作品を編集の視点から考え、中身を読む師匠ちゃん登場
最近、私とレシェフさんの中でコーヒーゼリーが流行っているのです! 普通にスーパーとかで三個入りのやつ美味しくない? という事なのです! 師匠ちゃんはプリン派なので、この話には入ってこねーのですよ!
ヨーグルトとかプリンとか三個入りの奴、チョーうめぇのですよ! 私たちはトリオなので三人で分けれるし、メーカーさん、偉いのです!
「うぉい! マフカス」
マフデトは暴言を吐いてやってくる人物を笑顔で迎え入れた。
「師匠ちゃん、早かったのですね。入るですよ」
「ほれ、ずんだロール」
「うわーい! なのですよ」
「『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』ねぇ……魔女繋がりで気に入ってるとかか? だったら殺すぞ?」
「魔女の概念は嫌いじゃねーですけど、普通におもしれーからですよ。師匠ちゃんはこの作品を読んでどう思うのです?」
師匠ちゃん、マフデトの友達というかいじめっ子。ずんだロールを食べながらしばらく静かに作品を読む。
「で? 魔女ってそもそも何? というところかな?」
「あぁ、そう思うです?」
「いや、俺は先入観を捨てて作品を読むから、とどのつまり、断片的にしか世界観は伝わってこないわ。もちろん作品構成上そうなんだろうけど、Web小説らしい置いてきぼり感はあるわな」
Web小説らしいという物が何か? 校閲と編集、第三者が入らない事で起こりうる現象で、世界観を理解してもらおうと異様に説明が長かったり、逆に作者の脳内で完結してしまっている為、説明が少ない状態の事。
魔女というキーワードに関して、カンザキを含めて複数人存在しており、彼女ら以外も別コロニーに分派として存在している時点で、特異ではあるが、希少ではないことが伺える。
それ故、魔女とはなんなのか? という説明がもう少々あった方が作品に深みが出る。
「基本的に先入観で魔女を想像しているので、あんまりいらねー情報でもあるのですよ。師匠ちゃんは校閲する人なので気になるんですね」
「まぁ別にそんなめちゃくちゃってわけじゃねーけどな。頭から読むと、魔女キーワードにはそこまでの重要性はねーだろ? カンザキとリンフの物語だから、この辺を明確にしておいた方が作品として興味を持ちやすいつーやつだ。あとなんか飲みもん」
パシパシとマフデトの王冠を叩くので、マフデトがその度に王冠の位置を戻しながら「牛乳でいいです?」
「御意まる〜」と返すので、マフデトは瓶とパックの牛乳を見比べてからパックの牛乳を牛のイラストがついたマグカップになみなみと注ぐ。
「お待たせなのです」
「サンキュー……おぉうめぇ! 牛乳まじぱねぇな」
「なのですよ! まぁそっちは安物の牛乳なのですけど」
正真正銘の牛乳好きであるマフデトと師匠ちゃん。そんなことを言われても師匠ちゃんの反応は真のミルクジャンキーであった。
「まぁ、なんでもいいんだけどさ……とりあえずマフデトは死ね」
「痛い!」
師匠ちゃんにチョップされて、額をさするマフデト。
「喚起を起こすあたりの物語。作品においての大一番の一つだろうよ。あとさ……マフ。外にいるキメェクソ女共は何?」
師匠ちゃんにクソ女呼ばわりされるのは北海道の白ギャルと沖縄の黒ギャル。二人とも中々に可愛いが扉の前で中の様子を探っている。
入る勇気がないのかなとかもう少し言いようがあったかもしれないが、師匠ちゃんは対人表現能力が死滅しているので、キモいかキモくないかでしか判断しない。
「ほっておくのですよ。最近、あれに取り憑かれてのです」
「まじで? マフもキメぇな。俺に変な病気うつすなよ? まぁ話を戻すと、大一番のお話だ。開けた場所をヴェルデ。要するに俺と同じく師匠が作ってくれたわけだ。ちなみに、マフは瞑想とかできる?」
「無理なのです!」
「俺も!」
二人はクリエイター、いついかなる時も頭を動かし続けているのだ。師匠ちゃんは無意識にマフデトの王冠を触ってその位置を動かすので、都度マフデトは元に戻す。
「うぜーのですよ」
「シンパシーとかシナジーってのは実際ある見たいよ。喚起という物は人間が備え持っている能力かもな」
一人ができると次々に同じことが成功すると……かつてスプーン曲げで一斉を風靡したことがあったらしい。いい雰囲気や組織を作ると皆一様に一定の成果が出るように、人間という個体の群衆依存による変化は極めて高い。
「師匠ちゃん、実際喚起って何歳くらいで行うのがいいと思うのです?」
「いやぁ……知らんけど……作品内設定の情報だし、年齢によってメリットもデメリットもあるんじゃねーの? 小さい頃に喚起させたら、身体にはよく馴染むけど、心が成長してないからコントロールが難しいとか、大人や心が育って喚起すると、コントロールは容易いけど、身体に悪いとか……公式設定の寿命云々に繋がるんじゃね? 知らんけど」
師匠ちゃんも作品を補佐で書く人間なので、自分なりの見解を述べる。そう、彼は人外ではなく人間。人間でありながら人外のマフデトやレシェフさんと友人関係である。
「なるほど、なのですよ。確かにそうかもしれねーですね。リンフはカンザキが愛を込めて育ててるので、しっかり成功したのですよ。それも影の能力なのです! もし私ならなんだと思うのです?」
「えっ? 闇? というか嫉妬がすげーから、ちんけな闇だな。俺は?」
