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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
2021セシャトのWeb小説文庫小説文庫
71/126

第三話『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』

文芸部の三人とプライムは広いテーブルに陣取ると、この店の人気のメンチカツ定食を注文する。そして、Web小説の読み合い会が開始される。


「プライム、私がお前に教えてやる話は『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』って話だな! この作品は異能力があるわけでもないし、なんなら現ファン、それも人情系の作品だな。とりあえず読んでみろよ!」


 プライムは再び、何もない頭上に手をやると一冊の本を取り出す。どういう手品なんだろうと三人は思うが、ペラペラとめくり始める。

 

「ほう、修道女の話か、それも少し喧嘩っぱやいか……ハハッ、吹きよるわ! フランチェスカ、理穂子貴様のようだな!」

「はっ? 喧嘩売ってんのかテメェ」

「ははっ、吹かすな理穂子、せっかくの美形が台無しになるぞ」


 そう、部長満月さじとミーシャは狂犬茜ヶ崎理穂子を殺すのに刃物はいらない事を知った。イケメンが口説けばいいだけだった。定食が四人分用意された事で本作を楽しむ為の入りを部長、満月さじが語る。


「登場時ははちゃめちゃなフランチェスカの世直し旅でも始まるのかと思いきや、これが実のところちゃんと聖職者としてしっかりと人々を導いてる事に正直驚くんだよな」


 これほどまでに分かりやすく、キリスト教はこんなだよ! と説明しているラノベも珍しいだろう。着目している部分が実に面白い。

 なんでもそうだが、作品の一環したテーマが存在するという事の強みを本作を読んで非常に勉強になる。


「後書きの使い方がまともだな。Web作品においては珍しいくらいある」


 後書きで、用語説明や、作品の小ネタを記載する事で知っている人は、思わずニヤリ、知らなかった人はそこで勉強になる。なろうなどでは後書きでブックマークや感想などを希望したりするコメントを載せることが定例となっているが、本作の作者・通りすがりの冒険者氏は作品の完成度への並々ならない熱量を感じる。


「あれだろ? 要するに、最後まで物語の世界の中の余韻を感じられるってやつだ。結局のところ、書き手は物語をいかに演出するかにも限ってるからな。作品内容で勝負するこの作者はすげーんじゃねーの?」



 理穂子はそう言い、プライム、部長さじと大体同じ意見となり頷く。物語を読ませる為の宣伝、演出、いずれにしても大事である。当方は頭のおかしなライターが達が前書きで悪ノリするのが流行っているが、あれは演出ではなく悪ノリである。


「安藤次郎、この飾らない主人公に関して、何か申してみよ。そうだな……ミーシャ! このカロリー以外何も考えていないような揚げ物を食べる間、話すことを許す」


 ソースを少し多めにかけるプライムにミーシャは三人に罵声を浴びせられる事を覚悟して話をする事にした。


「安藤くんは、なんという僕は他人とは思えない既視感を感じるんですよね。フランチェスカさんが、正直ぶっ飛んでるんで、彼女と均衡が取れているというか、ベストパートナーではないかと……とここまでで何か罵声はありますか?」


 恐る恐るミーシャが三人を見ると、名物のメンチカツをサクサクと食べながら……


「「「あーーーーーー確かにな」」」


 ミーシャは空気を読む、安藤くんも空気を読む。実際、この手のキャラクターは動かしやすく、実際のリアルの話をしよう。

 女子からモテる。いわゆるマスオさんに倣うというアレである。欲しい言葉、欲しい行動をしてくれる男子の破壊力は中々のものなのだ。


「なるほど、学生の内からジゴロという奴か、罪作りな男よのアンジロー。最初は都合のいい子分程度で扱っていた割にこのフランチェスカもいつの間にやら、憎からずと変わっているな、ハハッ、色気付きよって」


 文芸部の三人は、プライムがフランチェスカも安藤次郎くんも実在するかのように読み楽しみ、三人に語るので、段々目の前のプライムが年相応には見えず可愛く思えてきた。


「しかし、フランチェスカのやつ、所詮は女子だな」


 おっと、プライムが突然、昨今問題になりそうな言葉を発する。それに反応する文芸部の紅一点。


「どういう事だテメェ」

「神の御使いでありながら、しっかりと人間として、女子として、女らしく魅力があるな。個人の感覚で誰かの為に泣けるというのは人間の感性であろう?」

 

 女らしい、男らしいという言葉、これを差別だなんだという奴がいたらもうそれは人間として生活するのをやめた方がいい。実のところ最高の褒め言葉なのである。素敵だという言い方の最上級とでも言おう。それを否定するのであればお父さん、お母さんという言葉も差別用語になり、遺伝子提供者Y、遺伝子提供者Xとでも言わなければならない事になるはずだ。

 そう、フランチェスカはいつもみんなを期待させてくれる破天荒な美少女だが、しっかりと乙女であり、女の子なのだ。悲しい時は涙を見せるし、そして安藤くんにも頼るし弱いところも見せてくれる。


「まぁ、ヒロインの鑑だよな。理穂子とはえらい違い……ゴフッ」


 フランチェスカの萌えるポイントは彼女は破天荒だが、知的なのである。なんのかんのと言いつつ彼女は自分なりの解釈で神の教えを人々に説いて回る。フランシスコザビエルの末裔、いや……。


