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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十章 『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』
90/126

結末の受け止め方が読者によって違う例え

 いつの間に用意したのか、セシャトの手作りプリンが四つ、アイスコーヒーがテーブルに用意される。カラメルソースをかけて、レアチーズのクリームを乗せる。


「さぁ、どうぞ! お口に合うといいですが! ふふふのふ!」

「ほんまセシャトさん、胸がどっきりするような甘いお菓子ばっかり食べてよう太らへんなぁ」

 

 呆れながらシアはセシャトの作ったプリンを一口。「へぇ、こら美味いなぁ」と舌鼓を打ちながら、二人の少女を見る。

 ナツキとリツキ。二人は見つめ合って黙っている。

 

「せっかく作ってくれたんや。食べーや! あと少しで読み終わるねんから、そんなほたえんでもええやろ? “私“と“男性“は夜の街を歩く、“私“は死んだ事を受け止めると共に、都市伝説の話を思い出して、それに縋りたくなっとる。もしかすると、記憶がなくなってるのは、この世との縁が無くなっとったからなんかもな」

 

 甘すぎるプリンを食べ終え、シアはセシャトが淹れてくれたコーヒーに口をつける。そして目を瞑る。ただお菓子を食べているだけなのに、なんというか風流な間がそこには出来上がっていた。

 

「名前は最後まで分からないような仕様なんですね」

「役職ベースで書かれるからなぁ、“男性“は“私“の事が好きやったんやな。幼い方法で、求め、“私“も同じように“男性“を感じたい。まぁいじらしい限りやな」

 

 だが、当然というべきか、二人は存在しているステージが違う。“私“は抱きしめられていないし、キスもされてはいない。されど彼女は触れられていなくとも“男性“の愛を受けた。

 リツキはこの情景に少しばかり難色を見せた。

 

「私が“私“だったなら、もっと“男性“と一緒にいたいと思う。それもずっと“男性“の近くにいるように……きっと“私“もそんな気持ちだったんだよね?」

 

 ここにきて“私“は初めて死に直面したことになる。もっと自分は“男性“と一緒にいたい。現世の縁が切れているのにも関わらず、それに反して居残りたいと……哲学的な話をすれば、彼女は条理から外れもし、このままであれば所謂幽鬼や、現世に未練のある悪霊のような物になったのかもしれない。

 

 

「でも、そうならないように、させないように“男性“は……きっと“男性“も“私“ともっとずっと一緒にいたかったんだと思う。でも“男性“は“私“の為に空に歌を捧げたんだよね?」

 

 ナツキは誰に言うわけでもなく、スマホを眺めながら、口ずさむ。恐らくは本作の語るとある歌を……。それにシアがハモる。

 

「!」

「そう、多分その歌を“男性“は歌ったんやろな? その歌の歌詞は“男性“が“私“の事を願えば、“私“がどんな状態でどんな存在かは関係あらへんねん。願い、祈り、想いの強さがあれば願いは叶うんや」

 

 想い想われるそれには何事も適わないという、そんな歌詞である。これは某人形が心を育てる物語のテーマソングなのだが、奇跡を待つではなく、奇跡は起こる物であるという前向きな歌。故に、“男性“は空に歌を捧げた。

 

「さぁ、皆さん。“男性“はどんな願いを空に願ったのでしょうか? 何故“私“はお礼を述べたのでしょうか? ここが本作における私の一つのいいえ、最大の尊い謎なのかもしれません」

 

 セシャトはスマホをトンと置くと、ここで質問タイム。Web小説のテラーとしてセシャトは普段何度でも読み終えた作品に対してこの行動を行うことがあるが、彼女は本作を読むのはこれが初めて、最終話についてまだ読み終えていないのにも関わらずこう聞いた。

 

 二人にそしてシアに問いかけるので、シアは呆れたように笑う。元々この物語を薦めたわけなのだが、セシャトは一回目でかつ読み終えてない状態で同化した。

 

 ふふふのふと笑うセシャトにシアはあえて自分の考えは述べない。今回の主役はセシャトと同じく本作に同化しつつある少女二人。

 ナツキとリツキ。二人、ナツキが先に動いた。中学生の制服を着た彼女はセシャトが用意したアイスコーヒーにガムシロップを二つ入れてストローで勢いよく吸う。

 

「きっと“私“は自分が死んだ事を思い出した事で、この世との縁について自分なりの考えもあったんだと思うんですよね。それには、あと一つ。思い残しがあったんだと思うんです。それはほんの僅かな事だったんだと思うのですけど、それを“男性“は歌ったんだと思うんです」

 

 色即是空という言葉があるが、本作のテーマの一つかもしれない。生と死は形式でしかなく本当に存在する物、想い。ストレートに言えば愛は不変であるとナツキは述べた。

 

 ただの中学生ではないのだろう。

 しかしながらこの読み込み、そして物語とは大元を辿っていくと不思議な事に仏教もキリスト教もイスラム教も同じく経典のような流れを持っている。

 少し話を脱線するが、主人公という言葉は宗教用語だったりしなかったりする。

 昔は、今より学を学ぶ機会がなかったので、物語として世の中の常識やルール、理を教える意味もあったのかもしれない。そういう意味では、本作のように愛や、別れという物への心の納得をさせる事が一番大事だったのだろう。

