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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ
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Web小説における初投稿から感じる熱意を読む

「バカのやつも来るらしいの、どうせだ貴様ら! 迷宮図書館で物語を語ろうではないか!」

 

 神様は指を噛み、そしてパチンと音を鳴らした。セシャト達は母屋で話をしていた筈だったが、古書店『ふしぎのくに』の蔵書を遥かに超える天にも昇るような大量の書籍に囲まれる場所。

 全書全読の神様によってなされる奇跡。

 

「テメェといい母様といい、こういう部分は規格外なのですよ!」

 

 作品を映像として読む、古書店『ふしぎのくに』ならではの読み方の一つ、同化。各々の手には大きな文庫本。駄菓子を貪り喰うだけにしか見えないちんちんくりんの神様が書の神様である所以。

 

「ノルンの奴は実に人間臭いの。フェイの方が妖精、妖怪の造形としてはしっかりしておるからより感じるの。まぁ、人を化かす。騙すなどの理由でいえばそれもまた然りかの」


 迷宮図書館の本を無造作に取って中身を閲覧しながら、バッカスは答える。


「正直村と嘘つき村って証明の問題があるんだけどね? この場合はノルン君に問題があるというより、交渉に失敗している冬夜くんと言乃花くんに問題があるのかな? 仮定として妖精はルールに乗っ取って行動しているとして、あらゆる面から自分を有利に持っていけなかったわけだよ。面倒臭いぐらいに、冬夜くんはAの場合はBを繰り返していればノルンは最大限代償を支払う形で冬夜くんを引っ張らなければならなかったわけだね」

 

 物語的には身も蓋もないのだが、ノルンの言うルールに乗っ取れば、約束を守るかもしれないと言う時点でここを明確にする話をすれば冬夜側が詰めたという事になる。

 しかしである。


「てめーバッカス! 冬夜が約束を守ってくれるんだろうな? はフラグなのですよ。そこで“考えます“に対して、いやいやしっかりそこを答えてくれないとお話にならねーのですよ! とか言い出したら、別作品の主人公なのですよ。ここは騙されるフラグとして素直に受け取るのです!」


 第一章は物語を掴ませる事と、主人公の特異性、要するに補正やらチートを魅せる事に重きを置かれている。また、本作がイロハを遵守した作りになっている事からも一連の流れは深読みせずにそのまま読むことが好ましいのだろう。


「妖精の使う魔法は、一般的に使用できる魔法ではないんですねぇ」

「要するに本作においては妖精は即ち、現象や、本質その物の擬人化としてユニークな魔法が使えるという事なんじゃねーですか?」

 

 本作は設定面やキャラクターの配置において、箱庭というステージの中で魔法という独特のルールを動かすよくある異世界作品の一つと言える。本作のこの第1章まで読み終えて、あえて本作のプロットを作ってみて欲しい。いくから肉付けしたい部分が出てくるだろう。

 

「その肉付けしたい部分が、自分が成長した部分ってとこなのですよ。作品は作品の粗や矛盾など色眼鏡で見なければ普通によくある。異世界物の魅力的なお話なのですよ。よく考えられている設定なのでディレクターズカット版という名の編集版がいずれ公開になるかもしれねーのです」

「生き物としてのWeb小説ですねぇ!」


 Web小説は生き物である。今、公開されている本作、これはもしかすると今しか読めない可能性もあるのだ。作者の神崎ライ氏が、もう少しここを変えてみよう等と考えられ、各話の編集が行われた場合。今、存在している作品は失われる。

 

「それは、悪い事なのかい? より作品を高めようとして編集されているのであれば喜ばしい事じゃないのかい?」


 バッカスの質問、それ以上にない間違いない意見なのだが、当方古書店『ふしぎのくに』は違うのである。どういう気持ちでこの作品を書かれたのか? という事まで考えて読み込んでいる。

 今現在公開されている作品は本当に気持ちが乗っている。楽しいのだろうし、自分の作品に自信もあるのだろう。そういうイケイケな強みや心地よさを感じるのである。読みやすくなる代わりに何かに影響を受けたり、慣れや汲み取れる物が変わってきたりする。それも悪くはないのだが、出来れば作品に取り組んだ最初の気持ちを文章から感じ、楽しむことがセシャトやマフデトは好きなのである。

 

「あれだの、登場人物紹介を一章の後に持ってくる一般的な作りで、読者の認識と作者の認識合わせをここで一旦行うわけだの。フェイに言乃花とノルン、こやつらは特に自分の中でキャラクター像を作りやすいのでこんな感じなんだなと思ったであろ?」

 

 一概には言えないが、当方でアンケートを取ったところ、この三人の認識がみな違っていた。方や……


「学長は私の認識と大体合ってるのですよ!」

「そうですねぇ! 私もマフデト兄様と同じ感想です!」

 

 学園長は、大体こんな感じの、掴み所のない男という出来上がったキャラクターで一致していた。これも当方アンケート調べである。

 

「しっかし……君たちはいつもこんな風に物語を読んでいるのかい? 面白いとは思うけど、凄まじいな。少々引くくらいあるよ」

 

 迷宮図書にある本を元の場所に戻すとバッカスが溜息を吐くようにそう言って登場人物紹介を見つめていると全員に聞かせるようにコンコンと音が鳴る。

 

「「「!」」」


 神様以外の全員が扉をわざと叩く男性を見て驚く。作品世界に入った場合。その作品の登場人物に深く関わってはいけない。というか基本出会ってはいけない。が、この作品における、謎多き人物が面白そうにこちらを見つめている。

