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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十一章『創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》著・帯来洞主』
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読み専になると本題と主題の優先度が逆になる現象

 ハチドリは金髪のちんちくりんを見てドン引きする。古書店『ふしぎのくに』に入るや否や冷蔵庫をガサゴソ漁り始める。

 

「セシャト殿。あのジャリはスラムの子か何かかい?」

「あらあら、あちらは私の生みの親の神様ですよぅ!」

「あれが? セシャト殿の親だというのかい? これは……まさか、真城が生み出した狂気の世界の残滓か何かかい?」

 

 ハチドリは物語と現実がごっちゃになる。

 そう、物語はようやく目覚める。

 シロが語るには真城創伍が子供の頃に描いたという悍ましい願望図が未来予想図として現実世界への襲撃を始めた。

 

「貴様、あれか? 宇宙人だな? 中々面白い事を言うな。私とこやつセシャトもいわば過去に……まぁ良いか。知っておるか? 宇宙人の娘よ」

「差別用語を使うな子供! 吾輩はハチドリという名前があるのだ! お前達地球人だって外から見れば宇宙人じゃないか!」

「すまんすまん。アキバあたりのコスプレしている頭のおかしい娘でも宇宙人というのはやや私にデリカシーがなかったぞ。さてハチドリ、そんな事はどうでもいい。この惨劇は思い描いた物が溢れてきた。絵は命を塗り込むとも吹き込むともいうしの」

「吾輩はコスプレではなく、銀河系の特別捜査官……まぁいい! かつて吾輩が担当した別の惑星でも惑星壊滅一歩手前まで行ったのはなんでもない子供の落書きだったな!」


 ウルトラ怪獣では暴れることもなくただ眠っていただけだが、物語においてこの過去の構図が現実に予言のように実際に発展し被害を及ぼすというのは21少年しかり、鉄板の一つとも言えるだろう。

 

「シロという娘はワイルド・ジョーカーという役職らしいな。なんだか分からんがかっこいいぞ! 未知秘めし道化師というのもなんか響きがぐっとくる!」

 

 セシャトと神様は少し無言でハチドリを見つめる。

 毛先だけ金色の長い黒髪に眼帯をしている彼女は紛れもない厨二病。よくいえば電波系、彼女の心にそれらのフレーズは届いたのだろう。

 実際、物語とは作品の作り方であるとか、キャラクターの魅力、さらに作中の文言などに魅力を感じファンになっていく。ハチドリの場合は単純に自分の性癖に合致し、感動を覚える。古き良き読者と言ったところだろう。

 

「してセシャトと、貴様はワイルド・ジョーカーどう見るのだ?」

「ふむ、そうですね神様。私は本作を私が生まれた2018年から追いかけてますので、最新部まで内容を知っていますが、シロさんの扱いに関して非常に上手ですね。まさにワイルド・ジョーカー(主人公の代わり)です。真城さんの家にやってきた方々と、シロさんともこのシーンで見比べると、一般的な物語では完全にシロさんがヴィランですからね。日本では不思議な事に道化師は悪役を担うことが多いです」

「まぁ、イットとジョーカーのせいだろうの……、貴様はアナザー主人公の意味合いでワイルド・ジョーカーとも読んだか、であれば私は、一人歩きしている道化師とでも読もうかの」

「二人とも、吾輩には二人の話は分からんが、シロはようするに、今作中で起きている禍々しい創造世界からの発生源とは別種ではないかと言いたいのであろう? 難しく言わずとも良いぞ!」

 

 まぁ、要するにそういう事なのだ。真城創伍が道化英雄となる導としてワイルドジョーカーというシロ、彼女はこの時点では何者なのか分からない。特別であるということへの意識付け。

 物語の起承転結をしっかりと守られ伏線も分かりやすい、物語の道筋もわかりやすい。そういうわけなのだが、神様とセシャトは閉口する。

 ある種完璧な読者であるハチドリ。物語を物語としてしか読まない。これは作り手にとって大きな光栄なのかもしれない……が、何を考え、どういう仕組みで物語が成り立っているのかを考察する古書店『ふしぎのくに』からすると非常にやりにくい。

 

「セシャト、貴様。こやつ多分馬鹿の知り合いであろう?」

「馬鹿ではないですよ。ヘカさんです。お知り合いである事は間違いないようですよ! 皆さんお昼にしませんか? ハチドリさんも食べていってくださいね!」

「……かなじけない。セシャト殿」

「セシャトよ。今日はジローが食べたい気分だぞ!」

 

 悲しいかな神保町のキッチンジローは閉店、今や九段坂にしかない。最近カレーを食べていないなと思ったセシャトはナポリタンを提案した。

 

「本日は“さぼうる“はどうでしょうか?」

「セシャト殿、仕事をサボるのか? よくないぞ!」

「クソ昔からある喫茶店の店の名前だの! あそこは確かに美味い。ナポリタンを腹に入れるか!」

 

 三人はしばらく歩き、神保町でも超有名な喫茶店へと向かう。セシャトは前にお茶しに行ったとき、ダンタリアンとマフデトがお茶デートしていたなぁと今日もいるかなとか思って扉を開けたが、目立ちすぎる二人の姿はなく、お店はいつも通り大盛況だった。

 

「ナポリタンとクリームソーダーを三つずつ!」

 

 昭和レトロな喫茶店で昭和の鉄板な組み合わせを注文すると、神様は手をあげて何もないところから本を取り出した。

 セシャトが金色の鍵とスペルを持って行う擬似小説文庫生成。それを本棚から取るように無から3冊取り出してセシャト、ハチドリに渡した。

 

