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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ
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ラノベとは時にイラストを表現する文学である

 夕方16時、棚卸し後、短期営業開始前、ドアを開けてマフデトが顔を出すと、既にプロのせどらーが列をなしている。

 

「てめーらもご苦労な事なのですよ。ちゃんと価値のねー本もクソ買って行くのですよ! 豚どもめ」

「おっ、マフちゃん。今回いい本入ってるの?」

「うるせー! 自分の目で見やがれなのですよ!」

 

 ふわふわと対応してくれるセシャトさんに対して、このめちゃくちゃ口の悪いマフデトもまた名物的な店主だった。

 そして、ドアを開く。

 

「古書店『ふしぎのくに』今年の棚卸し開店なのですよ! クソせどらー共! 好きなだけ買っていけなのですよ!」

 

 狭い部屋に十四、五人の常連せどりが、本を次々に籠に入れていく、そして目玉商品である3冊は一瞬にして発掘された。

 

「くっそ、早すぎなのですよ!」


 人数が多いので、手伝っていたバッカスが売れた本を見て嬉しそうな顔をしてこういった。

 

「お目が高いね。お客さん。“涼宮ハルヒの憂鬱の初版極美品“、そして“川端康成の文学日本全集“、それよりも今回一番今希少価値の高い美品の競走馬写真集、“夢を駆ける“を見つけるだなんてね! おめでとう!」

 

 ほか2冊が二、三千円程の中、数万の価値があるその写真集を購入したせどらーは20冊程、価値のない文庫小説を購入してくれる。

 ものの30分程であれだけいたお客さんがいなくなり、17時には本日の営業はクローズとなった。

 

「バッカスさん、お手伝いありがとうございました! 普段はもう少しフレンドリーなお客様達ですが、美人のバッカスさんに少し緊張されていましたねぇ」

「そうかい? 私も君たちと『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』の続きを話したくて、しゃしゃり出てしまったよ」


 軽くはたきをかけて、バッカスはクローズ作業も手伝うと、マフデトの肩をトントンと叩いてからこう言った。


「可愛い坊や、少し夜や夜食の買い物に行かないかい? 次は私がご馳走しよう」

「……まぁ、何度も断るのは逆に失礼なのですよ。今回はありがたくご馳走になるのですよ!」

「ふふっ、愛らしい。じゃあ行こうか? セシャトくん。少し、君の兄上をお借りするよ」

「セシャト姉様、行ってくるのですよ!」


 片付けが終わったセシャトはそれを聞いて微笑んで頷く。


「はい! ではマフデト兄様、私は神様とお皿とか用意していますねぇ!」

 

 二人は古書店『ふしぎのくに』を出て、少し黙ってしばらく歩いた後にバッカスは独り言のように話す。


「作品において、挿絵が挿入されたわけだけど、これは文章を書く前に用意された物なのかな? 可愛い坊やはどう思う?」

「マフデトでいいのですよ。バッカス、このやろー! でもそうなのですね。イラスト使う際は複数パターンがあるのですよ」


 文章、あるいは確定している描写に対して、イラストを用意するパターン、これだとやや時間がかかるが、違和感のないイラストを差し込むことができる。

 次にイラストを用意してから文章を書くパターン、これも同じく違和感のないイラストを差しこむことができるが、状況によっては前後の情景や描写との整合性を取るのが難しくなる為、より時間がかかる。

 そして、ある程度構想している描写に対してイラストを先に用意しているパターン。本人であれば自然に描写ができるのであるが、第三者がイラストを用意した場合、依頼主と絵師との認識の差異が生まれる。

 

 そして本作は、書き手と絵師が別に存在する作品である。リーゼがセリフと共に扉を開けるシーンがリンクしているので、最初か二番目か、効率良く作品を作るとすれば最初の方法を選ばれるのではないかと思われる。

 ちなみに、当方は第三の先にイラストを用意する手法を良く使う。イラストと自分の認識の差異を文章で修正すればいいだけなので、自分の文章と認識のずれが絶対に許せないという方以外は最高速で作品制作の効率を重視する際はオススメしよう。あと、イラストを見て文章を書くという訓練にも使えたりするので表現力の幅が広がったりする。

 

「この表現おもしれーのですね。美少女ゲームから飛び出したようなって部分なのですよ!」

 

 なんという事はない表現なのだが、今まで当方は挿絵の強みという物を何度となく解説してきた。今回は、リーゼのイラストを見て、マフデトの言ったセリフを合わせて読むとこれ以上にない表現と変わる。方や、イラストがない状態で先ほどの表現になると、いまいち筆不足である。

 では次に、あのイラストの後に例えば、“冬夜が現状を理解しようとしている時に開かれた扉の先、そこにいた少女に目が釘付けになった。細い銀の髪をポニーテール。きちんと着こなした制服はより彼女の魅力を際立たせ、女性的輪部を強調する。光が控えめになるような錯覚を起こす程に彼女を見つめてしまう冬夜。そんな冬夜に彼女は澄ました微笑で語りかけた“

 とかイラストありきで長々と描写されていると少しくどい。

 そういう意味ではイラストを上手く使って文章を省略したといえる。文章理解よりも視覚効果からの理解の方が万人には同一理解させやすい。さらに言うとこれがライトノベルなのである。

 より深い事を言えばイラストを読ませるのがラノベと言ってもいいかもしれない。

 

「なるほどね。イラストを読ませるか、私のように文学沼から来た者からすると目から鱗だよ。そう言われれば認識が変わってきたよ」

 

 文章を読ませる事に重きをおいている書き手の方がいれば、ライトノベルという物の独特で奥の深い造形に関して、イラストを読ませる書物という視野を広げて見てはいかがだろうか? 

