超能力者も未来人も来るので宇宙人が来ても驚かない
「ワレワレハ……ウチュウジン……ダ……」
“バベルにより言語翻訳調整開始“
「吾輩はハチドリ……あーあー、聞こえていますか? 地球の皆さん! 青い惑星地球よ! ソロバンの悪夢と言われた吾輩は帰ってきた!」
かつて、地球というか秋葉原の危機を救った厨二病コスプレイヤーにしか見えない宇宙人。
ハチドリは再び地球は東京へ降り立った。また何か任務なのか?
いいえ、休暇でやってきたのである。
「ヘカ殿、驚くであろうな! 吾輩を見て泣いて喜ぶやもしれん!」
そんなハチドリがヘカのマンションを訪ねたところ……
『伊豆に行ってるん。しばらく帰らないん』
てなんて事が書かれているので拗ねて空き缶を蹴ったら、野良猫に当たって追いかけられたり、ゴミを荒らすカラスに突かれたり、いわゆるドブネズミに咬みつかれたりと、心身共に大ダメージを受けながらよろよろとハチドリは一件の古書店へと迷い込む。
「いらっしゃいませ! 古書店『ふしぎのくに』へようこそ! 私は店主のセシャトです」
神は、いや女神はいた。疲れ果てているハチドリに甘いお菓子と温かいコーヒーをご馳走してくれる。
「かたじけない! 吾輩が誰か……という事は今は言えないのだが、何か礼がしたいが……何もない……くっ、殺せ!」
「あらあら、とても個性的なお客さまですねぇ! お客様」
「吾輩はハチドリだ! セシャト殿。ここは書物を売る見せか、これは暁光と見た! ここで面白い物語を仕入れてヘカ殿達をびっくりさせてやろう」
セシャトはこの軍服をきた金髪眼帯の女の子がヘカの知り合いなのかと笑顔のまま理解した。ならば、お薦めるする作品はメタファーなファンタジーかなと……
「あらあら、ヘカさんのお友達でしたか『創造世界の道化英雄 著・帯来洞主』通称、ジェスターヒーローですね」
「ヘカ殿をご存じとは、ヘカ殿。やはり有名人。して道化が英雄……しかし、物語の英雄という者は道化なのかもしれないな」
まだ作品を一文字も読んでいないのに、興味深い事を言うハチドリ。それにセシャトは尋ねる。
「と、言いますと?」
「読み手を楽しませる者だからな」
「おぉ、なるほどですよぅ!」
「セシャト殿、是非。そのジェスターヒーローとやらの話を聞かせてもらおうか!」
物語は大規模殺人事件、というか警察ベースの推定テロリズムから始まる。
まず小説としての作りとしては満点だろう。前後に無駄な説明が一切ないが、何らかの大事が始まったという事だけは読者に強く抱かせる。
「セシャト殿。これだけの規模の無辜の民が殺されればもはや有事ではないのか?」
「ふふふのふ! ハチドリさん。一応、不可解な事件はお巡りさんのお仕事ですが……きっとお巡りさんではこの事件はどうしょうもないでしょう! 物語とは時に理不尽なのですよ!」
話しながらビスケットをつまむセシャト。ハチドリも両手を合わせていただきます。ホットコーヒーに甘いビスケットはよく合う。ゆっくり飲み込むとハチドリは呆れた顔で尋ねる。
「真城という男、偶然を装って痴漢行為を行ったぞ!」
「これはお約束のラッキースケベという表現ですね! 実のところ、言葉としては新しいのですが、古典的にはお江戸くらいまでに遡るんですよ!」
「そうなのか? 吾輩は雌種の性的搾取ではないかと思っていたのだが、詳しく聞こう! 見ての通り、吾輩は宇宙捜査官なのだよセシャト殿」
セシャトはとりあえず笑顔を見せる。ヘカの関係者は例に漏れず変人が多い。このハチドリもまた自分は宇宙捜査官だと意味不明な事をジャブ程度に入れてくる。ここは長そうと確信する。
「かつては偶然とはいえ女性に触れるという事は夫婦になり一生を遂げる程の覚悟があったみたいですよ、どちらかというと仏教とかの考えが根強いところに多いみたいですけどね。歌舞伎の“毛抜“なんかはこのあたりの原点なのかもしれませんね!」
歌舞伎、仏教などという言葉を全く理解してなさそうなのでセシャトは微笑みながら話を変える。
「この真城さん、実はラッキーではなく、不幸体質だからなんですね! 物語の主人公においてこの不幸体質というのは時代を選ばず一定するいらっしゃる十八番の一つですねぇ!」
この前、神様に連れられて銀座の歌舞伎座で一幕観覧してからかなりハマってしまったのである。
「不幸体質の割には今回は真城のやつは吉兆でも起きているんじゃないか? 織芽の身体に触れるわ、美少女を拾うわ。なんだこれは!」
サクサクとビスケットを遠慮せずに食べ続けるのでセシャトはどんどんお菓子を用意する。
「昔、漫画さんの編集をされていた方が当方の西の古書店『おべりすく』というお店の店員さんにいらっしゃるのですが、とりあえず男の子はよりカッコよく、女の子はより可愛く。ボーイミーツガールは時代を選ばず失敗しないテンプレートだそうです。キャラクターは首を突っ込む型か巻き込まれ型か、このふた通りで大体の物語は出来上がっている……とも」
真城くんは日常からこの本編に至るまで巻き込まれ型主人公。彼の考えにハチドリは少しばかり感銘を受ける。
「自分を道化に誰かが笑ってくれればいい。中々いい言葉だな!」
