西のおもてなしは焼肉と雑学
ナツキは息を切らせてそう言った。私服を着ているのは着替えに帰ったからだろうか?
「あらあら、ナツキさんどうしたんですか?」
「……あの、私、ナツキじゃないです……コノハト リツキです」
「むむっ! 御苗字までとは……何か分けありのようですねぇ。今から私たち、晩御飯を頂きに行くのですが、よろしければご一緒にいかがでしょうか?」
ご飯を一緒に行かないというセシャトにリツキは少し目を丸くして驚くが、バストがトドメの一言。
「夕食は焼肉っすよ」
「ご一緒します」
しばらく歩き大きな駅の中にあるモール内の焼肉屋、バストは店員に声をかける。
「今日もよろしくっす。シア姐さんで予約している『おべりすく』っす」
「バストさん、いつもありがとうございます。お二人、先に入られて始められてますよ!」
苦笑しながら、案内された先。そこでは剣菱を一升瓶で横に置いている青い髪の少女と、ジョッキのビールを前に赤い顔をしている青年。
「アヌ、アンタ。今日がなんの日か知らん訳やないやろ? このドアホ!」
「……この際ですから言わせてもらうけど、姐さん。ワシは今日休みなんちゃうんかい! ちょっと遅刻したくらい多めにみぃや!」
「あぁ? もっかい言うてみ?」
さて、どうしたものかとセシャトは思っていると、平然と二人に話しかけるバスト。
「姐さん、アヌさん、お疲れ様っす。セシャトさんと……もう一人連れてきたっすよ」
一瞬ギロりとバストを睨みつける二人。そして、セシャトとリツキを見て、アヌが犬の耳みたいな癖毛がピンと立つ。そして二人は一瞬で笑顔に変わる。
「おぉセシャトさん久しぶりやのぉ! あとJKか? ほら座り座り! 店員のおねーさーん! とりあえず牛タン十人前、ビール追加に二人は何飲むんや?」
「むむっ! グレープフルーツジュースでお願いします!」
「う、ウーロン茶で」
オススメの牛タンは厚め、それを網に乗せ火が通っていくのを見つめながら、シアが盃を掲げる。
「じゃあ、今日から研修来てるセシャトさんの歓迎と、リツキちゃんに乾杯やな!」
「「「「乾杯!」」」」
レモンをかけてひょいパクと歯応えと味を楽しみ、スマホを取り出したアヌが語り出す。
「それにしても、“私“は学校外までも外に出られるんやなぁ! ほんまに“私“は死んどるんやろうか? って思わへんか?」
「そう、そうなんですよ! 私もこれには驚きました! “私“はもしかすると本当は生きている人、あるいは、別の視点なのかもしれないですねぇ! 結末を知らずに考察するのがこんなに面白いとは思いませんでしたよぅ!」
話に入る為にリツキもまた、スマホで作品を追いかける。本作、SSのような短さの特権とも言える。当然の如く、牛タン二人前を食べ終える頃には現在話している頁まで追いつき、自身の意見を述べる。
「星に送る歌……これって、もしかしてなんですけど……この物語って……七夕なんでしょうか?」
七夕……それを聞いて、古書店『おべりすく』の三人は少し考えて、成程と相槌を打った。セシャトには全然理解できない。それ故にセシャトは素直にリツキに尋ねた。
「リツキさん、本作と七夕とは……どういう意味なんでしょうか? 私には七夕と本作はかけ離れているように思えるのですが……」
「セシャトさん、お亡くなりになった方を想い、お勤めする事を供養と言いますよね?」
「えぇ、はい……」
「九曜。日曜日から土曜日に冠する天体と、日没日の出を意味する星と、極楽浄土へと向かう星を合わせた物です。それらを合わせて九曜、別名を供養といいます」
セシャトはいまだに理解できないでいると、一升瓶の剣菱を半分ほど飲み終えた後に熱い息を吐いてから補足した。
「七夕の事を星祭って言うんや。セシャトさんも聞いた事くらいあるやろ? 織姫とかいうしょーもない女と、彦星とかいうしょーもない男の話やな? これな? 日本やと七月七日やろ? 盆はじめの時期やねん。で、この七夕って、お互いを歌うんや、とある少数民族の恋の語り方やねんけどな? リツキちゃんはよう知っとるな。確かに、この物語は、恋愛の物語なんや……と思うとしっくりくるかもしれへんな」
セシャトは“私“の語りからこの七夕の物語を予想する皆に独自の解釈を語ってみた。
「という事は“男性“が毎回同じルートで帰られているというのも、それらにちなんでいると言う事なんでしょうか? もしかするとなんですが、織姫さんと彦星さんは天の川という物を境に語られますよね? 同じ場所なんですか?」
これに関してはバストが答えた。
「天の川、織姫、彦星の位置は実は毎回微妙に違うんすよ。それだけだとセシャトさんの話は否……なんですが、これが精神的な道、白道と黄道のお話でいうと正しいんだと思うんすよ。“男性“は“私“の面影、思い出を学校や、街の中で探してるんじゃねーですかね?」
『上カルビお待たせしましたぁ!』
焼肉屋の征夷大将軍、上カルビの登場に誰よりもリツキが飛びついた。
「いただきます! あと、ご飯大盛りで頼んでよろしいですか?」
