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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ
78/126

物語の制作背景を掠み読む読者

紹介小説を書くにあたって、感想やレビューをさながら事件を解決するようにつなげていき、物語を考えます。

ふとある時、思うのです。これって、完全犯罪に使えるんじゃないか!

そしてそれを立派に皆の前で演説すると、あまりにも穴だらけの犯行故に秒で逮捕待ったなしです。

作品もそうで無駄に凝るよりも原始的な方が、矛盾がなかったりするんですよね。

それでは本編をお楽しみください!

「貴様ら、ところで腹は減らんか?」

「確かにお話をしていたらお昼回ってますねぇ! レトルトも足りませんし、今日は何かデリバリーを楽しみましょうか!」


 セシャトが家計から昼食代を出すという事で、神様はスマホを取り出してデリバリーの王様、宅配ピザを所望する。勝手に神様が決めてしまったのでマフデトは念の為に赤ワインに舌鼓を打っている一応客人のバッカスに尋ねる。


「バッカス、てめーはピザでいいのです?」

「あぁ、構わないよ。というかご馳走になるのも悪いのでワインお礼に私が出そう」


 そう言ってクレジットカードをマフデトに渡そうとするがマフデトは受け取らない。


「今日びピザくらいはご馳走してやるのですよ。にしても冬夜の形見である十字架装飾が中々パンクなのですね」

「ふむ、愛らしい君はそう思うのかもしれないけど、ブラックオニキスは宗教上の理由で話すと信仰心や真理などを意味して、本作とは関係ないというかモデルになっているであろうキリスト教ではポピュラーな材料だよ」

 

 冬夜の母親はどうやら信心深いのか、あるいは本作のキーパーソンと関わりがあるのか、老夫婦が妙にフラグを立ててくれているので、そちらを注視しながらバッカスにそう言われ、マフデトは知らなかった事に少し閉口する。

 ブラックオニキス、黒瑪瑙は日本でも数珠に用いられていたり、どうやら世界基準で魔除け的な意味合いがあるらしい。

 ワインに飽きたのか、バッカスはポケットボトルのラム酒を取り出すと、これまた持参したショットグラスにそれを注いで呷る。

 

「初めて学園にいく期待と不安、冬夜は誰にでも経験のある面持ちで微睡んでいるね。どちらかといえば、人間という存在は良い方を先にかんがえがちなんだよ。例えば、宝くじを購入した瞬間に一等が当たった時の事を考えたりするだろう? 彼も今、期待値は最高の状態だね。これはあるしゅの防衛本能なんだよ」

 

 バッカスが度数の強い酒を舐めながら一人で語り出すので、神様は冷蔵庫からなっちゃんを取り出すとそれをコップに入れ、マフデトはウーバーイーツの配達員が今どこを向かっているのかアプリで確認している中、セシャトはバッカスの話に興味津々で尋ねた。

 

「バッカスさん。私は学校という組織に所属した事がないので、今一その気持ちかは分からないのですが、もし! 私が学校にいけたら、お友達と語り合ったりランチを楽しんだりという妄想と同じ意味でしょうか?」

 バッカスはウィンクする。

 

「概ねそうだよ。都合の良い事を考えるのは保険なんだよね。緊張やストレスをほぐす為のね。同時に、最悪の状況を考える人もいる。これはこれで保険なんだよ。最悪より、マシならとりあえず受諾しようというね。こういう飯能ができるのは文化的な証拠だよ」

 

 これらは本作の何処にも書かれていないが、作品や世界観、そしてキャラクターとは創造主である作者を映すすりガラスである。これが高度な文章を巧みに操る有名な小説家であろうと、Web小説の作家であろうと、クセや性癖のような物を垣間見ることができる。

 冬夜は少なからずペシミストではないという事。学園への招待及び召喚に関して前向きな姿勢と態度で目の前のタスク処理に当たっている。彼は主人公タイプでいえばこの時点では確実に巻き込まれ型である。

 いろんなフラグを立ててはいるが、いずれも動揺する程、精神面に負荷がかかってはいない。

 リアルな話をすると、作者は学生さんか、あるいは経済面の出資者がいる環境に身を置いているのだろう。学生のキャラクターの動かし方が非常に自然に学生なのだ。

 

「それって、狙ってもできませんか? 物語ですから」

「そうでもないよ。成人し、社会的に独立している人間が造形する学生は残念ながら、同じ落ち着き方をしていてもどこか達観しすぎているんだよね」

 

 ネバーランドの法則と当方で誰かが言い出した現象である。小説は他の芸術と同じで書けば書く程に技術も比例して上達していく、それが様々な経験をすればするほどに精神の成長があれば尚早い。

 そうなると、起きうる問題はフレッシュさの欠落でもある。小説を書いていると、書いている途中なのに新作を書きたくなったり、突然自分の書いている物への興味が薄れる現象につながる。

 そして、それらを検証していくと、作品の世界から創作されている背景などが稀に見えてくることがある。当方が紹介した作品の中に突き抜けてぶっ飛んでいるキャラクターが主人公の作品があったのだが、途中からこの主人公の精神は最強の人かなと思える変化が見られた。この時点で作者の生活環境に何か大きなイレギュラーがあったのではと当時のライター各位が作品の補完に入った数日後に作品共々作者もいなくなってしまった。

 

