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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十章 『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』
86/126

タイトルが意味する物を読む

 先ほどのシアと違って可愛らしい人だなと思っていると、セシャトさんは母屋の席に座るとブラックコーヒーを美味しそうに飲みながら話し出した。

 

「さて! それではお話をしましょうか? 少し前のお話をおさらいしますね? 二話目にして“私“の結末は見えてしまった事になります。一旦、ここで読者側のストレスが昇華された事になります。ですが! 次の疑問、屋上の男性ですね! こちらの解決へと物語は進みます。どうやら第三話は明確に、第二話から時間軸が同様と示唆されています。そしてこちらでの“私“は少し可愛いですねぇ! お弁当を持って屋上にいらした男性にアポイントを取ろうとされます」

 

 ここで一つ、“私“は死んでいるのではないか? という予測をナツキは行いシアもその予測に関して否定はしなかった。

 しなかったのだが、第三話にてその予測が大きくぶれる。

 

「セシャトさん、“私“ですが、お弁当を持って登校されてますよね? という事は……“私“は死んでないという事なんでしょうか?」

「ふふふのふ! 実は本作は私も初めて読みますので、ナツキさんと一緒に予想や考察しながら読み進めていますよぅ! ですが確かにお弁当を“私“はお持ちです。これは考えられるパターンがいくつかあります。私やナツキさんの予想がハズれ、“私“はご存命で何故か認識が阻害されているというパターンですね。そして、もう一つはやはり“私“はお亡くなりになられていて、されどお弁当をお持ちであるという事ですね」

 

 セシャトは、西日本で有名なチーズケーキを美味しそうに食べながら少し興味深い事を話した。ナツキは目の前にあるアメリカンチェリーを一粒口に運ぶ。


「どういう事ですかセシャトさん?」

「そうですねぇ! 幽霊という存在を見た事がある人はいるかもしれませんが、その存在を共有できた方はいませんので、創作造形上などでお亡くなりになられてもその時の強い想いや未練など、深い関わりがある物は死しても尚お持ちであったり、それにはいわくがついたりしますよね? と一旦仮定致しますと“私“にとってお弁当という物は何か思い入れがあるのかもしれませんよぅ!」

 

 これが古書店『ふしぎのくに』セシャトさんの物語の楽しみ方である。

 “私“は死んでいるとやはりこの話でも仮定できる。それは“私“と一度コンタクトをとった“男性“彼の行動である。

 

「セシャトさん、どうして“男性“は“私“を無視したんだと思いますか?」


 べりりとセシャトさんは平家パイと書かれたお菓子を取り出してそれをお菓子用の容器に入れると一枚、二枚とそれをパクパクと食べて濃いめのお茶をゆっくりと口につけて喉を潤すとセシャトさんはそれについて見解を語った。

 

「さて、“男性“は“私“を避けるように無視されています。結果としてこれは無視だったのでしょう。しかしです。他の方はどうでしょうか? 恐らく“男性“は他の方々と同じ行動をとっておられますよね? 他の方は無視ではないのでしょう。もし、“男性“が無視ではなく“私“を認識しなくなった時、本当に“私“は逝去されたと言えるのではないでしょうか?」


 よく言った物で、人の本当の死は忘れ去られた事であると言う。死しても尚人は想いの中で生きているとも言われるが、その想いが重すぎると死者はその場に残り、生者は死者を現世に縛るとも哲学的な話では言われる。

 

「“私“と“男性“は痴話喧嘩みたいなの始めちゃいましたけど、これってより強い想いがぶつかってますよね? “私“は“男性“にすごい執着してますし、“男性“は“私“を強く認識してますしこれってそういう事ですよね?」

 

 “男性“が本当に関わる気がなければ“私“が見えていても認識しないものとして扱えばいい。さすればいずれ“私“も諦めるだろうし、“男性“もまた“私“が見えなくなるかもしれないが、“男性“は“私“を完全に拒絶はできなかった。結果として取り憑かれるといえば言葉は悪いが、“私“は“男性“に執着し、そしてその結果学校という場に呪縛される。

 

「突然“男性“が逃げるようにランチタイムですね。お昼ご飯の時間少なくなったんでしょうか? でも、ヘッドフォンをつけて一人の世界に入る人って学校とか結構いますよね?」

「ううむ。私は学校という組織に所属したことがないので、分かりませんがそうなんですか?」

 

 現在四歳のセシャトさんは学校という場所に並々ならない興味と期待を持っているが、残念ながら学校ネタには少し疎い。その為、セシャトは来店するお客さんの行動や、Web小説の描写を考え説明するが、学校生活に興味津々な表情を向けるので今回はナツキが話すことにした。

 

「まぁ、そうなんですよぉ。ぼっちの子とかお弁当食べる時とかヘッドフォンで自分の世界に入ったり、なんなら授業中もイヤホンつける人とかもいますよー! 耳はあらゆる情報が入ってきますからね。目は目をつぶれば何も見えないですけど、耳は塞がないといけないですから、それに耳は聞きたくない声が聞こえて来るものですから」