 詩集に童話に私小説にラノベと、そもそもの畑が違うのだ。それを比べるの異種格闘技と言えるだろう。

 

「それ故に、この手法でいくと、学校の情景説明は少し足りねーのですよね」

「そうだね。中世ヨーロッパの城内表現は少し手抜き感が否めないね。もちろん、ニュアンスは分かるけど、ウクライナのように石造りの要塞なのか、スコットランドや英国のように洋館調なのか……多分ここだろうね。あるいはドイツのように仰々しい豪華さのか、この手法を取るとすれば一つの解は、西洋館と一括りにしてしまうか、あるいは迎賓館のようなとかでもいいのかもしれないね」

 

 文章から読み取ると、美術館のようにもとられ、手入れが行き届いた庭園にグラウンド、そしてこの場所は二つの世界が交わる場所。

 これを現実世界に照らし合わせると赤坂の迎賓館あたりを想像するのがやはりベストだろう。あそこのコンセプトは和洋の異世界であり、日本人の想像するヨーロッパの世界。

 

「一話の中に短所と長所が同時に存在してるのですか?」

「この作品に限ったことじゃないけどね。挿絵を使うときは挿絵を全面的に使って説明を減らし想像力を掻き立てる。代わりに文章のみの場合はくどい一歩前くらい説明をこらした方が磨きはかかるよ。これは少し訓練が必要なんだ。頭の中で完結してしまっている部分をどうアプローチするか、本人も不慣れな部分が多いと申告しているからね。今後が楽しみだよ」


 マフデトとバッカスは、スーパーの入り口をくぐる、そう。学長とリーゼに歓迎された情景を冬夜の視点で想像すると同時に夢想する。

 

「バッカスてめー、この魔道学園。基本は4つの属性なのですよ。なんだか五芒星とかあるので、五大元素的なイメージがつえーのですよ」

「ふふっ、これは本作の表現で概ね正解かな? 四大元素は哲学、エジプトとかインドとかから伝わった西洋の考え方だね。で五大元素は自然科学、東洋の考え方だ。どうやらのワールドエンドミスティア学園は西洋色が強いので魔法の理論や考え方も力を借りるとか、持ってくるとかそういう物なんだろう。自然科学では外れるという事はありえないけど。哲学であれば外れる事は大いにありうる。というかそういう学門だしね。冬夜君は哲学というか、この世界観から少し外れたところにいるらしい。暗澹、闇だ。門、二つの世界の中に隠された音あるいは鐘? そこが箱庭だね」

 

 現実世界と幻想世界、幻想世界から見ればそこが現実であり、現実こそ幻想、それを合わせ鏡、左右対称として門という文字を使ったバッカスにマフデトはジャガイモを買い物カゴに入れながら、うまいこと言いやがったなと少しだけ納得がいかない。

 

「で? 今日は何を作るつもりなのですか? バッカスこのやろー!」

「君は口が少し悪いね! そこも愛らしいけどね。さて、なんの考えもなしに君がジャガイモを入れたわけだ。そうだね! ヨーロッパでは、カードゲームをする為にサンドウィッチが生まれたという。そしてこの日本とかいう国では小説を読む為に食べられるカレーライスという料理がある。この作品に打って付けじゃないかい?」

 

 食べながら本を読むのは行儀が悪いと言われているが、唯一それが許されているカレーライスは世界中の文化が混ざり合った料理である。

 

「けい、おーす! な料理なのですよ! まさに私たちは箱庭の料理を食いながら続きを話すって事なのですね!」

 

 特売の牛肉に人参に玉ねぎ、そしてバッカスは鯖の味噌煮を隠し味にとカゴに入れた。

 

「神保町とは本当にふしぎな場所だね。時代に置いて行かれないのに、古き良さを残して、ふしぎな、ふしぎな者達が集まってくる。ここなら、もしかしたらワールドエンドミステアアカデミーの学園長が紛れて買い物でもしているかも……」

 

 バッカスがそんな冗談を言った先、マフデトも目が止まる。物語を読んでいる時、物語もまたこちらを読んでいるのである。

 

 一人の若い男が、不適な笑みを浮かべ、買い物を終えていた。材料からすき焼きだろうか? そんな物を見てバッカスは提案する。

 

「すき焼き風カレーにしようか?」

『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』本作第1章が終わりましたね! 現在短編ほどの長さですので、時間があるときに読むだけでも1日で読み終えれると思いますよぅ! 1章は作品の世界観の紹介的な要素が強いのえ、ゆっくりと作品を楽しまれたい方には非常に良いのではないでしょうか? 二月は逃げると言いますが、フレッシュな気持ちで3月を迎えるのい新しい作品を楽しみましょう!

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