品の登場人物の行動理念故、まどろっこしい事をするという。ここまでくるとこの物語なんでも肯定できてしまうと言う……当方は畏れを抱いてこう命名した。

 

「まさに“肯定の強制“だの、いや深読みすればする程面白いと言うのは名作なのだろうがの。ベースの物語はわかり易いので何も考えなくても楽しめる地の文章もあるしの」

 

 当方の考察厨の一人は鴉の行動全てが作者からのブラフに思えてドツボにハマっていた事もあり、実は本作を紹介するのに少し間を置かせていただいていたのはまとめの時間を要していた事もあった。

 本作はかつて微妙に話題になった『Re:CREATORS』よりも遥か数年前にこのネタを展開していたわけで、読者の感覚などと合致していたらメディア展開していただろうと当方は思う。

 当方でも考察に迷う部分が多く、わかり易い物語に対してテーマとメッセージが多くの方に同じ物としては伝わりにくいと言う弱点もあったのかもしれない。

 

 ひとえに本作は創作感へのアンチテーゼなわけでその深淵の深さはそこ知れない。

 

「だーかーらー! セシャト殿も神様殿もマフデト殿もどうしてそんなにややこしく読もうとするのか! 流石に吾輩もドン引いたぞ!」

 

 が、しかしである。この類の読者は実に作家的には麻薬のようにあるいは信者的に作品を楽しんでくれるが、伏線や設定をあまり重んじない傾向にある為、理解力が低かったりもする。

 ちなみにこれはWeb小説を書く一部作者にも言える。

 

 やはりというべきか、本作は作品からの登場人物それらの設定という物を重んじている。

 

「ハチドリよ。ワクワクして頭を空っぽにして読むのもまた読書しかりだが、私たちが話している事を無視しない程度には聞いておいた方が面白い部分もあるぞ。英雄になる条件。これは普通に考えればあまりにも普通すぎる設定なのだが、作品内の作品で生まれたキャラクターの性であると言う面白さだの。鴉はモブだった。それがまさに流行りの成り上がりを見せようとしておるという事だの! 要するに、主人公争奪戦だ」

 

 小者感が半端ない鴉は言葉通り小者として生まれてきた。彼はどうでもいい存在であり、道化英雄を屠れたのであれば自らはまさに生きる権利を得られる。彼は失う物がなくまさに存在全てをかけて二つの意味で主人公に挑戦しているのだ。この時点で当方は作者の思う壺にハマった。

 

「鴉かっこいいのですよ!」

「そうですねぇ! 滅びの美学というのでしょうか! あり得ないとわかりながらも鴉さんのジャイアントキリングを期待してしまいます!」

 

 では、当方のいつもの異能力に関する蘊蓄を語ろうと思う。本作においては作品内の物語の登場人物という事で物理法則は無視されるであろうと思われるので意味はない考察になる異能力蘊蓄。

 

「火や炎って本来最強能力のハズなのですが、その火や炎が効かないとかいうとんでも設定が入った瞬間効かなくなるので、物語の登場人物って設定はそれそのものがチートなのですよ」

 

 マフデトは星の王子様カレーを食べ終えるとサラダに唐辛子のドレッシングをかけて食べ終え、牛乳で喉を潤した。

 

「ハチドリさん。お風呂沸いてますのでお先にどうぞ!」

 

 神様は冷蔵庫からハーゲンダッツを取り出し楽しんでおり、マフデトは食休みにスマホゲームなんかをしている。セシャトはハチドリの着替えを用意すると洗い物を簡単に終わらせて食洗機に放り込んだ。

 

 母屋の仮眠室に四人寝る事ができるだろうかと考えながら、本日は夜更かしをしての作品考察が始まる。まさにパジャマパーティー。

 秘蔵のコーヒーとオヤツを出そうとセシャトは今からそのお菓子を食べる事を楽しみにふふふのふと笑みが溢れる。

 

「風呂か! ありがたいな! どうだセシャト殿! 女子同士だ! 一緒に入らないか! 風呂で女同士物語を語ろうじゃないか!」

「あらあら! それはいいですねぇ! では少しおまちくださいねぇ!」

 宇宙人との作品読み込みはまだまだ続く。

『創造世界の道化英雄ジェスター・ヒーロー 著・帯来洞主』こちらは執筆をされる方は一度は読んだ方がいいかも知れないと思われる作品でもありますね。よく魅せたいと思ったキャラクターが果たして大衆受けするのか、物語のキャラクターの葛藤はおそらく作者さんの心の声にも思えます。不思議な魅力が詰まった本作、まだ読まれていない方は是非、この機会に読んでみてくださいねぇ!

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