「こういう店でスマホやタブレットを広げて食事は無粋であろう! ここは昭和スタイル『創造世界の道化英雄ジェスター・ヒーロー 著・帯来洞主』を読もうではないか! 私はあの作者個人的に中々気に入っておってな!」

 

 作者の帯来洞主さんは、“もぎたて“という酎ハイをよく飲まれていた。当方でもお酒を飲む連中からは、“もぎたて“とかいう可愛い名前でえげつない度数で攻めてくるお酒とちょっとネタになっていた。

 お酒好きな神様は帯来洞主さんと飲み交わしたいなと、

 大瓶のビールを頼もうとして……

 

「神様、お酒は家計(お店)からは出ませんよ。お小遣いで飲んでくださいね?」

「ぬぉおおお! もはや三十五円しかないわ……」

 

 という事で諦めて、神様はクリームソーダを啜りながら本を開いた。

 

「運命に忌み嫌われたとはまぁ、業の深い言葉だの。一つ、これは復讐の物語と言ってもいいのかもしれんな」

 

 神様はフォークでナポリタンを巻き取って食べない。昭和スタイルで啜る。それを真似ようとしたハチドリにセシャトはフォークとスプーンで巻き取り食べる方法をレクチャーした。

 

「神様殿。復讐とは? 真城もシロも英雄になろうとしているじゃないか! まぁ、シロの方はあくまで引き立て役になると言っているが」

「シロが見せ物の口上を語り、創伍がパフォーマーという構図であろう? 見事成功すれば拍手喝采、おひねり頂戴とな? その演目として世界を救おうというのだ。類似作品、あるいは本当に参考にしている物を私が一つ言い当てても良いが、完全に違うところが二人一組、まさに街頭見せ物として体をなしている。完成度としてはアニメ化した私の思う某作品より高いの、というかアレは完成度が低いのか……」

 

 本作のミーティング中、常に旅をしているトトさんが某作品を本作の考察時に提案し皆で試聴を同時にしていた物がある。骨組みは全然違うのだが、道化が主人公で世界を救う構図から読み込みの参考の一つにしていた物がある。

 その作品をディスるわけではないが、道化英雄の方がよく考えられてあり、非常に作品としての出来が高い。

 結果としてメディアに提供されている物よりも高い水準の作品がWeb小説界隈には多く眠っているという事の証明にもなった事を報告したい。

 

「ふふふのふ! 作品自体はというと、主人公の真城さんはお人好しでラノベ主人公らしく、登場人物達もカッコよく可愛く、実にテンプレートなんですけどね、バディ物としてもこういう組み合わせもよく散見されるのですが、やはり斬新なんですよね。戦闘シーンをショーとして表現されようとしてるんです」

 

 少しズレるのかもしれないが、小説を読む事も楽しみたくて読みたいわけである。なんというか、本作は物語の世界からの現実の侵攻、そして人間の負の感情、その中でもとめどない欲。

 欲がなければ作品なんて物は生まれない。

 結果としての欲を満たす為の、何者でもなかったジョーカー達が中心となったショーを開催するというアンチテーゼを感じる。

 それは当方の“スイート・セシャト“でもテーマにした。

 作り手界隈の痛々しい承認欲求への警鐘を鳴らすように感じるのは本作を作り手側が読めば感じるのではないだろうか?

 

「本作はなんでもない主人公、創伍が英雄になる物語とシロは語っておるが、もっと深い部分を汲み取っていかねばならんかもしれんぞ。ハチドリ、口にケチャップがついておる! ふかんか!」

 

 という神様も口の周りをケチャップで汚しているのでセシャトにゴシゴシと拭われる。


「むぐむぐ、これは美味い! 遠い銀河で食べたスチャという食べ物の味によく似ている。神様殿。先ほども言ったが、こういうのは二律背反というのではないのか? セシャト殿に、神様殿。そのように感じ思うのであればそれはそれで構わないであろう。だが、物語として語られている事をしっかりと楽しむ事も作り手としては重要ではないのか? まぁ、素人の私が諸君らにいうのは、この世界の言葉で釈迦に説法というやつかもしれないが」

 

 核心をつかれた。

 広く、深い知識を持つ連中を相手にしすぎたせいか、主題と本題。そのどちらもを楽しむという事をついつい神様ですら忘れていた。

 物語は本題あっての主題なのだ。

 

「馬鹿のやつの知り合いはどうしてこうも、良い人材が集まってくるのだろうな? あやつは馬鹿なのに」

「神様、馬鹿じゃなくてヘカさんですよ! ハチドリさんの言葉には大変、私も感銘を受けました! ではどうでしょう? 第一章エピローグから次章のプロローグまではオススメのポイントを言い合いましょう!」

 

 セシャトは食べきれないナポリタンを神様のお皿に乗せるとクリームソーダを飲み干した。

『創造世界の道化英雄ジェスター・ヒーロー 著・帯来洞主』皆様、お読みになられていますか? 本作は当方古書店『ふしぎのくに』の店主を二代目になります私、セシャトが生まれるより一年程前から公開されていた作品になります。文章表現などは、当然最新部に近づくにつれて良くなっていきますが、作品ジャンルは深く潜れば潜る程珍しいものが出てきます。本作などはありそうで、なさそうで、ありそうで、珍しい作品ですね! そして作品レベルも高いので実に楽しめます! 今月は一緒に楽しみましょうね!

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