 

「悪くないやん。来世の縁を、そして忘れなければいつだって会えるっちゅー話やな。アンタなりのそれがこの物語と自分の答えやな。で、もう一人のJKはどないなん?」

 

 さて、全て答えを述べたように思えるナツキの解。それに対して、少し考えたようにナツキはシア、テラーであるセシャトに、そして要があるというリツキを見て自分の言の葉を乗せた。

 

「私は……少し、その子……リツキとは少し違くて“私“は微妙ながらも自分の死を受け入れていますので、元々付き合っていたかは分からないですが、“男性“は“私“に愛している事をしっかりと伝えた事だと思うんです。それはしっかりと行動に態度で……それに対する“ありがとう“だったんじゃないかなと」

 

 愛は不変である。ならば、それを実際に形式として現す方法として“男性“の行動。それら全て、今までの短い人生の全て、思い出の全てに対して、さよならを含んだありがとうだったのだろうと。

 

 空即是色の考え方を述べる。シアはチラリとセシャトを見ると、笑顔のままちょっと理解が追いついてなさそうなのでシアはセシャトの淹れてくれたアイスコーヒーを一口飲んでテラーを交代した。

 

「ほとんど同じやけど、リツキちゃんとナツキちゃんは重きを置く部分がちゃうんやな。物理的な本物か、メンタル的な本物かやな? セシャトさん。これは最後まで読んでるウチの方がここは一日の長があるから続き話させてもらおか? 先に言っておくとこのページが物語において最終話と言ってええわ。どうとる事もできるけど、“男性“はある意味で星に願いをにかけて“私“を想ったラブソングと言ってもええやろね。ウチはこう読むで、“私“のありがとうは、大好き。やな」

 

 はっきりと明言されているわけではない。“男性“の一連の行動からして“私“への好意を表現されている為、素直にそれらに対して、“私“は私も“男性“のことが好きだとお互い想いを再確認しあったのではないかとシアはまとめた。

 

 難しく考えなくとも二人の縁の物語であればこれは一つのハッピーエンドだと言えばしっくりくる。セシャトはおぉ! と二人の意見を完全に省略した一つの答えに感嘆する。そんな聞き手に回ったセシャトにやはり苦笑してシアは二人に尋ねた。

 

「で、そろそろ本題に入ろか? でもこのままやと次のページを読めるのはナツキちゃん。アンタだけやで」

 それにはリツキは難色を示す。

 

「な! なんでですか! 私も読みたいです!」

「あかんて、リツキちゃんはナツキちゃんにバトン渡しに来たんやろ? ここがアンタの盛り上げ時や! 本作の“私“もここで退くから物語は盛り上がり、最高に感動するんやで、そしてリツキちゃんがここで逃げ切りバトンを渡すことで、出会いの季節がやってくるんや! な? そやろ? アンタは別れ担当や!」

 

 一体何を言っているのか……セシャトはいまだに二人が何者なのか分からない。シアにそう促されてリツキはリレーに使うようなバトンを取り出すとそれをナツキに渡す。

 

「もっと三月でいたかったのに、雛月から卯花月へ、はいバトン! 逃げ切って三月続けてもよかったのに」

「そんな事言ってたら、ただでさえコロナの影響で学生が大変な状態なのに入学式できないじゃない! ほんとバカね。確かにバトンは受け取ったわ! これでようやく桜が開花を始めるわ」

 

 ここでセシャトはこの二人は三月と四月だった事に気がついた。今まで宇宙人、過去の人、未来人。物語からの住人、幽霊、神様、作品の作者と様々な存在がきたがまさか暦までやってくるとは思わなかった。

 

「えっと、お二人にご質問なのですが、毎月皆様はバトンリレー的な事をされて月が変わるのですか?」

「「そうですよ。その微妙なズレで閏年があります」」

 

 そうだったんだぁとセシャトは驚く。毎月の移り変わりの裏でこんな可憐なお客様が走ってバトンを渡して、またバトンを渡して一年が過ぎ去っていく事を想像して再び驚く。

 

「セシャトさん、このくらいのお客さんいつもの事やん! それより、いよいよクライマックスやで! こういう時はなんか洒落た展開がえぇなぁ?」

 

 シアは指輪に口づけをすると古書店『おべりすく』の母屋から場面が変わる。そこはどこかの学校の屋上。それも普通じゃ絶対に入れないような鍵のかかっていそうなそこ。

 

「じゃあほな! ナツキちゃんはヘッドフォンでもつけて気分出してこか? じゃあリツキちゃんはお疲れちゃんということでアクエリあげるわ」

 

 えぇとヘッドフォンを首からかけられたナツキと、なぜかスポーツドリンクを渡されたリツキ。今、何が起きたのか思いながら今月最後の読み合いが始まる。 

第十章 『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』さて最後の“私“のありがとうはどういう意味だったのか? それに関しては当方でもいくつか少し違った見解もあります。やはり、受け止め方というのは千差万別であり、これが全ての読者に受け入れられる作品がないということの裏返しなんでしょうね。さてさて、次回最終話ですねぇ! お楽しみに!

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