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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ
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読者はややこしく語りたがり、作者はややこしく思い込む

『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』のご紹介もあと僅かになってきましたねぇ! 初々しい中にしっかりと読者に伝えたいメッセージが込められた当作品ですが、何度も読み込む内に当方も沼にハマってきたようです。今年始まっての最初のご紹介という事もあり議論が絶えません。まだまだ物語は続きそうですが、勝手に結末も想像したり、物語はみんなで楽しむもよし、一人で楽しむもよし! 二月が逃げる前に一度通しで読んでみてはいかがでしょうか?

「サバカレーというやつか! んまぁい!」


 具材がサバ、焼き豆腐、白菜、長ネギ、そして牛肉にトマト。割下を入れて甘口に仕立ててある。高確率でカレーライスを食べる三人の舌を唸らせたバッカスのカレー。


「ふふふのふ! 本当に美味しいですよぅ!」


 そんなカレーを食べながら、神様、セシャト、マフデトは文庫本を読んでいる。その文庫本を見てバッカスは少し驚いた。


「『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』の本……だね? それどうしたんだい?」


 バッカスがグラスに冷たい水を入れて三人のランチョンマットにストンと置いて尋ねると、神様が耳の辺りに触れて何かをしようとしてやめた。


「私が出してやってもいいが、セシャト。貴様らの客であろう? カレーを食いながらだ! スマホでは色気がないからなっ! 本を出してやれ!」


 セシャトは水を一口、そして口を拭くと微笑んだ。


「はい! かしこまりました!」

 

 首からぶら下げている金色の鍵を取り出すとセシャトは、スマホに向けて鍵を刺して回すと神の言葉で祝詞を詠んだ。

 

「|хуxотоxунихуxакутоxуноберу《Web小説物質化》」

「なんてファンタスティックな……」

 

 セシャトが鍵を回して引き抜く、その画面はWeb小説投稿サイトに公開された『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』のページ、そこから一冊の本を取り出した。そしてそれをバッカスに手渡す。

 

「古書店『ふしぎのくに』というのは、名前だけじゃないんだね……驚いたよ」


 バッカスは片手で本を開くと、空いている手でスプーンを握ってカレーを掬って食べる。


「君たちに問いたいのだけれど、光と闇って実際のところ相関関係はどう思う? 果たして対、あるいは対等な位置付けだろうか?」

 

 とても難しい質問をバッカスはふっかけた。鳥が先か? 卵が先か? という物である。


「光がある所には闇があるのですよ! 表裏の関係じゃねーのですか?」

「確かに可愛い坊やの言う事は正しいけれど、完全な暗澹であれば光は存在しないし、逆に強烈な光の前では闇は存在し得ないじゃないか? 光は熱で、命だよ。闇は冷たく無に近いよ。ならそれらはどっちが起因で成り立ったものだと思う?」

 

 セシャトはカレーライスのルーとご飯を一緒にしてそれを口に運ぶ、


「光と闇が混ざる事をケイオス、混沌などと言いますよねぇ? 現実は光と闇が物理的にも、アストラルな方面からも感じられる世界です。夜が来て、朝が来ますね! 私たち、混沌の視線からすれば光と闇は同一視、あるいは常に対にある物です! 対にあるもの、反発するもの、反応する物、同化する物、それらは大抵仕組みを持っています。システムなんて言われますよね? それは闇起因だったとしても、光起因だったとしてもそれらがそういう仕組みであるという事は結果として存在しますね! 結果としてそれらを認識しようと思うとどうしても片方が必要になってきますので、私たち知性ある存在の認識下では共依存の関係にあるんじゃないでしょうか?」

 

 セシャトが、あえて、神様やバッカスのように深く考えて話をしてみると、お代わりとお皿を上げる神様がこう答えた。


「そんな物先に何にもない無、闇が生まれたに決まっているであろう! が、しかし闇から光が生まれたとして、親と子が対等の関係にあってもおかしくは無かろう。対になる為に闇が光を生んだのだ。本作ではどうかは知らんが、そういう考えでいえば闇はあらゆる事象の祖であると言えなくもないの」

 

 大盛りのカレーライスを受け取ると、福神漬けとらっきょうを皿にこんもりと乗せて神様は大きく口を開けてそれを食べる。


「して、バッカスよ! 貴様の姉が元々住んでいたのは図書館だったな? 迷宮図書館なる場所に行くらしい。学校なのに図書室ではなく図書館があるとは、大学みたいだの!」

「ヨーロッパベースだからじゃないかい? 日本に比べて海外は規模が凄いからね。話の前後を読むに迷宮図書館は博物館や資料館的な位置付けなんだろうね。ダンタリアンがいそうだ」


 全員が一升瓶を抱いて眠るピンクのロングヘアを思い出して一瞬考える。さんざん彷徨った先に見つけた図書館に彼女がいるとちょっとアレだなと。


「ふふふのふ! 学長さんとダンタリアンさんは仲良さそうですよね!」

「面倒臭い奴に面倒臭いやつを合わせると、けい、おーす! なのですよ! にしてもフェイのやつはなんだか憎めねー造形なのですよ。妖精というわりにノルンは人間臭すぎるのに対して、フェイは一連の行動と、同じ三妖精の中でもとりわけ妖精らしいくらいあるのですよ!」