「闇なのですよ。暴言しか吐かねーので、師匠ちゃんは、クソみたいな闇なのです」
お互い、お互いをディスり、そして笑顔で師匠ちゃんがマフデトの頭をぐーで殴った。するとマフデトもまた師匠ちゃんをぼかすか叩く。
ひとしきり殴り合ったところで師匠ちゃんが提案。
「この話やめね? 痛ぇし」
「仕方ねーのですね……いてーですよ」
「つーかさ、お前のカーチャンウザくね? まじ殺してーんだけど」
「母様がうぜーのは今に始まったことじゃねーですよ」
ダンタリアンと師匠ちゃんが喧嘩を始めると本当にめもくれないぐらい悲惨である。書の大悪魔と人類最大の批判者・師匠ちゃんとの戦いは永遠に終わらぬ一千年戦争。
「自然を友達って表現は面白いな……自然を調伏しているわけじゃない、まさに森の民・魔女を思わせてくれる」
「あー、私もそう思うのですよ」
自然信仰である魔女故の表現なのか、実にパンチが効いており、読んでいて実に心地よい。師匠ちゃんは思い出したかのように、うまい棒を出すとそれをマフデトに渡す。
「ほれ、神様が好きだろうと思って買ってきた」
「てめー! 師匠ちゃん、買収されたですか?」
「は? 元々、神様とこの作品よみにきたんだけど? そこにマフがいた」
マフデトはそれに頬を膨らませて再び師匠ちゃんをぼかすか殴る。それに師匠ちゃんもまたマフデトを叩く。
「なぁ……やめね? 痛ぇし」
「仕方ねーですね。二度と私の前で神様の名前いうなし」
「へーへー、それにしてもレシェフがいると三人勢揃いなんだけどな……魔女物とか魔法使い物にクローンが出てくるのってなんか思い出せるのある?」
「色々あるのですよ。ホムンクルス扱いでよく見る設定ではあるのですが、魔法研究、錬金術研究の奥義という物は大体永遠の命なのです」
各種神話でも呆れる程に永遠の命について語られる。当時の人間もリアリストだったのか、大体それらが成就されることはないのだが……師匠ちゃんはケーキスタンドが出てきた事に食いついた。
「いきなり英国式のティータイムが始まりやがったな」
「日本では愛されているのですよ。セシャト姉様も茶器と一緒にニセット程所有しているのです」
セシャトさんはリアルでも茶器マニアとして有名であるが、古書店『ふしぎのくに』はよくまぁいろんなところでお茶をしている。その為、こういうティータイム風景には反応しやすい傾向があった。
「スコーン、にサンドイッチにケーキ。すげぇ既視感あるわ。この魔女達のお茶会。これほとんどふしぎのティータイムじゃんかよ。ほんとお前らよくお茶ばっかりしてるよな?」
そう言って師匠ちゃんはマフデトの頬についたずんだロールのクリームを拭き取る。
「クローンで有能な人間がいれば戦争に人間は投入するのでしょうか?」
「十中八九するな。第二次世界大戦で、どこの国も超兵を作ろうとしていたのは事実だし、替えがきいて人権すらない奴はまさに兵器に命を組み込んだような物だろ?」
事実は小説より奇なり……そして人間の狂気は正直創造を超える。間違いなくカンザキのクローンは戦争の道具として介入してくるだろうと師匠ちゃんは語る。
「レシェフさんならどうだと思います?」
マフデトの素朴な疑問を聞いて、師匠ちゃんは少しばかり考える。言わずと知れたレシェフさんはその胸糞悪い作風がとても有名である。作品内の描写や卑猥な擬音語表現においてバンされないのが不思議である。
「なんの救いもない戦争被害に遭う子供の話でも書きそうだな。カンザキのクローンは薬漬けの使用済みとして、そりゃまぁ……目も当てられないような描写でさ」
二人が話していると、扉のところで聞き耳を立てているギャル二人がついに意をけして入店してきた。
「まふ! こんにちはわ!」
「まーふー! いちゃいたかったーさー!」
そう言ってマフデトにくっついて頬擦りするシーサー。それにカムイが怒る。
「シーサー、抜け駆けはなしっしょや?」
「うぜぇ、超ウゼェのです」
マフデトにベタベタと触れるカムイにシーサーを見て師匠ちゃんはゆっくりと店から出ていく。マフデトはそれに気づいて大声を出そうとするが頬をぷにぷに触れられたり、もみくちゃにされる。
「まぁ、現在公開されてるところまで読んだし、もう帰ってもいいか……マフカス、お前の犠牲は無駄にはしない! なんちてな」
師匠ちゃんはレシェフさんに電話をしながら神保町から去っていく。師匠ちゃんがいなくなったところで、カムイとシーサーはひとしきりマフデトに触れた後にこういった。
「まーふー、わんにゆらんさぁ! ゆらんさぁ!」
「あー! ウゼェのです! もうシーサーさんも一緒に『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』読んでやるのです!」
マフデトが相手をしてくれるというのでシーサーはトレーディングカードゲームのデッキを見せる。
「いや、それはしねーですよ! というかどんだけ対戦型トレーディングカードゲーム好きなんですか……引きますよ」
マフデトは目を輝かせているギャル二人を見て、やむなし……
「母屋に上がるです」
『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』編集チームの目線から見ても、しっかりと前後関係が分かりやすいWeb小説として本作は名前が上がります。また寒くなってきたので、温かいお部屋で、魔女とその弟子の物語に意識を遊ばせてみるのも良いですねぇ!




