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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
2021セシャトのWeb小説文庫小説文庫
70/126

第二話 『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』

 神保町……そこにサングラスをかけた三人の美女が一軒の店の前で足を止める。

 香ばしい揚げ物の香りが食欲を刺激する。


「とりあえずここで食事にしないかい? リィグヴェーダ。心配せずとも我らがプライムはあの人間の子らと楽しくやっている。そうだね、ここはリィグ、君の好んでいた物語の話でもしようじゃないか」


 店員がメニューをとりにくるので、先ほどから話していた美女、バッカスはこう伝える。


「メンチカツの定食を三つ。あとビールも三つ」

「夜はクリームコロッケを追加で所望す」


 黒髪の美女はそう言って追加注文。


 かしこまりましたと女性の店員が下がろうとするので、バッカスは千円札をチップとして払おうとして断られる。


「ふぅ……ステイツとは勝手が違うようだね。さて、じゃあ『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』、リィグの好きな海外調の作品……まぁこの作者の持ち味は歯に浮く昔のハリウッドのような言葉回しだね。実に小気味いいんじゃないのかい?」


 バッカスが主導で話を進めるので、聞き手に回る黒髪の女性。が、この作品のファンであるリィグはいい顔はしない。


「バッカスさんは色眼鏡で作品を見過ぎですねぇ! 単純に本作はWeb小説のギリギリを攻めているところに感慨深さを感じると思うんですけれど? 倫理観もギリギリ、表現方法もギリギリ、なんなら世界観もそうかも知れないですねぇ! まず、本作の素晴らしい所は機械、そして人造人間としての兵器ですよぅ! これは現在のアメリカの本質をついていますぅ」


 始まったなという顔を一瞬したが、バッカスは話を聞く姿勢する。できる限り話してが心地よい形で手を出して続けるように促す。


「まず作者さんが今どきの子だという事がよくわかりますねぇ! 敵はインディアンじゃないんです! ナチスでもない、宇宙人でもない。そう! テロリストです! これは今のアメリカ映画です それも兵器がAIロボット兵器と、人間を兵器に組み込んだ殺戮人形共ですよぅ! なんと素晴らしいんでしょう! クソッタレな今の時代に警鐘を鳴らすようなありそうでなかった作品です」


 実際、ラノベも年々レベルは上がってきている。そして一部この手の戦争物は時代を選ばない強みもある。そこで初めて黒髪の美女ニュクスが作品に対して口を開いた。


「のぉ、一人で興奮しているところ悪いが、夜はちと、この作品思うところがあっての?この作品のタイトルにある矜持、果たして殺戮人形とやらには矜持なんて物があるのかの? 夜は思うのだよ。バーンズ、彼だけがこの御伽の国で夢を見ていない。さすればとの」


 本作において最大の怨敵バーンズ。ビックバンという組織と共に彼のカリスマと意思に従った兵隊達が数多くいたが、彼の真意を理解した者がどれだけいたのかは分からない。


「ニュクス、夜の女王が聞いて呆れますねぇ! 作中にもあるでしょう? バーンズは死しても尚、その強烈なカリスマと意思は引き継がれるんですよ。簡単に人造人間の話ではなく、私は殺戮人形の矜持とは、バーンズが神格されたその事も含まれていると私は思いますけどねぇ、もしそうなら作品の見え方が変わってくるでしょう?」


 これは完全にリィグヴェーダの勝手な読み込みでしかない。しかし、主人公カイル達、ドールズが殺戮人形か? と聞かれると少しナンセンスである。彼らは戦闘兵士として育て叩き上げられたとはいえ、今の言葉で兵士に殺戮という言葉は似つかわしくない。


「お待たせしました……こちらメンチカツ定食と、ビール。クリームコロッケです!」

「ありがとうレディ」


 ウィンクをしてお礼を言うバッカスはナイフとフォークを持ってからリィグヴェーダの話に続いた。


「なるほど、リィグの考えは面白いです。東京ドールズというゲームでは殺戮人形という言葉が彼女達ドールズには相応しいと思いますが、組織で動いている本作のドールズは殺害であったとしても殺戮ではないですね。かたや、バーンズの意思を歪んで受け取った連中が行う事はまさに殺戮、そして彼らはもはやいないはずのバーンズの影を信仰し、行動する魂無き人形ですね」


 そう読む事で、見えてくる別の表情。本作の闇は一枚看板ではない。これはドールズ達にも言えたことで、カイル達、彼等は下手すると普通の人よりもトラウマを持っているかもしれないと思える描写の数々。