「当然、全部が全部小説から読み取れるわけじゃないよ。ただ、本作の作者は楽しんで書いているとみんな感じているんだろう? なら、精神面はさておき、執筆における生活面に関してはそこまでの問題がないと思えるんだよ。だからこそ、冬夜の期待は、自分の作品への期待と同意と考えていいんじゃないかい?」

「私は物語を物語として楽しむのでその領域からの作品読み込みはした事がないですねぇ……なるほど、確かにそういう読み方もあるんですねぇ、これは読者視点や、執筆者視点の読み取りではなく……むむむっ、なんでしょう」

 

 読者として読み取るセシャトはもちろん書き手として読み取るマフデトも分からない。作品より書き手の精神面や環境面などを読み取ろうとするバッカス。彼女の読み方を理解している一人。チョコバットを出目金型の財布から取り出しパクリと齧る神様。

「批評家や評論家の読み方だの。これらは純文学などを読む時の読み取り方故、、貴様らには分からんか? まぁ太宰なんかを読めば、奴の作品から精神鑑定ができたり、逆に奴の感情から作品が描かれたと逆算して読み取ることができるわけだの! まぁ、要するにただの予測だから貴様らには慣れないわけだの」

 

 四年ほど、Web小説の紹介を行なっていて、作品を深読みする事はあっても、創作背景に迫った事は今までなかったのだ。紹介小説は作品を読み込み、ただただ多くの感想を集約した物を語るわけなので、文学作品が出来上がる背景についても考えていきたいと思う。

 

「それって、私やセシャト姉様にはできない読み方なのですよ。紹介する上では、間違いない事を極力語る必要があるのですよ。まぁ、聞き手に回るという形式では悪くはねーかもしれねーですけどね。物語の方は学園のリーゼが、冬夜を迎えに行くところから、なにやら不穏な空気を感じるのですよね!」

「えぇ、マフデト兄様! この学園長さんがちゃらんぽらんな感じとかベタでいいですねぇ! 大体こういうパターンはなんでも押し付けているのは信頼の裏返しで、一番大事なところは学園長さんがカバーしてたりするんですよね!」

 

 よくいるキャラクター、いわゆるテンプレート的な造形である学園長と生徒会のリーゼ。彼らは物語を潤滑に進めるレギュラーキャラでありながら、いわゆる語部の役目も持っている。三人称で神の視点で進む本作において、冬夜は読者と同じく、なんの情報を持っていない。さらにいえば、三人称である分、彼の感情に関しては半分程度の情報して入ってこない。

 

「そこで、学長とリーゼ君な訳だ。イベントのフラグも彼らを起点として、そこに巻き込まれ型の主人公である冬夜君がしっかりとそのイベントスイッチを押してくれるわけだよ。三人称の小説は描写の表現が細かく行える分、風呂敷を広げすぎる傾向がある。そこで問題だよ! この作品と少しシナジーがいいんだ? わかるかい? 可愛い坊や」

 

 ラムの香りを嗅ぎながらバッカスがマフデトに質問をするので、マフデトは目を逸らしてスマホで本作を読む。

 視点は冬夜に変わる。彼はバスから降り、リーゼが不穏な事を言ったフラグのスイッチを踏むことになるのだ。

 お手本のような物語の流れを組みフラグの回収が場面切り替えで行われる。

 

「これも作品の一話が短いからなのですよ。流石に私でもわかるのです。本作は長編でありながら、擬似的に一話完結している短編連作なのです。冬夜が危険に晒されたというところまで読者が読めればいいのですよ。おそらくリーゼが助けに行く、あるいは学長が先手を打つのでは? という期待を持って一旦思考のリセットなのです」

 

 一長一短ではあるが、物語の世界からリセットされる事で現実に戻される短所がある中、短編連作として次の単話に入るのはフレッシュな気持ちで読み疲れが起きにくい。

 

「まぁ、あれだの。実際の本の長編に比べてWeb小説の長編は割と読み疲れる事が多いからの、単話ずつで読み進めていく方が読まれる可能性が高いわけだの。私はテクニックの話はあまり好きではないが、面白いくらいに本作の作者は意図していない部分で三人称である事、ショートストーリーである事、一番の謎であるメイのくだり以外は割と早く伏線回収される事。以上がストレスを極限まで軽減されておる作りになっておる」

 

 できる限り簡潔に読んでもらいたい部分を強調しているのだろうが、十分丁寧であると言える。そして神様とバッカスの非常に斜め上からの視点で読まれる事で本作がWeb小説における新しい形式の一つである事も見えてきたセシャトとマフデト。

 さて、続きをと思った時、母家の奥側のインターフォンが鳴らされる。そう、本日の昼食である宅配ピザが到着したのである。

 バッカスは折り畳んだ一万円札をマフデトに手渡そうとするが拒否する。

 

「テメェは客だって言ってるのですよ! 食べながら次の話をするのでそこで待ってるのですよ!」

 そう言ってマスクをするとマフデトは裏口にスマホを持ってピザを受け取りに行く。

『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』皆様はどの程度読まれていますでしょうか? もしかすると読み終わり更新を待たれている方もちらほらいらっしゃるのではないかと思います。物語も大変、王道のストーリーで楽しまれているかと思いますが、Web小説ながらの自由度やテクニック、そして創作背景などを一度考えて読まれてみても面白いかもしれませんよ? 2周目はこの時はどういう気持ちで魅せに行っているのかな? とか考え出すと少しワクワクしませんか? それでは次回もお楽しみに!

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