「いくらでも食べ!」
話が盛り上がったところで一旦休憩。アヌは弱いながらビールを喉に流し、バストはキムチ漬けにナムルをつつきつつ、シアは新しい日本酒・八海山を注文。
「なんともアレやなぁ、ところどころコミカルやねんけど、なんかじんわりと“私“の行く末が見えて来てなんとも言えん空気感を感じるのぉ」
星空な瞳。読んで字の如く、“男性“の瞳に映るそれなのだろう。“私“は中々辛辣に“男性“の行動を評価していたり、“男性“の行動を少しばかり茶化しているが、“男性“の瞳に魅入られている。恐らくはその“男性“の瞳に本来映るはずの物が映っていないのだろうが……
「夜空を映している“男性“は“私“の事を探しているんでしょうか? そして、これは……もしかするとなんですが、“私“ではなく“男性“の未練なのではないかと……思ってしまうのは私だけ……ではなさそうですねぇ!」
セシャトは上品に口元を拭いて、ローストビーフユッケを口に運ぶ。そんなセシャトを見つめている四人。そんな中で口を開いたのがリツキ。
「それは考え付かなかったですね。もぐもぐ……あっ! このサムギョプサルおいひー! “男性“の方が“私“を忘れる事ができないから“私“が今に存在してしまっていると言う事なんですかね? よくある生者が死者を現世に縛っているってやつですか?」
「ですねぇ! 強く“私“の事を想ってしまっている“男性“が故に“私“が何かをなさないといけないという事なのかなと……思いまして」
“男性“の行動や“私“への高圧的、かつ後悔したような態度が物語っている事がほぼほぼ結果なのだろう。
“私“が語部として、“男性“を語る物語なのではないのか? タイトルは完全に“私“から見た“男性“であるわけで、いかにして、“男性“が“私“との現世での縁を終えるかどうかの物語であると思えば、まさに“私“の一人称は、言葉通り、“神“の視点と言っても過言ではないだろう。
「中々、えぇところついてくるやん! さすがは東の古書店『ふしぎのくに』の店主セシャトさんやなぁ。まぁほぼ核心に迫っていると言ってええやろうな。本作の落とし所が、一番の盛り上がりを見せたいわけやな。“私“は案外、冷静でかつ肝っ玉も大きいから、その盛り上がり時にどんな表情と感情を見せてくれるか……今から期待しててえぇで! じゃあ、とりあえずシメになんか頼もか?」
古書店『おべりすく』、成人した三人は冷麺を頼み、未成年のセシャトとリツキは杏仁豆腐を注文。
焼肉のシメに注文した冷麺にシアは大量の酢をかけて、セシャトは杏仁豆腐に大量のシロップをかけて食べる。
「うまっ!」
「美味しいですねぇ!」
極端に体に悪そうなそんなデザートを口に運ぶ二人を見ながら、バストは思い出したかのようにリツキに尋ねる。
「そういえば、リツキさんはナツキさんのお姉さんか妹さんなんすか? シア姐さんやセシャトさんみたいな?」
バストとアヌからすれば雇用主であるシアは姐のような存在で、東京の店主セシャトは二人からすれば妹みたいな存在である。リツキのアンサーはいかに?
「ナツキ……あぁ、あの子。そう! 私はあの子から受け取らないといけない物があるんです! 焼肉食べて、杏仁豆腐食べてのほほんとWeb小説のお話している場合じゃなかったんです! 何かあの子から聞いてませんか?」
ちゅるちゅると冷麺を食べながらシアはリツキの話に耳を傾け、セシャトは杏仁豆腐に夢中だ。アヌもバストもリツキの話がちょっと見えてこないが、冷麺を食べ終えたシアが独り言のようにこう言った。
「まぁ、中々捕まえるのは難しいかもしれへんなぁ、まぁでも。ちょうどえぇ話読んどるからな! ウチらの店これからおいでや! 一緒にこの話読んでたら、そのナツキちゃんもやってくるんちゃう?」
そう言ってシアは着物の懐からキセルを取り出した。そこで一服と思ったところ、店員が走ってくる。
「すいません! シアさん! 二年前の四月から当店、完全禁煙なんです! 一応、喫煙ルームがありますので」
「ほんまに? そらしゃーないな。ほなちょっとタバコ吸ってくるわ」
子供みたいな見た目のシアが喫煙ルームでキセルを吹かしている姿はあまりにもアレな感じだが、シアはリツキが受け取りたい物という何かについて知っているらしい。
「さすがシアさん、西の古書店『おべりすく』の店主ですねぇ! 人生経験が豊富です!」
「ちゃうちゃう! セシャトさん! シア姐さんはババアなんやて!」
「あらあら、アヌさん。シアさん凄い目で睨んでますよ?」
唇を読んだらしいシアはアヌに向かって口パク。
それを読んだアヌは立ち上がると走って店から逃げ出した。
『星空な瞳〜願いの込められたヘッドフォン〜 著・桜桃』いよいよ考察も後半戦です。本作はメンバーの一名にミーティング毎に一話読み進めてもらい予想して貰い本作の紹介小説に繋げています。短編は1回目が本当に大事です。後付けができないので読ませたい情報をいかにして理解してもらうか、それを考えながら読むとまた面白いですねぇ^ ^