「“セカイノオワリ“というアーティストさんも歌っていましたね? いつだって物語の主人公は笑われる方だ。笑う方じゃないと、いい歌ですね!」
セカオワのサザンカという曲があるので一度聞いていただきたい。当方、良作発掘家のマフデトさんがこの作品に合う曲があるとすれば、この曲を選んでました。
「セシャト殿。この真城が拾った少女、何だコイツ。生き生きしているな? 変な感じがするムズムズするのだが」
「あらあら、ハチドリさんは中々物語を読まれる力をお持ちですねぇ! このヒロイン“シロ“さんですが、実に愛らしいです。それはですね。当然、本作のキャクターは皆、作者である帯来洞主さんが生み出した方々ですが、非常に彼女は力を入れられています。作者さんのお気に入りなんでしょう。また作品世界の中の作品世界より現れたという特異性もあるんでしょう」
本作の世界観に近い作品を話すとすれば、TROYCAで制作放映された中編アニメ“Re:CREATORS“、Web小説だと何年か前に当方でも掲載していた“魔本少女スイートセシャト“あたりが該当するだろう。
「物語の中で物語をリンクさせるという事か、古いハリウッドの映画にあったな? かつて吾輩の先輩が地球人だったので見せてもらった事がある」
「シュワルツネッガーさんが主演の作品でしょうか? それとも綾瀬はるかさんでしょうか? このタイプの作品ベースは多くはないのですが、一定数挑戦される方がありますね。ファンタジーや、アクション、恋愛と色々ジャンルは違いますが、本作はどちらかといえばファンタジー・アクションに少し猟奇的な展開も見られ、こちらも時代を選ばない作風ですねぇ! 表現も上手なのでより作品に惹き込まれます」
本作をベースにさせていただくのは作者の帯来洞主さんに大変失礼かもしれないが、物語の構成、文章力、表現力、設定の斬新さ(当時水準)、キャラクターの魅力。いずれも評価しかしようがないレベルの水準のWeb作品があるか? と問われると令和三年現在中々見つからない。
ただし、令和三年現在において当方が大きく評価しているジャンルはコメディ・ギャグ系に関してははっきり今のレベルの方がWeb小説界隈は高い。高すぎる。こういうのは時代なんだろうと思われる。
ファンタジーで面白そうな作品を探される場合は本作もそうだが四、五年前に公開されている方を探してみるのが良いかもしれないとお節介を記載する。
「真城のやつ! 最初こそは何といういけすかぬ奴かと思ったが、中々尊い男だなっ! 自分は主人公になれない、だからピエロになるとな! 良い心意気だ!」
これは恐らくだが、作者さんのトンチだ。
ピエロとは道化だと言われるが、実のところ、サーカスでも、喜劇演目でも主役である。少なくとも顔である。
そこで読み取っていこう。シロをジェスター、真城をピエロと表現している。シロがジェスターと名乗るは真城の隣に並ぶ為には非常に合っている。がもし、真城本人が胸中に思っていた事を言葉にすればクラウンの方が言葉は合っている筈。
ピエロは主人公を意味する。少なくとも当方はそうメッセージを受け取っている。言葉遊びになるが、ジェスターヒーローもジェスターのヒーローであると捉えると……ジェスターのヒーローがピエロだと。
「真城も結局は自分の生き方へ妥協をしていた部分があるんだな。まぁ、吾輩にもあるぞ何故自分だけが! とな、その妥協を繰り返して爆発したのか、世界の破滅を願いそれが成就してしまうと……何という恐ろしい話なのだ!」
「あらあら、もう物語に没頭されていますねぇ!」
ハチドリは作品への感受性が非常に強い。言葉通り受け取り、そして楽しむことができる昨今の読者の中ではかなり素直な部類なのだろう。
それ故に、次のストーリーへと手を伸ばす。
「さて、ではハチドリさんもお待ち兼ね! 私も一緒に呼んでいきたい第二話に入りましょうか! 時間はまだまだ一杯ありますからねぇ!」
セシャトはアップルパイを冷蔵庫から取り出すとそれを大きく切り分けて持ってくる。セシャトもWeb小説を一緒に読める事にワクワクしていると、
当然営業中の古書店『ふしぎのくに』の扉がからがらんと音が鳴る。来客に一旦中断してセシャトは母屋から店に出る。
軽く左手を背にそしてお出迎えの右手を差し出して来客に笑顔を向ける。
「古書店『ふしぎのくに』へようこそ! いらっしゃいませ! おっと……これはこれは神様ではないですか!」
飲食禁止の店内でうまい棒を齧りながらやってきた金髪のちんちくりん。我らが神様。
セシャトは注意しようとしたが、
「セシャト! うまい棒が値上がりしよった! 由々しき事態だゾッ!」
セシャトはそんな神様を見て微笑むとハチドリの肩に触れる。
「さぁ、ハチドリさん、続きを読みましょうね!」
『創造世界の道化英雄著・帯来洞主』満を持してご紹介となります。数年前から候補にさせていただいていた本作ですが、今紹介した方がいいだろうという作品と、今でなく時間が経ってから紹介した方がいいだろうという作品があり、本作はそこに該当しますよぅ! Web小説の形式でありながらも一話一話もストーリーを通しても完成度が高い作品、最近のWeb小説とは少し作りが違う本作を是非楽しんでいただければと思いますよぅ!