 

 要するに、目で見ている物が本当に真実なのか? これと同じく耳で聞いている事が本当に真実なのか? という事である。あまりこの情報の詳細及び出所は出せないのだが、既に我々が聞いている言葉の音に全く違う言葉の音を乗せる技術が存在しているという事だけは告白しておこう。

 今回はそんな技術の話ではなく、本来誰にも聞こえない声や音から自らを守のに耳を塞ぐ、耳は六識、神聖な物として扱われる。故に耳を塞ぐというのは自らを守るという意味もあり、有名なお話に耳だけ持っていかれる琵琶法師のお話は有名だろう。

 

「なるほど、ヘッドフォンは何か、“男性“とそして“女性“の思い入れのあるキーワードであると思っていました。いえ、タイトルにも使われている為、キーワードなんでしょうね。ですが、そういう即面からも考える事もできるわけですねぇ……むむっ」

 

 セシャトは弁当をかっくらう“私“と彼女の行動について興味が尽きない。そしてこの章のタイトルであるイタズラ。

 

「イタズラという程のイタズラはされてないですから、この作品の作者さんはタイトルの付け方が独特ですね。いや、深読みしない方がここは無難ですかねー?」

 

 イタズラはヘッドフォンに“私“が触れようとしたそれだけ、それに相当な憤怒の表情を向ける。要するにこのタイトルはイタズラその物ではなく、イタズラを向けた先、要するにヘッドフォンを意味している。

 これに関しは少しタイトルとしては弱く、捉え違いが出てきやすい。単純に“男性“目線の憤怒や怒り、“私“目線で地雷、あるいは兆しとかストレートな方が分かりやすい。

 

「ふふふのふ! Web小説の醍醐味とも言えますよぅ! 何を思ってその作品を書き、何を考えてそのタイトルを選んでいるのか、編集の入らないフレッシュな文章です! さてさて、お二人に進展がありました。なんというか、いいですねぇ! このラブコメみたいな空気感」

    

 本作は、思い出、あるいは思い入れと別れの物語であるハズなのだが、“私“のフランクさも相まって悲壮感がないのがまた一つの魅力かもしれない。が、しかしである。これらの物語の一番の盛り上がりとはやはり、どのようにして幕引きをするのか、そしてできれば幕引きは盛大な感動と余韻を与えるものが好ましいだろう。

 

「いわゆるギャップというやつですか?」

「ですです! キミスイなどでは、少しばかり強引でしたが、膵臓ガン、即ち寿命でお亡くなりになるのではなく、不慮の事件で命を落とすヒロインという強烈なギャップから悲しむ準備ができなかった主人公の幕引きを非常にうまく演出されていました。本作もこの流れを持っていると予測してほぼほぼ問題ないでしょう」


 セシャトは、次はたけのこの里を取り出すとそれをお貸しの器に移しそのたけのこの里をパクリと食べる。

 

「うん、いいですねぇ! 私はキノコの山も好きですが……ナツキさんはどちらがお好きですか?」

「き、キノコの山かな?」

「ふふふのふ、そう。そんな自然な会話になりましたね? “私“と“男性“の距離がここで大きく近づきましたよね? 明らかに“私“を拒絶していた“男性“はここにきて、“私“が“男性“について何も知らないという事を覚えていない事として話しかけておられます。さてさて、どういう心境の変化なんでしょうね?」

 

 まず“男性“は“私“にとってどういう関係の人物なのか? 友達だったのか? それとも恋人なのか? にしては、“男性“の反応はあまりにも辛辣である。


「どこまで覚えていて欲しいんでしょうね?」

「ふむふむ。私もそれを思いましたよう! 二人の関係性とそしてその思い出、シアさんに結末を知らずに読み進め考察する楽しさ、一回きりですからねぇ! たまりませんね!」

 

 本の虫である二人は、次を読む欲を抑え、次の話を予測する楽しさ。新しい読書の方法を知った。

 では、そろそろ第四話を楽しもうかとセシャトさんはナツキとアイコンタクトする。まだまだ物語は次があるのだ。

 それに二人は頷き、次のページを開こうとした時。

 

「はいはーい! シア姐さん。ワシ、参上や! 人生という長い道に迷っててな? ばっすんも一緒やでぇ! ほな今日も楽しい仕事の始まりやぁ!」

 

 この店の店員達がようやく出勤したらしい。そして母屋にまで響くシアの怒鳴り声、そして何やら折檻が行われているらしい。しばらくすると、母屋の扉が開かれる。

 

「あっ、セシャトさん。お客様。いらっしゃいませっす。えっと、シア姐さんにアヌさんが病院送りにされたので、本日は定休日になったっすよ。とりあえず。自分もテラーとしてお二人にお話しするように言われたので、『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』の話しましょうか?」

 

 

『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』3月は去るといいますが、早い物でもう半ばですね! 4月は出会いと別れの季節ですが、3月はなんでしょう? 出会いと別れの準備期間でしょうか? そんな準備期間の物語ともいえる本作を今月一杯楽しみましょうね!

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