「そうでしょう? バッカスさん。本作はドールズ達の矜持も、バーンズ傀儡である心棒者達の矜持とも思えてくるのですよぅ! きっと、こんな灰色の作品はプライムがお喜びになる事この上ないでしょう。あぁ、プライム! あなたに本作のお話を聞かせながらこの口に溶けるメンチカツを食べさせてあげたい!」


 そう言ってナイフで小さめに切ったメンチカツを口に運ぶ。ニュクスと呼ばれた女性が大きな口を開けてクリームコロッケを食べる。それはあの神様と同じ表情で、そして二人に問うた。


「総評としてはどう思うのだ? この麦酒の肴くらいにはなろう?」


 まとめろと、ニュクスはそう言う。食事の最中に一度もビールに口をつけなかったニュクスが食事を終え、物語で一杯やろうというのだろう。

 面白い作品はどんな至高のツマミよりも酒が進む。


「そうですねぇ……この物語を一言で掻い摘んで表現するのであれば、喜劇、狂言の類、わかりやすく言えばミュージカル……でしょうか?」


 悲劇ではなく喜劇と言った。それにはニュクスは当然の如く、バッカスも酒を飲む手を止めさせた。


「興味深いね」

「続けてよし」


「出てくる登場人物が、滑稽なんですよ。このクソッタレな世界観に翻弄されている。でも、その中で彼らはもがいているでしょう? きっと一番答えに近かったのはカリスマバーンズさんですよぅ!」


 彼の手の上で踊っているのか? いや、世界の答えに翻弄されているのか? いや、そんな中で自らの矜持を捨てられない、いや、それにしがみついていなければ自分を損なってしまうかもしれないという不安定なキャラクター達。彼らは必死で今を生きている。


 されど……


「運命は嘲笑ってくるということか……作者、いや神の意志が今のところどこにあるのかは分からない。されど、こやつらは……いや、正解に近かったバーンズですらそれをなし終えた時、自分を損なうかもしれないという事か」

「ドールズ達のイカれた立ち振る舞いも自信のアイデンティティを失わない為だとすればその個性が自分を人間であると思わせる最後のリミッターだね」


 プライムの三柱は、某洋食屋でそんな事を話ながら、各々のジョッキを掲げる。


「願わくばカインに安らぎを!」

「バーンズに!」

「貴女達、ここは『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』再開を願って! でしょ!」

 

 三人はジョッキをつけるといった。

 

「「「乾杯!」」」

 

 それは満ち足りた時間だったのかもしれない。揚げ物専門の洋食屋で真昼間からビールを煽る。そして東京でも人気のメンチカツがそのオツマミなのだ。


 バッカスとリィグヴェーダは上品に、ニュクスは元気よくかっくらう。

 どのキャラクターが好きなのか、ミラについて熱く語るバッカス、いかにこのクソったれな世界で彼女をより可愛いく表現しているのかを饒舌に、ニュクスはカイルという主人公の主人公らしさ、圧倒的なチートとそれに反して彼の弱さを評価した。

 そして当然と言うべきか、今回のテラーであるリィグヴェーダは本作の最大のカリスマ、バーンズの魅力。彼の人間掌握術、いや屈服術とでも言うようなそれはまさに王のようであると



 だが、美麗な彼女らがそんな話を真剣にしている姿というものはそれこそ異常であり、滑稽であり、喜劇のような、狂言のような物にしか見えない。

 食事を終え、バッカスが全員の料金を支払うとレジにした店員の女性にウィンクする。


「美味しかったよ。これ、経営しているバー。一杯奢るから遊びにおいで」


 そう言って店を後にする。台風のように現れ、去って行った三人に店員も店の客も一時呆然としていたが、再び営業、食事が開催される。

 そんな場所にやってきたのが……


「ほぅ、狭い店だ。貴様ら下々の者が実に好きそうな香りがしているな。良い! 出されたものを食すのもまた支配者の務めよ。好きに選ぶがいい! 」

「プライムてめぇ! ウルセェ! 黙っとけ! 私らもおかしな奴らに見えるだろうが!」


 また面倒臭そうな学生が、より面倒臭そうな子を連れてきたなと、店員と客は警戒レベルを上げる。

 『サヴァイヴ・アライブ ―殺戮人形の矜持― 著・玉屋ボールショップ』本作のご紹介を行わせていただいた時期はこれは程よくパンチの効いた作品だなと思っていましたが、読み返してみると比較的人間ドラマの側面も大きい事に気づきました。時間が経ってから読んでみる事で変わった表情を観れるかもしれませんね! ぜひ、年末に見る映画も無くなった時は本作を楽しんでみてはいかがですか?

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