 悪戯好きから始まり、物事の理や超常の擬人化として妖怪や妖精という物は生まれた経緯があるからして、フェイのように気分屋で、我が強い物として表現されているのは普通であって、かつ実在したらこれほどまでに厄介で、関わり合いになりたくない人格もいないだろうが、創作物。物語として読む上ではどうしても魅力的に思えてくるのだろう。


「妖精というより、どちらかといえば仙人とか神に片足突っ込んでいる存在としてノルンくんは造形されているのかもね。名前も北欧や東欧とかで女神に冠する名前だしね。で、そんなノルン君も注視しているのが、みんな大好き学長君だ。彼は案外規格外の人間というだけかもしれないし、やっぱり仙人的な位置付けなのかもしれない。これ案外使い分けができていい配置なんだよね!」


 すき焼き風カレーという事で、アクセントのトマトが甘く、薄めの牛肉がしっかりと味が染みるそれを食べながらバッカスが創作論について語った。

 

 学長系キャラの使い勝手の良さと危険性。現時点の話数ではただ謎の人物として扱われている彼、今のところ彼がいるだけで、人間を優に越えた存在である妖精達への抑止力になりうるネームバリューがある。現実めちゃくちゃ強力な魔法使いなんだろう。だが、そんな設定で彼が暴れ回ると問題が起きてくる。主人公である冬夜やその他キャラが喰われる。これは、Web小説に限った事ではなく、連載中の漫画などでもしょっちゅう起きる現象で、テコ入れの際に突然そういうキャラクターを殺したり左遷させたりとドロップアウトさせなくてはならない。

 

「あるあるだの! 一番面白いパターンはネームバリューの一人歩きという手法もあるからの! 昔一世風靡したラノベがこれを使って読者や映像化した視聴者を騙された! と笑いを誘ったの」

 

 学長の見せ所、見せ方は割と作中でもトップクラスで難しくなる。リーゼに関しては初出において一旦の限界は垣間見れた部分があり、ここで今後のパワーソースはいくらでも振りようがあり、あそこは冬夜の持つ未知の力の読者に全面的に感じてもらう演出バランスが大きい。読者は主人公の冬夜が持つ力に興味を持ち、彼がどんな物語を進めるのかと意識が向いた。

 

「ふむふむ。物語は冬夜さんをベースにされていますからね。学長さんが悪目立ちしすぎると、それはそれで面白いのですが、設定の破綻確率も上がると……物語の創作って難しいんですねぇ! 私は読み専なので、そこまで位置付けを考えないので、皆さんの努力を感じますよぅ!」

 

 但し、一概に悪いわけでもなく、主人公への熱量は上がって然るべきなので、他レギュラーや、ヴィランなどに熱量をとりわけ大きく振る事もテクニックとしては一般的ではある、一つの舞台装置として物語にどう作用していくのかあらかじめドールハウスのように仕組みを作る小説と違いWeb小説はライブ感がとりわけ重要であり、所謂。

 

「作者が物語に引っ張られるという環境も普通にあるんですよね。行き当たりばったりで処理していく楽しみもあるのです。またそれをキャラクターが一人歩きしたと勘違いする連中も大勢いるくらいですから」

 

 キャラクターが一人歩きをするという作者。Web小説を書いている人程異常なレベルでよく口を漏らすのだが、それは実のところ作者である貴方の素晴らしいセンスであると回答しておこう。

 身も蓋もないが、現実にキャラクターは一人歩きしない。物語という世界があり、設定という道と、作者である補助装置が働いてようやく動く事ができるわけで、勝手に動いていると勘違いするのは、動かしているではなく、理想の造形が完成したかあるいはその形に到達したからに他らならない。

 

「本作においては三人称でかつ神の視点で書かれているので、同時にいろんな場面を動かせる分、矛盾への対処が大変だったりするからの。あと読者の意識と認識がついていかない場合があるから、一般的にはラノベの一人称で主人公の目線というのがライブ感という意味ではストレスがかかりにくいのだろうの、さらに突っ込むんだ話をすると作者のセンスが、時代を先取りしていたという物もかつての小説群にはあったの! これを貴様らに言って委いのか分からんのだがな? この作品の一つ、面白い点を話しても良いか?」

 

 神様が四杯目のカレーライスをおかわりする時にそう話し出すので、セシャトやマフデトはもとより、バッカスもまた……。

 

「聞こうじゃないか、神君」

 

 と、水を一口飲んだ。

 

「この物語、話がトントンと行き過ぎているとは思わぬか? よく言えば展開が早い。悪く言えば、キャラクターが動かされているようにしか取れないわけだの。デビューした新人が一番最初に編集に指摘点として言われる言葉の一つでもあるの。しかし、その全てをワイズマンがいるから! と言えば一つ納得できてしまう部分があってな? 管理者がいて、各種駒がそうなるように動かされていると考えて読むと少し深くないか?」

 

 深読みしすぎ沼にハマったような意見ではあるが、学園長以上に謎の存在であるワイズマンなる現時点の絶対支配者になり得る者がいるわけで、今後の展開に古書店『ふしぎのくに』としては期待したくなる。

 読者は作者以上に作品の事を読み理解し、勝手に感想を述べる厄介な生き物なのである。

 そして全書全読の神様はその筆頭であり、今や五杯目のカレーを食べようとして……

 

「ぬぉおおおお! もうカレールーがないではないかっ!」

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