 

「おい! テメェ、一番厄介そうなのに見つかったのですよ!」

「ふふふのふ! 神様、どうしましょう?」

 

 神様は出目金の形をしたがま口からチュッパチャップスを取り出すとそれを口の中に入れる。そしてそれを咥えながらその人物の元に向かう。

 そしてその人物もまたゆっくりと神様の元へと歩んでくる。

 

 何が起きるのか分からないので、セシャトは金色の鍵を、マフデトは銀色の鍵を、バッカスは薬指にある指輪に触れる。物語からの強制的な脱出をと考えた時。

 

「すまんな! 貴様の学園にある図書館がちと気になってな。邪魔しておる。これは賄賂だ! とっておけ!」

「えぇ、キャンディーかい? ありがとう。でもそろそろここにウチの生徒とか、イタズラ好きな妖精とかやってくるから、ね?」

「分かっておる。貴様も食えんやつだの!」

「君もね」


 神様は、ワールドエンドミスティアアカデミーの学長とそう二、三言葉を交わすと握手をして手を振った。

 

「という事だ。貴様ら、帰るとするか!」


 親指を噛み、そして何かを呟いてパンと手を叩いた。その瞬間、皆は元の古書店『ふしぎのくに』母屋で目を開けた。

 作品世界から戻ってくるとセシャトは皆の為にコーヒーを淹れる為に準備。長いフラスコを使った水出しコーヒー。

 

「皆さんは砂糖とミルクは?」

「セシャト君、ミルクだけいただけるかい?」

「セシャトよ、私はミルクと砂糖は四個だ!」

「セシャト姉さま、私は砂糖を二個でお願いしますなのです!」

「はい! かしこまりました!」

 

 水出しアイスコーヒーを作るとセシャトはビスケットと共にそれを配膳していく。これから今まで読んできた第一章を再度読み直し、新しい考察が出てくるかもしれない。


「そろそろヘカさん達がいらっしゃる筈ですね」

「おぉ、馬鹿のやつが来るのか!」


 和やかなが空気の中、アイスコーヒーを一口飲んで、バッカスは登場人物紹介の後にある幕間の物語を読みながら神様に尋ねる。

 

「神君、まさかとは思うのだが……君は閑話が展開されている途中の時間軸の迷宮図書館に私たちを紛れ込ませたのかい?」

「中々面白い男であろう? 第一章においてはほぼほぼ登場の機会を得られなかったがこの作品の看板を背負い、キーパーソンになるであろうメイと冬夜との接触を試みるのに作品のバランス調整者として今後どう活躍するのか楽しみだの!」

 

 神様の言葉を聞いてアイスコーヒーを飲みながらセシャトも手をポンと叩きそれについて同意する。

 

「タイトルを読んだり、見たりするとメイさんがキーパーソンであり主役の一人だと思うわけですが、第一章に登場しないのはちょっと驚きですねぇ」

「第一章は冬夜とその周りの紹介というプロローグだったという認識でほぼ間違いねーのですよ。ヒロインの登場順番としてはノルンもヒロインに数えたら、大分遅れを取ってるとも言えるのですが、それ故期待もしたくなるのですね」

 

 現在公開されている話数は第一章までとなっているので、これからどう物語が展開していくのかは未知であるが、メイが第二章にて登場してくるであろう事は予想される。ここから作品はようやく加速度を上げていくのだろう。

 

「案外このままメイ君を出さないというストーリー展開も面白いかもしれないけどね」

 

 本作は物語進行を素直に薦めているのでまずまずバッカスの言う特殊テクニックは行われないであろうと思うが、一応そういう手法がある事も語っておこう。本作が、複数の世界と狭間の世界というキーワードを用いてあるので、同一世界軸でありながら、対象Aとして冬夜の物語と、対象Bメイの物語が平行線をずっと辿るという展開もあり得なくはない。

 

「まぁ、バッカス貴様。文学畑からやってきたような貴様にはそう予想もできようが、まぁまずそれはないぞ。これはラノベだからの。キャラクターは早かれ遅かれ冬夜と出会うであろう」

 

 総評を語っていると、からがらんと古書店『ふしぎのくに』の扉が開かれる。女子三人の語る声が響く事から、

 

「あら、ヘカさん達が到着したようですねぇ! それでは、二月最終日です! 最初から『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』を皆さんと読み返しましょうか!」

「うん、いいね。ワインセラーのワイン、もう一本いただくね」

 

 そのワインセラーの持ち主のいない中で、次々に高級ワインが消費されていく。二月は逃げるように、三月は去るように日々は過ぎていくが、物語は待ってくれる。

 一人で読み、みんなで読み、今日の開店を忘れ、考察、感想、読書会は熱を帯びる。

さて、今回をもちまして、一旦『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』のご紹介を終了させていただきたいと思います。まずご参加いただいた神崎ライさん。この場を持って御礼申し上げますよぅ! ありがとうございました! 今回のご紹介は初投稿した作品についてそれらの素敵な部分、そしてやはり少し荒削りな部分、そのどちらもが魅力的な物であるという事を少しでも伝われば幸いです! 人間は努力し、研磨され昨日の自分よりも今日の自分と成長していくと思います! ですが、過去の自分の輝きを決して忘れない事が素敵な完成をもち続けられる事ではないでしょうか? 今一度、本作を読み直し、これから作品を書かれる方はその魅力的な世界を楽しんでいただき、作品を執筆されている方は、初めてのドキドキやワクワクを思い出していただければと思いますよ! 

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