「あのカッパよりも確実に真っ当だよな」


 クリスチャンである満月さじがそう言う。日本人は宗教を否定はしないが、陶酔はしない。礼儀の一つとして宗教作法を用いる。それ故、信者を死に物狂いで集めようとする連中よりも、フランチェスカのように、人が喜ぶことをして、人が嫌がる事をしないという宗教の本質を実行する彼女への支持は大きい。


「フランシスコザビエルはスパイだからな、かたやフランチェスカは来たくて日本に来ているだろ。根が違うんだよ。まぁ、フランチェスカが日本人臭すぎるという部分もあるわけだけどな」


 理穂子とさじの会話を馬鹿にするようにプライムが嗤う。何を言っているのかと言った風に野菜を端に避けながら水を一口。


「貴様らは本質を読みすぎて、現実を読めていないようだ。子どもらしいわ」

「「お前にだけは言われたくねーよ!」」


 揚げ物だけ食べて、野菜は食べない。物語を心から楽しむ小さい子みたいなプライムに言われる筋合いはないと二人は言ったが、完全に盲点を返された。


「貴様ら、一つ問おう。本当にフランチェスカのような日本人が平均的にいるか? 人種はいいとして、スタイルがいい、これも良しとしよう。が、何でもかんでも首をツッコむお節介。ノブリスオブリージュをモットーに、無償の愛を与え、施すことを厭わず、陽気な者がこの日本に平凡におるか?」


 先に答えよう。

 いない。創作上のキャラクターとしてはこれらはよくいるのかもしれないが、日本民族は基本的に保守的である。これらは不安因子のない陽気な外国の人々を見た日本人の憧れが生み出したキャラクター性である。

 要するに、フランチェスカは日本人ではない以上存在し得るのである。

 再びプライムはソースを取り出すと、野菜にドバドバと、不健康なレベルでかけてそれを口に運ぶ。最後に味噌汁とご飯を食べ、ミートファーストの食べ方を見せる事で、この食事ですら物語に準じていた事に二人は唖然とした。


「……プライム。お前、ウチの高校にこないか?」

「あぁ、クソムカつくけど、悪くない読み方じゃねーかよ! 私も気に入った。ウチの高校きて文芸部入れよ!」


 二人の歓迎、そしてミーシャも笑って話す。


「プライムさん、留学とかですか? 僕も歓迎です! 一緒にWeb小説読んだり書いたりしましょ!」


 まさかの展開にこれにはプライムも言葉を失う。出された食事を綺麗に食べ終わったプライムは少し考え、そして答える。


「祖を欲するか、人間らしい矮小でいてそして最善の選択と言えような? が、祖を求めるに人間はまだ早すぎる。フランチェスカは他者の為に与える無償の愛が自らの祈りであると、そう謳うように、もっと多くの徳を積め人間よ。さすれば、フランチェスカが崇める者ども、原初の人や、聖母程度にまで上り詰めたのであれば、祖の扉が開くと知れぃ」


 シスターという物をプライムは難しい言葉で説明してみせた。修道士はいついかなる時であっても、物事の理より、人の喜ぶ正しい道を気づき伝え、行動し、健全な精神を養う為にある。

 そう、キリスト教という宗教を崇める為ではない。

 本質は、正しい事を正しいと説明し、行動しなさいという教えである。最初にそれらをおこした人々は実のところ徳という物が高かったのだろう。というより、当時で言えば他の人より社会性があったという事。

 これは鎌倉幕府でもあまりにも粗暴な鎌倉時代の国民や武士達にお触れを出した事にも通じる。


「要するに、もっとお前を楽しませれば転校してやるってことか? おい!」


 理穂子がプライムの頭の王冠を指でつつく、それにさじも同一と理解する。そう、プライムはこの三人と物語を語ることが楽しいと思い始めていた。


「そろそろ、混んできそうなので、出ませんか?」


 お会計をお願いし、店を出ようとした時、同い年くらいのカップルが文芸部とプライムの横を通る。

 

「アンジロー! 東京に来たら、絶対ジローでご飯食べるって私言ったわよね!」

「そうでしたっけ? スマトラでカレーとか聞いた記憶が……」

「うっさいわね! アンジローとキッチンジローよ! プッ! アンジローと、キッチンジローって!」

 

 普通の少年と、二度見してしまうような可憐な美少女の組み合わせに、人々の視線は注がれる。しかし、別の意味で唖然としている理穂子、さじ、そしてミーシャに対してプライムは言った。


「貴様ら、よほど食うに困っているか? 食事を終えたのであれば、席を立ち、あとは汚さぬ、ケモノでもできる事だ。そう、少々の奇跡を見た程度で、足を止めるな。行くぞ!」

 

 そう言って強引に三人を引っ張っていくプライム。

『見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る 著・通りすがりの冒険者』

 今年紹介した中でも少し異色な現実ファンタジー小説です。昨今の作品の中でも本作はこちらを推した理由はWeb小説の組み立て方や作り方において、内容が面白いのもあるんですが、実に楽しく書かれている部分に着目しました。書かされている強迫観念のような物に疲れた方は一度読んでみてはいかがでしょうか?

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